千の天使がバスケットボールする

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『去年マリエンバートで』

2010-03-15 20:17:13 | Movie
ちかれたっ・・・。本当に疲れた。まさか映画を観てこんなに疲れるとは。。。

バロックの対位法を忠実に再現したかのようなシンメトリックな庭園のある城館。上流階級の紳士淑女たちが、退屈な時間を浪費するためにパーティを楽しむ演技をしている。豪奢できらびやかなシャンデリア、金色に縁取られた扉を開いて迷路のような通路をやってきたのが、ひとりの男A(ジョルジュ・アルベルタッツィ)。そこへ黒いソワレを着た美しい女が現れる。彼は、女性をまっすぐ見て告げる。

「去年、マリエンバートでお逢いしましたよね。」女は、表情をかえずに会ったことがないと答える。
「僕たちは去年愛し合い、一年後に再会する約束をしました。さあ、迎えにきました。僕と、約束どおり一緒に行きましょう」

何度も記憶にないと拒む女に、男は執拗に過去の”ふたりの物語”を再現しながら、愛を語らった”現場”に連れまわし、ついには証拠までさしだす。やがて女は男の紡ぐ夢か現実か判別できないままその危険な”物語”に身を投げ出すようになる。そんなふたりを見守るもうひとりの男(サッシャ・ピトエフ)。石取りゲームに強い彼は、女の保護者、おそらく夫と思われる。冷静に紳士的にふるまいながら、まるで外科医のように妻の心を眺めていく夫。記憶と感情という主観の象徴のようなふたりに対比して、男の視線は客観的事実を再現していくのだったが。。。

デザイナーの芦田淳さんはシンメトリーがとても好きだそうで、軽井沢の別荘も完璧なシンメトリーで建築されている。テレビで一度だけ観た豪奢で趣味のよい建物に、芦田さんのデザイナーとしての美意識がすべて現れていると思った。そして、謎の男が何度も女に一年前のマリエンバートでの追憶をささやくのも、シンメトリーな人工的な庭。噴水の水の動きと足元の砂利の音だけが、唯一時の流れと現実性を知らせてくれるが、シンメトリーの無機質な美しさと閉じた永遠性がまるで白実夢のような記憶を女に少しずつ与えていく。男が物語をつくっているのか。男の妄想なのか。女が嘘をついているのか、それとも本当に記憶をなくしたのか。事実よりも、男の出現に苦しみながれ、やがて階段の下の椅子で男を待つようになる女の心理に、オルガンの音楽とともに心が奪われていく。

混乱の中でよろよろとわかりかけていくのが、女の衣装と時系列の関係である。去年は、純白のジョーゼットのようなソワレ、輝くドレス、そして白い毛皮でくるまれた室内着のドレス。今の彼女は、黒いソワレに黒いドレス。FINの文字が登場して初めて映画の概要に近づけるのだが、一度観ただけでは、とうてい精密なパズルのピースを組み立てることはできっこない。それでもわかるのは、本作が計算されつくした脚本とあらかじめすべて決められた演技と演出の中で、役者は監督の人形のように演じることしかなかったことだ。おそろしくも究極の映像美を魅せた作品である。疲れるはずだ・・・。

監督:アラン・レネ
脚本:アラン・ロブ=グリエ
1961年フランス・イタリア合作

■こんなアーカイヴも
『24時間の情事』(ヒロシアモナムール)
「夏の名残の薔薇」恩田睦著


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