千の天使がバスケットボールする

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『趣味の問題』

2005-12-27 23:32:13 | Movie
ハリウッド大作娯楽映画には背を向けて、18禁映画やマイナーなヨーロッパ映画を好むのも、それは私の”趣味の問題”と言えよう。私の場合、趣味にこだわりをもっているが、決して高尚な趣味と誇れるレベルでもない。しかしまれに自分の完璧に近い趣味にこだわる方もいるかもしれない。そういう貴族趣味の方にとっては、美しい妻や賢いこども、家族もここちよく自分にふさわしい家具のようなものかもしれない。

「趣味の問題」は、徹底的に自分の趣味にこだわるあまり、錯綜した精神に殺される不思議な寓話である。
50歳をこえても若い頃の美貌の名残を残す化粧品会社を経営するフレデリック・ドゥラモン(ベルナール・ジロドー)は、フランス国内でもやり手の実業家でもあり富豪。豪奢な屋敷に住み、自家用ジェット機でビジネスに飛ぶ彼は、その豊富な経済力ですべてにおいて洗練された趣味で統一している。勿論、多少年齢にふさわしい油がのった体型ではあるが、中年太りとは無縁。なかでも美食家である彼は、行きつけのレストランで給仕をしている美青年ニコラ(ジャン=ピエール・ロリ)を発掘する。フレデリックは繊細な舌をもち、それを的確に表現できる彼を気に入り、自分の「試食係り」として高額な報酬で雇うのである。

フレデリックの試食係りに求めるレベルは、趣味人らしく高い。ニコラは禁煙をし、雇い主の好む高級スーツに身をつつみ、常に行動を共にするようになる。高額な報酬のためというよりも、ニコラ自身も年上の成功者である彼にひかれていくからである。これは契約関係に基づく支配者と奴隷の関係である。だから恋人のベアトリス(フロランス・トマサン)にも、経営アドバイザーとみえすいた嘘をつき、仕事の内容をあかしていない。ニコラの精進と努力のかいもあり、雇い主の求める理想的な「味見係り」をこなしていく。すると、舌だけでなく、すべてにおいて自分の味見係りとしての役割、自分のもうひとりの分身としての存在へと要求がエスカレートしていく。料理だけでない、女性を味わう時も、怪我をした時の痛みや苦痛も。ニコラに求めるのは、自分の趣味にあったするどくて素適な感覚をもっている体である。
ニコラは、少しずつ自分を削っていくようになり、消耗して衰退していく。これは危険なゲームなのか。フレデリックは、ニコラがどこまでこのゲームについていくか試しているのか。

最初は首尾よく、青年の高額なお金で買った趣味の調教と飼育に成功した。しかし趣味の問題が、その人の存在そのものに関わるアイデェンティティーだとしたら、やっかいなものである。趣味を同一させようとすればするほど、ニコラは精神と肉体の乖離がすすんでいく。ニコラがフレデリックを乗っ取ろうと近づくにつれ、男女の愛とは違ったゆがんだ独占欲が芽生えてくる。それを試すためにあらたにニコラのかわりの試食係を採用してみせびらかすフレデリックと、そんな光景に激しい嫉妬を覚えるニコラ。彼らは同一の存在に同化するにつれ、互いへの依存と憎しみを感じるようになるのである。

趣味人は大変である。常に美味しいものを食べ、センスの良い服装を整えて、身のこなしも洗練させていなければならない。日々努力が伴うのである。たとえ命をかけても。
「美食は芸術である」
監督・脚本:ベルナール・ラップ
フランス映画は、料理と同様奥が深くて複雑だ。


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