ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

乃木坂総論 ~ 「頑張るアイドルの選挙アトラクション」を越えて

2013-05-13 16:25:33 | 芸能
「16人のプリンシパルdeux」東京公演が昨日、無事に千秋楽を迎えた。

厳しいレッスンを乗り越えたメンバーたちが、第一幕で懸命の演技を見せ、希望する役を獲得しようとする姿が感動的で、乃木坂ファンからは、評価する声が多く聞かれたイベントだった。

和田まあやが高山一実に競り勝って人気の「今和洋子」役に選出されたり、川後陽菜が白石麻衣を抑えて「今和誠一」役を得たり、普段は活躍の機会が少ないアンダーメンバーが、舞台上で躍動したのは、このイベントの醍醐味だったかもしれない。

しかし、手放しで喜んでばかりもいられない、問題点も見え隠れしている。

乃木坂の発展のためにも、もう一度振り返って考えてみたい。

この10日間、個人的にとくに注目していたのは、プリンシパルの観客のうち、乃木坂ファンではない人の感想だった。

例えば、演劇そのものが好きで、「演出:江本純子、脚本:喜安浩平」に期待して劇場に足を運んだひと。

あるいは、乃木坂以外のアイドルファンで、試しに一度は乃木坂を、と観に行ったひと。

乃木坂ファンという「3D眼鏡」を掛けないで舞台を鑑賞した人たちの声である。

そして、そこには、ある共通する批判が見てとれた。

第二幕の筋立てが、よく分からない。殺人の動機や感情の流れに疑問点が多い。

加えて、台詞を間違えたり、それを修正せずに進めたりなど、演じるメンバーの力量にも問題があって、劇そのものが厳しいものになっていた、という声である。

脚本を担当した喜安浩平氏は、5月3日のプリンシパル初日に、ツイッター上で、「台本は随分脚色されているから」「私が書いた部分を見つけるのは大変だろう」と発言している。

さらに、「投票によって毎日配役が変るので、もはやなにがどうなるのかさっぱりわからない」と結んでいる。

喜安氏のコメントから見えてくるのは、独特の投票システムを導入した結果、演出する現場が、役者の力量を必要とする台本の箇所、恐らくは長ゼリフ、難しい感情表現、あるいは、巧妙な掛け合い、といったものを放棄せざるを得ず、氏の書いたもともとの世界から大きく外れた、別物のドラマが出来上がったということである。

そして、第二幕では、ミステリーというより、大きな声を出して元気よく演じる、といった点に注目して欲しい、そんなお願いが主催者から出てくることになった。

一種の開き直りである(笑)。

喜安氏は4月6日のツイッターで、「正面からテキストどおり取り組んだら彼女たちにはとうていアレだろうことを書いているので、むしろ壊して噛み砕いていただいた方がいい」とつぶやいている。

残念に思うのは、乃木坂には相当な潜在能力を持った逸材が何人もいて、もし、正面から取り組んでいれば、喜安浩平氏の描く魅力的な世界を、完璧とは行かなくとも、ある程度、舞台上で表現出来たのではないかという点だ。

例えば、生田絵梨花はキャリアも実力も、ほぼプロレベルに近い。

さらに、若月佑美、能條愛未、桜井玲香といったメンバーも、適切な役を割り振って、1ヶ月ほど徹底的に稽古をつければ、役者として急速に実力をつける可能性がある。

そういう姿を喜安氏に見てもらったら、「彼女たちにはとうていアレだろう」という意見が変わって、さまざまな貴重なアドバイスを頂けたかもしれない。

そこに、例えば、渡辺いっけいや山村紅葉といった実力のあるプロの俳優を、脇役として要所に配置して、「シャキイズム」ミュージックビデオの嶋田久作氏のように、ドラマのベースを作ってもらえば、これがアイドルの舞台なのか、というほど完成度の高い、面白い劇を提供出来たかもしれない。

良い作品を作り上げて、観に来てよかったと心から思って貰えれば、これまで乃木坂に関心のなかった人が、新たにファンになってくれる可能性もある。

舞台にしろ、ミュージックビデオにしろ、ライブにしろ、良質の作品は、間違いなく新たなファンを増やし、ファンの裾野を広げていく。それは、乃木坂のような発展途上のアイドルグループにとって、一番大切なことだと思う。

