千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

「マエストロ、それはムリですよ・・・」構成・松井信幸

2009-08-20 23:08:31 | Book
現在、社団法人「日本オーケストラ連盟」に加盟しているオーケストラは24団体ある。指折り数えたら15ぐらいで終わってしまったのだが、その中で最も小さな本拠地をもつオーケストラが山形交響楽団である。失礼ながら、不肖私めも本書で初めて「山響」の存在を知ったくらいである。県庁所在地の山形市の人口は約25万人で、山形県全体ではさいたま市とほぼ同じ規模の120万人。そんな小さな東北でも存在感の薄い山形にある山形交響楽団は、実は1972年に東北地方で初めてのプロ・オーケストラとして誕生した。山形といえば、さくらんぼ、ラ・フランス、山形牛ぐらいしか思い浮かばない田舎で産声をあげた小さなサイズのオーケストラは、途中3分の1以上の団員の離脱という存続の危機にもまれ、慢性的な人員不足と予算不足に悩まされながらもなんとなく生命線がつながっている状態だった。ところが、今の山形交響楽団は美しい響きとアンサンブルの質の高い演奏で日本の音楽文化を代表するオーケストラに変貌しようとしている。

ださくって、まったりとした覇気のない多くのエキストラ頼みの”おらが街のオーケストラ”を見事に変身させ、その魅力に東京や近県からも足を運ぶ観客や固定客を増加させた秘訣とは。それは、なんといってもおらがのオケにあの人が颯爽とやってきたからだ。
マエストロ、飯森範親氏の登場!

本書の構成は山響の歴史をふりかえりつつ、団員の人気投票でムリだろうけど”この人に常任指揮者をお願いしたい”アンケートで、ダントツ1位になった飯森氏にダメモトで就任のお願いをしたきっかけから、飯森氏と山響が次々とオケを改革てし、新鮮なアイデアを実行して集客力に結びつけたかという複数の人々の”証言”が続く。東京の真似をしても仕方がない、山響のサイズにあった山形でしか聴けない音楽づくり、それは彼らのひとつの挑戦でもあった。そして、県民にもっとその存在をアピールするためにはどうしたらよいか、観客に満足してもらうためにはどうしたらよいだろうか、またチケットを買ってもらうためにはどうしたらよいだろうか。
単純に売る商品、音楽がよいだけではなかなかその魅力が県民に浸透しないし、そしていくら手をつくしてチケット販売戦略を練っても、所詮音楽に個性と素晴らしさがなければいつかあきられる。この両輪をうまく運転していくには、飯森範親氏は芸術家にしてなかなかの経営感覚にも優れたバランス抜群な方、しかも発想が斬新でチャレンジャーなマエストロ。

04年に常任指揮者、一昨年から音楽監督になった飯森氏からは事務局に次々と指示の電話やらFAXが届く。通称、飯森氏の「マニフェスト」は50項目ものにも及び、そのたびに事務局は「えっ、マジですか」とあわてたり、奔走したり、時には
「マエストロ、それはムリですよ・・・」と青くなったり。ちょっと電話恐怖症になった時もあったとか。
しかし、山響をもっとよいオケにしたいという情熱は、マエストロ、団員、事務局、そして応援する団体みんな同じ思いである。次々と実行できるものはなんとかやり遂げ、勿論棚上げや変更、修正する部分もあるが、確実に山響は変わっていった。

本書を読んだら、これはもう、絶対に山響の演奏を聴きたいと思った!それも6月に東京で開催される「さくらんぼコンサート」なんぞ、行ってみたい。場合によっては、温泉ツアーでもよし。読者をそんな気持ちにさせるだけでも、すごいと思う。といっても音楽ファンよりもむしろビジネスマン向けの本書は、読んでいて元気がでる。どうやら売れ行きも好調で一時は品切れ状態だったらしいのだが、本書の出版は、全国に山響の存在をアピールする宣伝効果もあり、収益もあり、まさにシナジー効果である。こんなところにも山形交響楽団の快進撃ぶりがうかがえる。大学時代の親しい友人が、実は山形出身。山形弁でさんざん山形の自慢話を聴いてきたが、全くおそるべし、山形、である。


「マエストロ、それはムリですよ・・・」プロローグ 飯森範親氏列伝


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2 コメント

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Unknown (りつか)
2009-09-15 00:20:59
樹衣子さま。
初めまして。

manimaniさんのところから参りました、りつかと申します。

私もクラシックが好きで、子供の頃はピアノ、大学時代は学生オケでヴァイオリンを少々嗜んでいました。

そのオケで、ヴァイオリンパートのレッスンをしてくださった佐藤一紀先生のご縁で、ヴァイオリニストの高木和弘氏(山饗で時々コンマスをなさっているらしいです)と知り合い、その先生である飯森さんのお名前を知りました。

いつか聞きたいと思っていた指揮者さんです。
樹衣子さんのこの記事を読んで、ますます聞きたくなりました。

高木氏のブログで、山饗のことがよく書かれているので、すごく有名な楽団なのだなあと思っておりましたが、こんな歴史を経て今の姿があるんですね、知りませんでした。

本になっているのですね。
早速注文してみました、届くのが楽しみです^^。

有益な情報をありがとうございました♪
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高木和弘さんのこと (樹衣子*店主)
2009-09-17 21:58:35
>りつかさまへ

返信が遅くなり申し訳ございませんでした。

飯森さんはとても人気のある指揮者ですので、関東圏では度々登板?しています。機会がありましたら、是非!
それから高木和弘さんは「フォーバルスカラシップ ストラディヴァリウス コンクール」で演奏を聴いたことがあります。独特の色気のある演奏で、かなり印象に残りました。私が審査員だったら、ダントツで高木さんにストラディバリウスを弾いていただきたいと思いましたね。一緒に聴いておりました友人も同意見でした。お元気でご活躍のようですが、関西地方がホームグランドのようで、残念なことに都内ではリサイタルはあまり開かれないようです。密かに一度、ソロで聴きたい日本人ヴァイオリニストとして注目しています。

またのご訪問をお待ちしております。
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