生石高原・紀伊の風

紀州和歌山の季節と自然のフォトページ

夏の硯水湿地

2008-07-29 | 季節は今








大暑の次候「土潤溽暑」(つちうるおってじょくしょなり)の時節です。「溽暑」は湿気が高く耐え難い蒸し暑さのことです。今夏のピーク時を迎えましたが、身体が暑気に慣れたのか日頃の酷暑にも驚かなくなりました。昨年のように気温が40℃を越えたのを聞くと流石に‘ゾッ’とします。体温がそれだけ上がれば解熱剤のお世話になって‘フ~フ~’の青息吐息となってしまいます。

和歌山県串本町周辺は台風さえ来なければ、国内で最も気候の良い地域と云われます。冬は暖かく、夏は涼しい地中海気候に似た気温の大きな変動のない土地柄です。
一方、生石高原は夏は涼しいのですが冬は厳しく、春の訪れ遅く、秋の到来が早い高山特有の気象です。

この日、太陽が山並みから出たのが5時10分で夏至から20分近くも遅くなってます。徐々に日が短くなってゆくのを実感できますが、日の出直後にたちまち嫌な感じの雲が広がりはじめ、濡れるのを覚悟しましたが、さほどのことはなく2時間ほどで元の夏空に戻りました。身勝手なものでそうなると晴天続きに一雨欲しいと思ったりもするのですが…

しかし良く出来たもので、高原の早朝は朝露で衣服が思いっきり濡れてしまいます。これが高原の多くの草木たちの命脈と思うと、むしろ朝露をいとおしくさえ感じ、濡れるのを全く厭わなくなります。





    



       
         「キヨズミギボウシ」 清澄擬宝珠  ユリ科、多年草。

硯水(すずりみず)湿地に群生する“清澄擬宝珠”は今、見事に花を着け背景の白馬(しらま)の山並みともあいまってまさに圧巻です。高原ではこの湿地にだけ自生し、葉や背丈は通常のものより遥かに大きく“大葉擬宝珠”と間違いやすいのですが“大葉…”は湿地には自生しません。

“清澄…”の名の由来は第一発見の清澄山に因んだと云われます。ギボウシ類の花の一つ一つは一日花で、萎んで下向きなのが前日もしくは前々日の花で、上方向(無限花序)に咲き進んで行きます。湿地では遅咲きの株も相当ありますので、暫くは見事な“清澄擬宝珠”の高原ならではの風情を楽しむことが出来ます。





    「コバギボウシ」 小葉擬宝珠  ユリ科、多年草。

高原に生育する3種類のギボウシの中では、最も青紫色が濃く鮮やかで花びらの筋模様がはっきり分ります。そして他のギボウシより花序の花数は少ない上、全体的に葉や背丈は小ぶりです。また、湿地や草原にも生育しますので、葉の葉脈がくぼんで通ってる事と合わせて、オオバギボウシとの判別に役立てられると良いでしょう。




  
    「クルマバナ」 車花  シソ科、多年草。




  
   「ミソハギ」 禊萩  ミソハギ科、多年草。 「ヒメクロホウジャク」(スズメガ)

山野の湿地に生育する“禊萩”は、花穂に水を含ませお墓の供物などに水をかけ、“禊”としたことからの名称(ミソギハギ)と言われてます。また盆花や生薬の千屈菜(せんくつさい)でよく知られてます。





    「モウセンゴケ」 毛氈苔  モウセンゴケ科、多年草。  県・絶滅危惧種。

食虫植物の“毛氈苔の花”(4~5mm)はAm9:00過ぎ、充分な太陽光に照らされてやっと開きました。この花を撮るため1時間ほど硯水湿地で時間待ちです。その間“ヒメクロホウジャク”の大きな羽音での花めぐりを撮ることが出来たのはラッキーでした。

“毛氈苔”は基本的には寒冷地の植物で、その群生した様子は“毛氈”を敷いたように見えることからの名となってます。根は余り発達せず、虫を消化吸収して栄養源としますが、光合成も行ってるようです。

今日は、ギボウシ類が特に見事な“硯水湿地”の草花を取り上げました。“毛氈苔”も今年は例年に無くたくさんの花をつけ、今後の繁殖が楽しみです。そしてギボウシ類が終えるとサワギキョウ、シオガマギク、キセルアザミ、ウメバチソウなどの湿地でしか見られない秋の花が咲き出し、生石高原の草花の百家争鳴の賑やかな季節となります。


暑い暑いと言いながら、もう7月も終わろうとしています。8月7日は立秋で暦の上では早くも秋となります。秋花は山頂の高い位置から麓に向かって咲き出します。8月の高原の花々のご紹介を致します。


