大暑の次候「土潤溽暑」(つちうるおってじょくしょなり)の時節です。「溽暑」は湿気が高く耐え難い蒸し暑さのことです。今夏のピーク時を迎えましたが、身体が暑気に慣れたのか日頃の酷暑にも驚かなくなりました。昨年のように気温が40℃を越えたのを聞くと流石に‘ゾッ’とします。体温がそれだけ上がれば解熱剤のお世話になって‘フ~フ~’の青息吐息となってしまいます。
和歌山県串本町周辺は台風さえ来なければ、国内で最も気候の良い地域と云われます。冬は暖かく、夏は涼しい地中海気候に似た気温の大きな変動のない土地柄です。
一方、生石高原は夏は涼しいのですが冬は厳しく、春の訪れ遅く、秋の到来が早い高山特有の気象です。
この日、太陽が山並みから出たのが5時10分で夏至から20分近くも遅くなってます。徐々に日が短くなってゆくのを実感できますが、日の出直後にたちまち嫌な感じの雲が広がりはじめ、濡れるのを覚悟しましたが、さほどのことはなく2時間ほどで元の夏空に戻りました。身勝手なものでそうなると晴天続きに一雨欲しいと思ったりもするのですが…
しかし良く出来たもので、高原の早朝は朝露で衣服が思いっきり濡れてしまいます。これが高原の多くの草木たちの命脈と思うと、むしろ朝露をいとおしくさえ感じ、濡れるのを全く厭わなくなります。
「キヨズミギボウシ」 清澄擬宝珠 ユリ科、多年草。
硯水(すずりみず)湿地に群生する“清澄擬宝珠”は今、見事に花を着け背景の白馬(しらま)の山並みともあいまってまさに圧巻です。高原ではこの湿地にだけ自生し、葉や背丈は通常のものより遥かに大きく“大葉擬宝珠”と間違いやすいのですが“大葉…”は湿地には自生しません。
“清澄…”の名の由来は第一発見の清澄山に因んだと云われます。ギボウシ類の花の一つ一つは一日花で、萎んで下向きなのが前日もしくは前々日の花で、上方向(無限花序)に咲き進んで行きます。湿地では遅咲きの株も相当ありますので、暫くは見事な“清澄擬宝珠”の高原ならではの風情を楽しむことが出来ます。
「コバギボウシ」 小葉擬宝珠 ユリ科、多年草。
高原に生育する3種類のギボウシの中では、最も青紫色が濃く鮮やかで花びらの筋模様がはっきり分ります。そして他のギボウシより花序の花数は少ない上、全体的に葉や背丈は小ぶりです。また、湿地や草原にも生育しますので、葉の葉脈がくぼんで通ってる事と合わせて、オオバギボウシとの判別に役立てられると良いでしょう。
「クルマバナ」 車花 シソ科、多年草。
「ミソハギ」 禊萩 ミソハギ科、多年草。 「ヒメクロホウジャク」(スズメガ)
山野の湿地に生育する“禊萩”は、花穂に水を含ませお墓の供物などに水をかけ、“禊”としたことからの名称(ミソギハギ)と言われてます。また盆花や生薬の千屈菜(せんくつさい)でよく知られてます。
「モウセンゴケ」 毛氈苔 モウセンゴケ科、多年草。 県・絶滅危惧種。
食虫植物の“毛氈苔の花”(4~5mm)はAm9:00過ぎ、充分な太陽光に照らされてやっと開きました。この花を撮るため1時間ほど硯水湿地で時間待ちです。その間“ヒメクロホウジャク”の大きな羽音での花めぐりを撮ることが出来たのはラッキーでした。
“毛氈苔”は基本的には寒冷地の植物で、その群生した様子は“毛氈”を敷いたように見えることからの名となってます。根は余り発達せず、虫を消化吸収して栄養源としますが、光合成も行ってるようです。
今日は、ギボウシ類が特に見事な“硯水湿地”の草花を取り上げました。“毛氈苔”も今年は例年に無くたくさんの花をつけ、今後の繁殖が楽しみです。そしてギボウシ類が終えるとサワギキョウ、シオガマギク、キセルアザミ、ウメバチソウなどの湿地でしか見られない秋の花が咲き出し、生石高原の草花の百家争鳴の賑やかな季節となります。
暑い暑いと言いながら、もう7月も終わろうとしています。8月7日は立秋で暦の上では早くも秋となります。秋花は山頂の高い位置から麓に向かって咲き出します。8月の高原の花々のご紹介を致します。
7月下旬から8月初旬~
ミソハギ、モウセンゴケ、クルマバナ、コバギボウシ、キヨズミギボウシ
カワラナデシコ、オトギリソウ、オオナンバンギセル、キキョウ、オミナエシ
コオニユリ、ヒオウギ、ヤマジノホトトギス、ゲンノショウコ、ホソバヒメトラノオ
ヒヨドリバナ
8月中旬~
キンミズヒキ、イブキボウフウ、オトコエシ、ワレモコウ、ツリガネニンジン
ゴマノハグサ、シラヤマギク、ホソバノヤマハハコ、サワギキョウ
8月下旬~
ミズトンボ、マルバハギ、マツムシソウ、サワヒヨドリ、タムラソウ、シオガマギク
モリアザミ、キクアザミ、メカルカヤ、シシウド、クズ
あくまで目安です。多少の誤差はお許し願います。お目当ての“花の情報”は“山の家おいし”℡(073)489-3586 でご確認されますよう…