KANCHAN'S AID STATION 4~感情的マラソン論

マラソンを愛する皆様、こんにちは。
2022年は積極的に更新していく心算です。

2020年マラソン大賞講評 vol.1

2021年01月05日 | 日本マラソン大賞
2019年の「マラソン大賞」をその年の年末にに発表し、その講評を発表したのは2020年の年末の押し迫った時期だった。今回のマラソン大賞、発表から8日で講評の発表。いや、別にスゴイ事でなんでもない。昨年が異常だったのだ。そう、詳細は別の機会に述べるが、2020年は「異常な」1年であった。「東京五輪延期」という異例の事態。それを生み出した新型コロナウイルスの猛威。それでも、マラソン大会は開催されて、ランナーは走り続けた。
そんな2020年のマラソンランナーたちに敬意を表するために、「マラソン大賞」を選んだ。

男子の新人賞は吉田祐也。前月の箱根駅伝では4区を走り、初の箱根出走にして区間賞を獲得して青山学院大の優勝に貢献。卒業後は競技を離れ、食品会社への就職が内定していたところを卒業記念のつもりで走った別大毎日マラソンで、初マラソン日本歴代2位のとなる2時間8分30秒で3位。競技続行を決意し、青学の原晋監督も運営に携わる新興実業団、GMOインターネットグループに入社。そして年末の福岡国際マラソンでは初マラソンの記録を上回る2時間7分5秒で優勝。コロナ禍で海外有力選手の招待も叶わず、東京五輪代表の服部雄馬の欠場と言った要素を抜きにしても高評価を与えるべき堂々たる優勝だった。それにしても、彼を「広告塔」にしようと、中途半端な体制を整えることなく、彼の内定辞退を承認したブルボンの英断にも敬意を表したい。

女子の新人賞は佐藤早也伽。10000m日本記録保持者の新谷仁美、中距離ランナーの卜部蘭と並ぶ積水化学陸上部の「三本柱」の一人である。関西、それも京都の大学が上位を独占してきた全日本大学女子駅伝(杜の都女子駅伝)も、近年関東の箱根駅伝強豪校が強化してきたが彼女も東洋大学出身。5000m15分16秒がベストのスピードランナーが初マラソンで2時間23分27秒で5位の好タイム。高橋尚子や鈴木博美らマラソンメダリストが所属した積水化学、近年はトラックでの活躍が目立つがマラソンでも、日本代表に手が届くランナーが台頭してきた。

引退した日本代表選手に授ける功労賞。リオ五輪マラソン代表の佐々木悟、旭化成からは16年ぶりに生まれた五輪マラソン代表だったが、入賞にも届かず。しかし、日本人トップで纏める走りはアトランタ五輪の谷口浩美とシドニー五輪の川嶋伸次を思い出させた、ある意味「旭化成らしい」走りだった。「山の大東大」と呼ばれた大東文化大時代には、箱根駅伝の山登り(5区)も経験している。同じくリオ五輪代表の田中智美。前年の世界陸上では選考レースで優勝しながら代表に選ばれずに物議を醸したが、翌年のナゴヤウイメンズでは小原怜との競り合いの末に一秒差で五輪代表の座をゲット。「ドラマチック」な競技人生だった。十八銀行の野上恵子、女子に比べると競技者寿命の短い日本の女子マラソンランナーの中で、29歳で初マラソン、2018年のジャカルタアジア大会で銀メダルを獲得したのは32歳の時、という遅咲きのランナーだった。
そして、もう一人、JP日本郵政グループ女子陸上部の第1期生の一人関根花観。リオ五輪の10000m代表に選出、チームの全日本実業団女子駅伝初優勝にも貢献、と郵便局に勤務する僕に、かつて、母校の陸上部出身の土佐礼子が与えてくれた喜びと驚きを与えてくれた。初マラソンも2時間23分7秒の好タイムだったが、以後は故障でМGCは欠場。引退後は保育士に転身するとの事だが、第二の人生での健闘も祈りたい。

特別賞には男女の愛媛マラソン優勝コンビを選んだ。男子優勝は東京のスーパー、コモディイイダの岡山春紀。一都三県に店舗を持つ、愛媛は無縁のスーパーの名前が愛媛のマラソン・ファンの記憶に刻まれた。10000mのベストタイムが30分切っていないのに、マラソンで2時間14分台とはよほどマラソンの適性の高いランナーと言えそうだ。しかし、愛媛マラソンの主催者、スポンサーでもある県内実業団のエースランナーの連勝を阻むような県外の強豪ランナーやら箱根駅伝を走った学生ランナーを招待し、地元ランナーを簡単に勝たせないところがいい。女子の優勝者は下門美香。いくつかの実業団を渡り歩き、「プロランナー」と活躍しているがその言動にはネット上ての批判も少なくない。しかしながら今回、女子の大会記録を更新2時間33分57秒で優勝。祖母が愛媛にいることをアピールしていて、愛媛での好感度を高めようとしていた。去年も招待されていたけど、故障を理由に欠場。その翌週にYouTubeにペース走の画像をアップしていたのも勘弁してあげようかな。
今回の愛媛マラソン、ほとんど注目されていなかったが、1500mの日本記録保持者で東京五輪5000mの代表に内定している田中希美の母親、田中千洋が出場していた。実業団に所属せずに、証券会社の受付をしながらトレーニングを続け、1997年の北海道マラソンで優勝、結婚後も走り続け、日本人ランナーで初めて、出産後に2時間30分を切った。その時の子供が五輪代表とはなんとも感慨深い。