7月下旬から8月初旬~

 ミソハギ、モウセンゴケ、クルマバナ、コバギボウシ、キヨズミギボウシ

 カワラナデシコ、オトギリソウ、オオナンバンギセル、キキョウ、オミナエシ
 コオニユリ、ヒオウギ、ヤマジノホトトギス、ゲンノショウコ、ホソバヒメトラノオ
 ヒヨドリバナ

   8月中旬~

 キンミズヒキ、イブキボウフウ、オトコエシ、ワレモコウ、ツリガネニンジン
 ゴマノハグサ、シラヤマギク、ホソバノヤマハハコ、サワギキョウ

   8月下旬~

 ミズトンボ、マルバハギ、マツムシソウ、サワヒヨドリ、タムラソウ、シオガマギク
 モリアザミ、キクアザミ、メカルカヤ、シシウド、クズ

あくまで目安です。多少の誤差はお許し願います。お目当ての“花の情報”は“山の家おいし”℡(073)489-3586 でご確認されますよう…


浅井康弘の世界 [Ⅳ]

2008-07-25 | 季節は今

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    浅井康弘さんの作品です。








        
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世の中の空間には“線”は存在しません。物体の面と空気との境界を認識できるのは、取りも直さず“光”の存在なのです。

浅井康弘さんの作品を見るたび、その“光”の基本的な“仕業”に立ち返らせてくれます。量感、質感、そして色彩の etc…
浅井さんの手にかかると、どのようなモチーフも魔術にかかったように生命力を吹き込まれます。


 ― 画像の無断使用は固くお断りします。―

大暑の候

2008-07-22 | 季節は今








暑気いたりつまりたる 時節なればなり…二十四節気の“大暑”となり、その初候「桐始結花」(きりはじめてはなをむすぶ)桐が実を結ぶ季節の事ですが、梅雨明けの湿度のある暑い日々の方が気にかかるところです。
そして、19日は夏の“土用の入り”であり、24日は“土用の丑の日”で“うなぎ”の厄日です。さて、今年は“中国産かば焼き”“偽装販売”のこともありますから、夏の一大国民的慣習?は如何ようになるのかニュースから目を離せません。

   http://blog.goo.ne.jp/kinsan130/d/20080122 (土用のお話)





  
    「アマゴ」  甘子、天魚、雨魚   サケ科、日本固有種。






    「ミヤマカワトンボ」 深山川蜻蛉、日本固有種。 

田辺市大塔(旧大塔村)の百間山渓谷へ足を伸ばしました。この登山コースは少々厳しい上、陽の届かない暗い渓流となってます。その滝や沢をご紹介する予定でしたが、途中のカワトンボやアマゴを撮るのに、ついつい夢中になってしまいました。
トンボはあちらと思えばまたこちら…アマゴは人影でおびえ、岩陰から出てくるのをじっと待つ…このような調子なので時間の経過を全く忘れます。そしてもう一つの大きな理由は、この沢がとても“涼しい”ことです。拙い写真ですが、“涼”のお裾分けを致します。




             御坊市塩屋浜の「ハマボウ群生地」





日高川南側、国道42号沿いの御坊市塩屋地区の浜辺に「ハマボウ」の群生地があります。その群生は県内では殆ど姿を消し、現在では那智勝浦町と御坊市だけとなりました。
この塩屋浜のハマボウは市の天然記念物にも指定され、汽水の川筋に野性味のある風情で来る人を楽しませてくれます。

三浦半島からの西日本が自生地域と云われてますが、干潟や自然海岸の減少で個体数は激減してるそうです。その上、海岸公園などの整備をしても、何故か他の樹木を多く植林し、海水、潮風に強いこの木を余り植えられる事はありません。元来その地域にあった樹木を主に植える…公園を発注する人、勉強して下さいヨ…




        
        「ハマボウ」黄槿(浜朴) アオイ科、落葉低木。別称 カワラムクゲ







和歌山市和歌浦地区にも以前は多くの“ハマボウ”の自生木がありましたが、今は植栽の数本があるだけです。7月中旬頃から黄色い鮮やかな花をつけ、朝開いて夕方に萎むのですが、この花が咲くと子供たちはすっかり“夏休みモードに”になったのを思い出します。

海から流れ込む汽水域の泥の岸辺にあって、半マングローブ植物でもある複雑な木の根は干潮時でも“カニ”や“小魚”の絶好の隠れ家でした。それを狙って、子供たちはそれこそ“泥んこ”になってよく遊んでいたものです。かく云う kinsan もその一人で、服を汚さないように、それなりに注意はしてるのものの、夕暮れ時、家に帰って初めて泥だらけに汚れているのに気が付く始末でした。“ハマボウの花”は母親の“情けなさそうな顔”を思い浮かばせる花なのです。