ももいろクローバーZが「Ozzfest JAPAN 2013」に参加して、メタル系ロックのファンを巻き込んで、パワフルなライブを展開したのは、プリンシパル千秋楽前日の出来事である。

しかし、5月3日のツイッターによると、喜安氏には「結局一度も稽古場に」来て頂けなかったようだ。

生田絵梨花は「日本アカデミー賞で優秀作品賞を獲られた」喜安氏の脚本で芝居することを楽しみにしていた(B.L.T6月号関東版P134)ようで、一度でいいから、稽古場で氏から直接指導を受けたかっただろうと、彼女の気持ちを思うと切なくなる。

そもそも、書いた部分を見つけるのが困難なくらいに台本を変えるのであれば、喜安浩平氏を起用する意味がないし、そういう状態で「江本純子と喜安浩平がタッグを組んで」というイメージで宣伝するのは、いささか問題があるのではないだろうか。

「君の名は希望」の映画オーディションのミュージックビデオも、今回の「16人のプリンシパルdeux」も、メンバー同士の競争に力点が置かれ過ぎて、作品の質が二の次になっている気がしてならない。

競争のための競争、サバイバルのためのサバイバル。

秋元康氏は、アイドルにはそんな飛び抜けた才能はなくて、どういう出来になるか分からない舞台劇より、役を巡って素人がガチ競争する過程の方が、魅力的なドラマだと考えているのだろうか。

そうであれば、彼女たちの秘めた才能を、冷ややかな視線で見ているわけで、秋元氏の下では、それがいくら前途有為なものであっても、花開かないということになる。

現在、AKB48が漠然とした閉塞感に包まれているのは、そのへんに原因があるのではないかと、危惧している。

もし、卒業生や卒業予定のメンバーが、アイドル以外の各方面に進出して、独自の才能を発揮して活躍するようになれば、また違った雰囲気になるのではないだろうか。

実際、ジャニーズは、SMAPのメンバーは言うに及ばず、亀梨和也がプロ野球の解説をしたり、岡田准一が映画俳優として良い仕事をしたりと、かなりそれに近い状態となっている。

乃木坂も、例えば、生田絵梨花がカンヌで女優賞を獲ったり、若月佑美が売れっ子女優から映画監督に転身したり、松村沙友理が高感度タレントで何度もトップになる、ということになれば、乃木坂は伝説のグループとして高く評価されていくだろう。

そして、そのためには、アイドル時代に、「ガチ競争」ばかりさせてないで、将来を見据えて「育てる」という視点が絶対に不可欠である。

しかし、作品の質を低下させるというデメリットの一方で、今回の投票システムがイベントを盛り上げ、大きな観客動員力を発揮したことは、否定出来ない事実である。

演劇経験のない普通の少女たちが、度外れの努力で短期間に16個もの役をマスターして、第一幕のオーディションに挑む。

第二幕へ進めるのは誰か、誰がどの役をやるのか、

努力の行方を最終的に決めるのは観客である、あなた。

どっちの努力ショー、頑張るアイドルの選挙アトラクション。

ファンにとっては、夢のテーマパークなのかもしれない。

乃木坂のプリンシパルは、AKBグループの総選挙と同様、ファンがそれに飽きるまで続いて行くような気がする。

そういったイベントが、乃木坂の発展やメンバーの成長に、本当の意味でつながるのか、問題意識を持ち続けようと思う。


「乃木坂総論」には、他に以下のような記事があります。

乃木坂総論 ~ 「サバイバル」より星野、和田、川後のユニットを見たい
乃木坂総論 ~ 6枚目シングル、楽曲の方向性
乃木坂46、6th選抜は「安全運転」
乃木坂46、6th選抜の行方を考えてみる

また「乃木坂各論」は第2話まで扱っています。

乃木坂各論第1話、生田絵梨花 ~ 天才少女がやって来た!
乃木坂の風 08May13 ~ (各論第2話) 若月佑美、相克の美少女アーティスト

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