千の天使がバスケットボールする

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遠藤章氏にラスカー賞

2008-09-15 14:43:28 | Nonsense
動脈硬化の主要原因として知られるコレステロールの血中濃度を下げる薬を発見した遠藤章東京農工大名誉教授に14日、米国最高の医学賞「ラスカー賞」が贈られることが決まった。同賞は「ノーベル賞の登竜門」ともいわれ、日本人受賞者は、ノーベル医学・生理学賞を受賞した利根川進マサチューセッツ工科大教授らに続き5人目。授賞式は26日にニューヨークで行われる。
遠藤名誉教授は東北大農学部卒業後、三共(現第一三共)発酵研究所第3室長、東京農工大教授を経て、現在、バイオファーム研究所長。1973年にアオカビの培養液から発見した血液中のコレステロール値を劇的に下げる物質は、世界で3000万人以上が使うコレステロール低下薬「スタチン系薬剤」に発展した。遠藤名誉教授は米国のウォーレン・アルパート賞、マスリー賞、日本国際賞などを受賞している。

遠藤名誉教授は「開発には十数年かかり、山あり、谷ありの困難があってようやく今日にいたった。国内外の協力がなければ成し得なかった」と話した。(08/9/15)


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昨年、読んだ山内喜美子氏の「世界で一番売れている薬」の主役であり、ベストセラーのコレステロール低下剤の「スタミン」発見の最大の功労者である遠藤氏に、この度その功績にふさわしい栄誉ある「ラスカー賞」がもたらされた。

「当たりのない宝籤」を覚悟して、世界中の6000種の菌類を2年がかりで調べて、1973年に京都の米穀店のコメについた青カビから、宝を発見した。しかし、勤務した製薬会社からは安全性への疑問から開発中止を告げられた。それにも関わらず、遠藤氏は「科学的根拠がない」と納得せずに、2度も決定を覆した反骨の人でもある。3度目の中止を聞く頃には、研究は世界で進められて80年代後半には、その成果の花が開いた。ノーベル賞受賞も期待される74歳の遠藤氏ではあるが、遅過ぎた感もなきにしもあらず。何故、私がそう残念に感じているのか。山内氏の遠藤教授の人となりと業績を紹介した著書は、今般の政治の愚弄のような総裁選を考えるうえでもお薦めである。再掲載↓。

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世界で一番売れている薬は、「スタチン」である。
おそらく殆どの方は、この名前を初めて聞くだろう。かく言う私もそうなのだが、実はこのスタチンが、高脂血症治療薬の総称と聞くと意外な感じもする。
しかしこの薬が世界で3000万人の人々に服用されていて、その市場は年間3兆円と知ったら驚くだろう。現在増えつづける高脂血症患者のコレステロールや中性脂肪を低下させ動脈硬化を防ぎ、その結果、心筋梗塞や脳卒中で死亡するリスクを30%も減少。中でも遺伝的にコレステロール値の高い「家族性高コレステロール血症」患者は、10代の頃から動脈硬化などの危機にさらされたが、「スタチン」が発見されるまで治療方法は殆どなく、40歳の誕生日を迎えることすら難しかった。これほど人類に貢献した薬の発見者が、無名の日本人であることはあまり知られていない。その方の名前は、農学博士の遠藤章氏である。

1933年、秋田の農家に生まれた遠藤氏は、幼い頃に村人たちの怪我の手当てや簡単な病気の治療」を得意として祖父を見て育つ。また野口英世に啓発され、早いうちから「人々の役に立つ仕事」をしたいと志し、貧しいながらも働きながら定時制高校へ進学、ハエトリシメジの研究から推薦で全日制に移り、思う存分勉強できるようになった。その後経済的な理由から両親の反対に勘当も覚悟で、奨学金を得て東北大学に進学した。高校に進学する生徒が殆どいなかった当時の貧しい日本の農村の環境の中で、勉強したいという遠藤少年、青年の熱意と情熱、そして彼を理解して後押しする教師や家族の姿に、豊かな時代に失われた尊い精神を見るような気持ちがする。

