WIRED VISION 日本語抄訳
この春から、中東・北アフリカ各地で暴動が起こり、何十年も続いていた独裁政権が相次いで倒れる革命へと発展した。リビアでは、ついに政府軍と反政府軍による内戦に突入した。シリアでも、政府によるデモ隊の虐殺事件が相次ぎ、内戦状態に近い。
こんな事態を招いた最大のキッカケが、「食料価格の高騰」だということは広く知られている。とくに、去年の夏のロシアの異常な猛暑のおかげで、パンの原料となる小麦価格が高騰したのが大打撃になった。それによって起きた中東危機のおかげで、今度は石油価格の高騰が心配されている。まったく、異常気象と社会不安が連鎖する、危険なチェーン展開だ。
18世紀末に起きたフランス大革命も、やっぱり食料価格の高騰が原因になったことが指摘されてきた。食べ物の恨みがどれほど恐ろしいか、よく分かるというものだ・・・。
「ニューイングランド複雑系研究所」の研究結果によると、これは単に「食料価格が高くなった」という問題ではないらしい。問題は、価格が上昇するトレンドにあるという。
つまり、価格は、常に上がったり下がったりしている。上がるたびに暴動が起きるわけではない。研究所では、暴動が発生するときの「トレンド」を調べた。
アラブ諸国では、2008年にも民衆の暴動が起きた。そして、2011年(つまり今年)、もっと大規模な暴動が起きた。この2つの年には、共通点があった。それは、2004年を基準値の100とした場合、「名目価格にして約215ポイント、インフレ調整後の価格で190ポイントに上昇」(要するに、価格指数が約2倍になった)ときに、暴動が発生したということ。この価格に近づいてくれば、危険水域のサインだということになる。
ここで重要なのは、食料価格は上がったり、下がったりを繰り返しながらも、ここ10年ほどで見れば、長期的に上昇するトレンドにあるということだ。このままの傾向が続けば、2012年から13年にかけて、もはや危険水域を上回りっぱなしになることが予想される。研究所長いわく、
>そのレベルに到達してしまえば、価格の急騰はもはや問題ではない。問題はこの傾向のほうだ。そして傾向を軌道修正するほうが、より困難だ。
今でさえ、戦争や革命が連続しているアラブ諸国。長期的なトレンドから見て、この先ますます事態は悪化する一方になりそうだ。
最後は、「このトレンドから言って、中東・北アフリカ諸国より政情が安定した国々でも、暴動が発生する可能性がある」と結論づけている。
となると、やはり興味の焦点になるのは、東アジアの暴動大国・中国だろう。中国でも、インフレが進んで、民衆の暴動が数え切れないほど起きている。もはや暴動が多すぎて、何件起きているのか正確な統計をとるのも不可能だ。
もちろん中国政府も、この点を認識している。金融引き締めや人民元高の容認といった、インフレ対策を取らざるを得なくなった。これは、頼みの綱である輸出産業や不動産バブルを潰しかねない政策だ。背に腹は変えられないので、こればっかりは仕方がない。昭和40年代の日本と同じで、あまりに長く続いた高度成長には、必ずやってくる調整期。インフレさえなかったら、あの頃の日本も、もっと長く高度成長を続けられただろう。狂乱物価は、人間に例えれば高熱を発している状態だ。正常に戻すためには、人間と同じく仕事を休んで安静にする。つまり、高度成長をしばらくお休みして、経済を冷やす措置を取らなきゃいけない。
それ自体は、日本を含めて先進国ならどこでもたどってきた道なんだけど、民主主義国とは違って、日頃から政治体制の崩壊が懸念されている(というより、期待されている・・・)というのが、中国ならではの特徴だ。経済の高度成長によって、かろうじて抑えてきた民衆の不満を、抑えきれなくなったらどうするのか。その危険さは、ほかならぬ中国共産党政府自身が、もっとも分かっていることだろう。
中国政府がアラブ諸国の情勢に神経を尖らせ、必死で国内の情報遮断を実行したことは、広く知られている。一時は、インターネットで「エジプト」のワード検索をすることさえできなくなったというから、歴史マニアにとってはさぞかし、いい迷惑だったことだろう。中国政府はそれくらい、自国への民主化革命の飛び火を恐れている。
やはり、時間の流れが速くなり、激変が激変を呼ぶサイクルが急になってきている。ますます、大変な一年になってきた・・・。
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