大賀蓮

2008-07-18 | 季節は今







  

今日は田辺市の南に位置する上富田町(かみとんだちょう)の「オオガハス」(大賀蓮)をご紹介します。

1951年理学博士の大賀一郎さんが、千葉市の東京大学グラウンドの地下を発掘調査し、このハスの実を発見、発芽に成功したものです。年代調査の結果、弥生時代の後期(2000年前)と判り、発見者の大賀博士の名前を命名し、千葉県の天然記念物、千葉市の花となりました。

現在では全国各地で栽培され、古代ハスの名で多くの人々に親しまれてます。和歌山県内にも数ヶ所の栽培地がありますが、上富田町では町おこしの一環として、毎年“オオガハス祭り”(7月10日~20日)のイベント行事を催しフォトコンや俳句の投稿を広く募集しています。そして、何よりもハス田の木道から間近に“オオガハスの花”を愛でられるので、遠方から来られる方も多いようです。また、オオガハスの開花情報などの窓口を役場に設置し、電話などでの問い合わせに丁寧に答えて頂けますので、すっかりここの“オオガハス”のファンとなりました。蛇足ながら kinsan は上富田町の“まわし者”ではありませんので…念のため (^^

    http://www.town.kamitonda.lg.jp/ (上富田町役場 HP)

    ℡(0739)47-0550 総務政策課 オオガハスを守る会





        
         「オオガハス」(大賀蓮) ハス科、多年性水草。

ハスはインド亜大陸が原産と云われますから、日本では史前帰化植物となります。ヒンズー教や仏教では無くてはならない花で、特に仏教のお釈迦様が“蓮華”(ハス)の上で瞑想されるお姿が極楽浄土の象徴とされ、いずれのお仏像も蓮華の台座に鎮座されてます。そのことからも死後、極楽浄土に往生して、同じ蓮華の上に生まれ変わって身を托す…意の「一蓮托生」の熟語はよく知られてます。

日の出から花は開きはじめ昼には再び閉じてしまいます。花が開く瞬間“ポン”と音がすると云われますがそのような事はありません。もし音を出すとすれば、周りはカエルの声がけたたましい上、ポンポン音が出ればご近所の方はどうなるでしょうね?^^
ハスの実は蜂の巣に似ることから“ハチス”が訛って“ハス”になったと言われます。インド、スリランカ、ベトナムの国花となってますが、ハスは100種以上あると云われますからどのような種がメインなのかは分かりません。





  






         






  

    ロータス効果(ハス効果)

ハスの葉の上では水は玉になってコロコロと転がります。葉の表面が微細構造となり、科学的特性でそのような現象になるのを“ロータス効果”と呼ぶそうです。これからのヒントで防水効果のある材料開発に繋がったそうです。ハスはそのような開発のためにロータス効果のある葉となった訳で無く、泥地に生育するので泥水などで葉を汚れ難くするための自浄作用と考えられてます。







オオガハスはよくあるハス(ヂハス)と違って、花びらは少し細身で、淡いピンクの美しいグラデーションです。花のまわりでは甘い芳香が漂い、誰もが極楽浄土や天国を連想することでしょう。日の出前のフラットな光の中でこれから開こうとする薄緑のあるピンクの蕾に汗とも思える霧状の夜露が印象的でした。そして、葉の上の露が清浄なように、いっさいの欲情に汚されない例えを「蓮の露」(はちすのつゆ)といい、良寛和尚さんの歌集のタイトルにもなってます。

弥生時代のハス田で古代の衣装で、女性や子たちが蓮の実を採ってるユートピアのような情景をも容易く想像できる上富田町のオオガハスです。また、このハスが万葉や平安時代に咲いてれば、きっと素晴らしい歌や文学作品が創られたことでしょう。

もうすぐ梅雨明け

2008-07-15 | 季節は今








小暑、次候「蓮始開」(はすはじめてひらく)の時節です。今にも“梅雨明け”の発表があるのでは…と思い込んでいたのが大間違いで、先週はすっきりしない天候が続きました。

この日の天気予報は“晴れ時々曇り”久し振りに日の出にご対面できる筈でしたが、山頂に登って見れば如何にも怪しげな雲。とうとうこの日は太陽は出ず終いで、雨まで降る始末です。世の中、何を信じて良いのやら…^^;
そして結果論ですが、この土、日曜の天気のよかった事!慌てて行かずとも…とも悔やんだのですが、今日の花たちとの出会いは、この日限りのとっておきの姿を見せてくれました…という思いで納得。