努力賞、男子はびわ湖、福岡で2大会連続して2時間8分台の作田直也。ロンドン五輪マラソン代表の藤原新を輩出したJR東日本陸上部だが、それに続くランナーがなかなか台頭してこなかった。コニカミノルタのマネージャーだった大島唯司監督が就任し、コニカミノルタではロン毛をなびかせ走るイケメンランナーとして人気の高かった迎忠一をコーチとして迎え、コニカミノルタ同様に「ロードレースに強い」ランナーが育ってきた。あの「箱根駅伝でコースアウトした」寺田夏生も、2時間8分3秒で福岡国際3位。コニカミノルタから移籍してきたポール・クイラも7位と福岡はJR東日本の躍進も目立った。
(12月30日に発表して分に寺田夏生も追加した。)
女子は2019年の「ベスト市民ランナー」の山口遥。大阪国際女子で自己ベストを更新して7位。そして、10月にはブルガリアのソフィアマラソンで3位入賞。これが2020年唯一の日本人ランナーの欧州のマラソン出場となった。出場を決断した「勇気」も評価したい。

日本での大会で好成績を残した外国人ランナーに授与する優秀外国人賞、2020年もまた東京マラソンの男女の優勝者。男子は2019年にも日本人トップに5分30秒以上の差を付けて優勝したビルハヌ・レゲセが2連勝。女子はこのマラソン大賞史上初のイスラエル国籍のランナーが授賞。2時間17分45秒の大会最高記録で優勝したロナー・チェムタイ・サルペーター。ケニア出身で2008年にイスラエルに移住。ランニングを始めたのはイスラエルに移住後で、リオ五輪にもイスラエル代表で出場している。産油国のアフリカ出身選手とは事情が異なるようである。

敢闘賞に選んだのは、防府読売マラソン優勝の丸山竜也。全くノーマークの選手がレース後半、5km14分台の驚異的なペースアップで2時間9分36秒で初優勝。12月4日の日本選手権でも27分52秒27の自己ベストをマークしていたが、その好調さをマラソンでも維持していた。所属先の八千代工業はどうして、ニューイヤー駅伝出場を逃したのだと思ってしまった。そしてもう一人、福岡2位の大塚祥平。東京五輪で補欠代表のランナーだが、福岡でも欠場した五輪代表の服部雄馬に代わり、レースの終盤を盛り上げた。30km以降のタイムは優勝した吉田祐也を上回る。松田瑞生については、一山麻緒と共にコメントしたい。

殊勲賞に上門大祐を付け加えた。空前の記録ラッシュとなった2020年の東京国際マラソン。2人の2時間6分台ランナーを選んだ。高久龍は東洋大学時代に箱根駅伝での優勝を経験したランナー、上門は箱根駅伝とは無縁の京都産業大学出身。関東以外の大学出身者では元日本記録保持者の高岡寿成(龍谷大)以来、2人目の6分台ランナーである。上門に日本人初の6分台ランナーだった、自身の指導者である大塚製薬の犬伏孝行監督のタイム2時間6分57秒を3秒上回った。余談だが、最近の犬伏監督の写真を見たら、山下泰裕JOC会長と見間違えそうだった。今回より採用された、新たなるマラソン代表選考方式であるMGC。それがかくも「残酷」なドラマを生み出すものかと驚嘆するような結果が女子で生まれた。

2019年9月のレース(MGC)で上位2名を東京五輪代表に内定。残り1人はさいたま国際、大阪国際女子、ナゴヤウイメンズの3大会で設定記録を上回るランナーを選出。設定記録突破者ゼロの際にはMGCで3位のランナーを代表に選出。

大阪国際女子でMGC4位の松田が設定記録を上回る2時間21分47秒で優勝、MGC3位で、リオ五輪代表を1秒差で逃した小原怜は13位に沈み、代表入りを逃す。ここまででも、十分「ドラマ」だったが、五輪イヤーのナゴヤは今回もまたそれを凌ぐ「ドラマ」を生み出した。2019年の新人賞の一山麻緒が松田のタイムを上回る2時間20分29秒でひっくり返した。
これを何と表現したらいいのだろうか。

MGC以後の主要レース、設定記録の高さから「消化試合」になることを危惧する向きもあったが空前の高速化が思いもよらぬ幕切れを生み出した。これは長く語り継がれるかもしれない。

優秀選手賞、最優秀選手(マラソン大賞)については、改めて。おそらく多くの方(どんだけおるんや?)の予想を裏切るものだったと思う。


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