千の天使がバスケットボールする

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~美の巨人たち~フェルメール「絵画芸術」

2010-11-10 22:07:34 | Art
11月6日放映の「美の巨人たち」の今夜の一枚は、フェルメールの「絵画芸術」。
番組表でチェックして、これは観なくちゃっと12チェンネルにあわせるとレンブラントの「夜警」の絵が映っている。はて・・・と思ったら、363×437cmのサイズの「夜警」の中に次々とフェルメールの作品が収まっていき、小林薫さんのナレーターで「フェルメールが生涯に残した作品は、たった32枚」と入る。
同じオランダを代表する大型サイズの「夜警」一枚に、フェルメールの全作品が入るということから、あらためて寡黙な画家フェルメールを印象づけられる。本当に絵画を理解するにはテレビ番組では最初から限界があるのだが、それとは別に、この番組の製作はうまいと毎回感心する。夏に訪問したベルリンの美術館で、おめあてのフェルメールの「真珠の首飾りの女」を見ることができた。静謐でおだやかな光に包まれたその絵は、うっかり見過ごしてしまいそうなくらいのサイズ、51.2×45.1cmととても小さかった。「絵画芸術」は、120×100cmと、この作家にしては比較的大きい。あのアドルフ・ヒトラーも大変気に入っていたという「絵画芸術」は、フェルメール自身も生涯手離さなかったという絵でもある。さり気ない日常を描いた画家のこの一枚の絵には、画家のメッセージが託されているという。

ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)は、1932年、オランダのデルフトに絹織物職人の息子として生まれ、1675年に亡くなるまで故郷を離れることがほとんどなかったそうだ。最初こそ宗教画家として出発したが、ほどなく写実的な絵画を描く風俗画家に転向する。1666年頃製作された「絵画芸術」も、女性をモデルとして室内の様子を描いたフェルメールらしい風俗画なのだが、いくつか不自然な点がある。まず、背中を見せて筆をとっている画家の服装は、200年以上も前の農民の服装である。かといって、あえて昔の風景を描いたのではないことは、床の白と黒の通称「デルフトタイル」と呼ばれる、当時のオランダの流行ものである。壁にかかった大きな地図、質素な室内に豪華なシャンデリア、テーブルに置かれた石膏、そして女性が持っている金色のラッパに抱えている大きな本。そこに、フェルメールはどんな思いをこめたのだろうか。

壁にかかった地図は、ベルギーとオランダにわかれる前のネーデルランドの地図である。中央の折皺が、ちょうど両国の境界線になっているのは偶然ではないだろう。シャンデリアには、ハプスブルク家の象徴である双頭の鷲が飾られているのだが、蝋燭をたてていないことからハプスブルク家の没落を表している。石膏像は彫刻と同じで本物の模倣であり、絵画が彫刻よりも優れていることを伝えたかった。ウルトラマリン・ブルーの衣装を着た少女が手にしているラッパは名声、分厚い本は歴史を意味し、勝利をあらわす月桂冠をかぶった少女は、歴史のミューズであるクリオを象徴している。画家は、歴史画を風俗画に閉じ込めて描いている。この寓意には、当時、歴史画は風景画や風俗画よりも上で、オランダの風景画が2流扱いをされていたことへの画家・フェルメールの思いが託されている。それは、壁にかかった地図にひっそりと描かれている「I Vermeer」という文字にも残されている。

しかし、そのような寓意を読み取れなくても、白い点描で光を表現した技法が厚く重みのあるカーテンやシャンデリアにも見られ、余計なものを排除した引き算の美学とも言える端整なファルメールの芸術にふれることができるのも今夜の一枚である。


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