その後遠藤氏は三共に就職して、32歳で米国のアインシュタイン医科大学の留学するのだが、当時の米国では年間60~80万人の人々が心臓病で亡くなり、高コレストロール血症患者が1000万人いると言われた。確かに数年前、米国の田舎に研修旅行に行った身内の者の最初のカルチャ-ショックが、「あの国はとんでもないデブが多い」だったことを思い出す。ここで遠藤氏は、小錦クラスの大層ごりっぱな体格の米国人を目にするにつれ、あまり人が注目しないが病気をなおして人の役に立つ、運命的なテーマーを見つけて帰国する。一生に一度の「ワン・チャンス」に出会ったのだ。

本書を読んでもっとも感じたのは、創薬には実に多くの人がかかわるドラマがあるということだ。遠藤氏を理解して研究費などの支援をする製薬会社の上司や地味な実験作業を協同する研究者がいるかたや、勢力争いから遠藤氏を疎んじる流派、そして重症患者を目の前にしてわらにもすがるような思いで開発薬を患者に服用させる医師たち。そこには、患者から学ぶ医師の姿勢も用意されていなければならなかった。世紀の薬は、実に難産だったのだ。

しかしその遠藤氏と多くの人々の努力の果実は、結局米国メルク社にもたらされ、ノーベル賞は1985年 「コレステロール代謝とその関与する疾患の研究 」としてマイケル・ブラウンとヨセフ・ゴールドスタインに捧げられた。この天下の分け目こそが、著者の山内喜美子氏の本書を執筆するに至る日本人としての動機のひとつであろう。またノンフィクションとして読者をひきつけるもうひとつの大いなるドラマでもある。欧米では有用性の高い薬剤「ベスト・イン・クラス」を重視する傾向があるが、一番乗りをした「ファースト・イン・クラス」には、研究者の畏怖と羨望の念がこめられているという。遠藤氏の発見したML-236Bは、まさにファースト・イン・クラスだった。富も名声にも縁がなかった遠藤氏ではあるが、「お金や名声のためにしたわけではない。世の中に役にたつような仕事をしたいという使命感、挑戦したいという気持ちがあってできたこと」と語っているその人柄は、本の裏に掲載されている写真の端正で穏やかな表情からも伺える。

創薬の現場は、古来より「自然から学べ」という基本姿勢から育まれてきた。貧しくとも豊かな自然に恵まれた遠藤少年の身近なカビへの興味の根が、生涯を通じて花をひらいていった。
遠藤氏のコレステロール低下剤を求めてスクリーニングする姿を評して、著者は”まさに人類が進んで自然からの贈り物をその手に掴もうとする姿、神の領域に踏み込んでいく先駆け”と結んでいる。その神の領域は、当初の高脂血症の治療をこえてアルツハイマーや炎症作用と関係する抗癌作用にまでひろがりつつある。
現在、世界の肥満人口は、10億人にまでのぼる。

■アーカイブ
「世界で一番売れている薬」山内美喜子著


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2 コメント

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ここのブログのおかげ (calaf)
2008-09-17 23:39:55
こんばんは。先日新聞を読んでいて樹衣子さんの記事の「あの人」だと気がつきました。商品化はメルクの方が速かったのですね。実はこの薬現在お世話になっています。メルク(万有)の製品です。遠藤さんに是非ノーベル賞をとって欲しいですね。
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あの人です^^ (樹衣子)
2008-09-18 20:23:35
こんばんは☆

calafさまから実際の薬剤名を教えていただきましたね。
そうです、「あの人」です。ご記憶していただいて、嬉しいです。

>遠藤さんに是非ノーベル賞をとって欲しいですね。

まず、長生きしなくちゃっ。
でも、名誉や金銭欲はあまりない学者の方のようですよ。

それから10月のホームコンサートは、素敵な企画ですね。生きていると山あり谷ありですが、いつも音楽とともに♪
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