雲間からの“日矢”が伸び大きなスポットライトで正面の雲海の山を照らします。それも雲の動きと共にフェードアウトして終います。瞬間に覗いた青空はまさに夏の空でした。また、語呂あわせではないですが麓では7月9日今年初めて“クマゼミ”が鳴くのを聞きました。^^ “これから喧しいこっちゃ…”





        
         「ササユリ」 笹百合  ユリ科、多年草。

今年は春一番などの強風が比較的少なかったからなのか、たくさんのササユリが次々と花を付け、来る人を楽しませてくれました。あと暫くで花は終えますが、未だ咲くものも少しですが残ってるようです。生石高原の“ササユリ”は年々増えてるように思われます。今年は南向きの登山道で絶えることなく愛でることのできました。そのような贅沢の出来るのは“生石だけ”と言っても過言ではありません。





  
    「オカトラノオ」 丘虎尾  サクラソウ科、多年草。

オカトラノオがシクラメンの仲間とは驚きです。高原では2週間ほど前から咲きはじめ、今では全山の至るところで見ることが出来ます。ホタルブクロと同様、麓から山頂への移動が容易く確認できる存在です。

“虎の尾”などと全くイメージから掛け離れた名前は、どなたが命名されたのでしょうか?まさかタイガースファンではないでしょうね。^^ 





  
    「ウツボグサ」 靫草(空穂草)  シソ科、多年草。 別称 夏枯草(カコソウ)

別称の“夏枯草”は冬至の頃芽を出し、夏に枯れる草花をいいます。花が終わると立ち枯れたように見えることからそのような名前となりました。また“ウツボグサ”は弓矢を入れる籠(靫)に例えた名となってます。
利尿効果があるとのことで、軒下に花穂を吊って乾燥させ、生薬としても利用されました。水気を好むところから硯水(すずりみず)湿地で多く見ることができます。

http://blog.goo.ne.jp/kinsan130/d/20080624 (乃東枯・なつくさかるる)





        
        「オオバギボウシ」大葉擬宝珠 ユリ科、多年草。 県・絶滅危惧種

擬宝珠は橋の欄干の葱坊主のような装飾をいいます。ギボウシの仲間は早春の山菜(山のほうれん草)としても人気があります。生石高原には「コバノギボウシ」「キヨスミギボウシ」そしてこの「オオバギボウシ」の3種類がありますが、それぞれの正確な判別は難しく全体の大きさ、花の色合い、葉の葉脈などで区別します。
“オオバギボウシ”は、葉が大きくて背が高く、白っぽく大ぶりな花がその特徴です。





  
    「コマツナギ」 駒繋  マメ科、落葉小低木。 別称 ウマツナギ

名の由来には二説で、馬をこの細長い茎に繋いでも切れないほど丈夫である事からと、馬が夢中になって食べるので、繋がなくてもこの場を離れずに居る、と云われるなどとなってます。背筋を伸ばし?順序よく並んだ3~4cmの小さい花序は微笑ましくもあります。





        
        「ネジバナ」捩花 ラン科、落葉多年草。 別称 捩習(モジズリ)

日当たりの良い湿り気のある場所を好みます。螺旋状の茎に花を付けることからの名前ですが、ラン科の植物にしては珍しく、人の生活圏の野原にも生えることがことがあります。

また理由は不明ですが、蔓性の草木は右巻きが圧倒的に多いと云われます。しかしネジバナには左巻き、右巻きがあるのも不思議なことです。先週は全く見当たらなかったのですが、この日はたくさん咲き出してるのには驚きでした。その間の霧や雨が“ネジバナ”の成長を促したのでしょうか。


  【総状花序】(そうじょうかじょ)と【穂状花序】(すいじょうかじょ)

【花序】は“花軸に多数の花のつくときの配列のしかた”花のつきかたです。

今、高原に咲く「オカトラノオ」「オオバギボウシ」や「コマツナギ」など、花軸に“柄”のある花がほぼ均等にたくさんつく花を【総状花序】といいます。他に「ホソバヒメトラノオ」「クズ」などの高原の花がこれに当てはまります。

今日の「ネジバナ」は【穂状花序】に分類されます。花軸に直接花を付け“柄”のない花をいいます。他に「オオバコ」「シライトソウ」などがあります。

また、花が下の位置から上方に向かって咲くものを【無限花序】といい、花茎の先端から側方または下方に咲くものを【有限花序】(カワラナデシコ)といいます。…ご参考に…

生石高原ではススキの緑がますます美しく輝き、今日の草花たちを含め「カワラナデシコ」「キヨスミギボウシ」「ヤマジノホトトギス」が咲き出しました。終えようとするのもあれば、新しく参入すると言ったように目の離せない、可愛い新旧交代が草原で進行中です。