ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

過密日程&音声技術の全国ツアー神宮千秋楽、白眉は「別れ際」のダンスと生田絵梨花の物語 [02Sep15]

2015-09-02 16:30:00 | 芸能
8月31日月曜、神宮スタジアムで開催された『真夏の全国ツアー2015』最終公演に行ってきました。

心配された天気は、ライブの前半、時折小雨が降る程度で、それも終盤にはすっかり止み、パフォーマンスや観覧の妨げにはなりませんでした。

感想を一言で述べると、メンバー、サイリウム、笑顔、涙、花火、あらゆるものがキラキラ、ひたすらキラキラ、美しく輝いている、そんな夢のような世界に酔いしれた3時間でした。

去年のように、晴れ渡った夕暮れと夜空はなかったけど、地上の光はより一層輝きを増していたようで、満足度の高いライブでした。


とにかく、スクリーンに映し出されるメンバーが、もう1人残らず、眩しいばかりのオーラを放っている。

Real Sound が行なった、伊藤万理華と中元日芽香へのインタビューの中で、ひめたんは「メンバー個々の輝きが去年とは全然違う」と述べていますが、その言葉通りの現実を、自分の眼で直接確認した気分です。

Real Soundの記事「12thシングル『太陽ノック』インタビュー」

しかも、星野みなみが頻繁にスクリーンに映し出され、とびきりキュートな笑顔や涙に頬を濡らした切ない表情などを、定期的にぶっこんでくるので、定期的に悶絶することになり、いや~、みなみファンとして、堪らんものがあった(笑)。


「乃木坂ニュース」のコーナーで、MCの桜井玲香から最初に指名され、みなみが「みなさんのお陰で成長しました」と言ったときは、耳を疑いました。

以前は、こんなこと言うような子じゃなかったんだけど(笑)。

さらに、「私ごと?なんですが、13th選抜で2列目になりました」と切り出してからの展開がナイス。

隣にいる齋藤飛鳥を引き寄せ

同世代のあすかもね、初めて10福神に入って
若いメンバーが引っ張っていかなきゃなって思う

と、さほど若くないフロントには、ちょっと任せられないなぁ的な、思い切った発言をぶっ込んできます(笑)。

多分、台本通りのコメントで、前日深夜の『乃木坂工事中』で発表された13th選抜について、誰かが触れなきゃいけないけど、何を言っても反発を買う危険があるので、まあ星野みなみなら、「可愛い~」で許されるだろうといった、あざとい抜擢なのでしょう。

ある意味、難しいヒール役ですが、あしゅとの「エイ、エイ、オー!」が合わず、もう一度やり直すあたり、場を和ませる、絶妙なさじ加減で、トークコーナーで笑いを取るなんて、みなみは本当に成長したと思います。


星野みなみ以外で印象に残ったメンバーは(笑)、まず、生駒里奈が常軌を逸してカッコ良く、かつ可愛かった。

13th選抜では初めての3列目となり、このライブが、12thセンターとして、最後の仕事という強い思い入れがあったのかもしれません。

表情の中に、決意や覚悟が含まれていて、いつもの軽快な感じに、何と言うか、重みが加わり、「色気」と呼びたくなる、キリリとプリティが同居した魅力を発していました。

センターに復帰して、その後、初めて福神から外れたこと、そういう経験をすべてプラスなものとして、自分の中に取り込んでいこうと、小さな身体で、懸命に足掻いている姿が、観ている我々の心を揺さぶるんでしょうか。


それから、もう一人、桜井玲香がMCとして、もの凄い進歩を遂げていて、「ポンコツ」感がほぼゼロで、ややショックを受けたほどです。

かつては、「ということで」を連発して、情報やコメントのオウム返しに終始している印象があった(笑)。

その上、サプライズ発表への対応が大の苦手で、その度に、生駒ちゃんが急遽、MCになっていた記憶で溢れています。

ところが、今回の神宮ライブでは、作り込んだ台本があったのかもしれないけど、良い感じの間合いで、中味のあることをしゃべり、ショーを上手く進行していました。

キャプテンが本筋をしっかり作ったため、生駒ちゃんは、煽りやアピール、あるいは場面転換といった、要所要所での役割に専念出来て、乃木坂ライブの進行において、桜井・生駒による分業体制が確立した気がしました。

みなみ、生駒ちゃん、桜井さん、その他のメンバーも、驚くほどの速さで、メキメキ成長していて、ファンとしては、うっかり目を離せないという、嬉しいプレッシャーを感じました。

乃木坂のライブは、MCや余興に、素人っぽい雰囲気があって、それはそれで好きだったけど、結成5年目に入って、いよいよ卒のない、プロのエンターテイメントに変化しつつあるようです。


月曜日は、ライブの後、家に帰って、西友の冷蔵ピザをつまみに、ビールなどを飲みつつ、録画したスカパーの中継番組を観て、神宮の余韻に浸り、「乃木坂最高!」と、一件落着した素敵な日になりました(笑)。

しかし、ライブとして、百点満点だったのかと言われると、不満がないわけではない。

みなみの笑顔やいくちゃんのピアノで吹き飛んでしまったけど、冷静になって振り返ってみると、その不満の中には、今後の乃木坂を考える上で、無視出来ないポイントも含まれている気がします。


自分がブログを書いてなかったら、2015年のカレンダーを眺めて、渋谷 AiiA 2.5 Theater Tokyo で行なわれる、舞台『すべての犬は天国へ行く』[10月1日(木)~12日(月)]と『乃木坂46 アンダーライブ 4thシーズン』[10月15日(木)~17日(土), 20日(火)~25日(日)]のどこを押さえるかを考え始めて、心はさっさと「Next」に向かっていたと思います。

ただ、神宮ライブを振り返るのであれば、「乃木坂最高!」だけでは、ファン以外おそらく誰も読まないだろうから(笑)、吹き飛んでしまった不満のカケラを集めて、自分が感じた物足りなさや疑問の正体を探り、感覚や主張をより鮮明にする必要がある。

ということで、これ以降は、私がライブで感動した「光」のシーンだけでなく、輝きが弱くなったと感じた場面や、その背後に何があったのか、といった余計な話が出てくるので、「光」だけで十分という方は、読み進まない方が良いかもしれません。



二つのことが、今回の神宮千秋楽ライブに大きな影響を与えていると思いました。

一つは、メンバーが超過密スケジュールに直面しながら全国ツアーを行なったことです。

5月25日(月)に始まった連続主演ドラマ『初森ベマーズ』の撮影は、6月、7月と続き、クランプアップしたのが、8月19日(木)だそうです。

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一方、全国ツアーは以下の日程で開催されました。

08月05日(水)『真夏の全国ツアー2015 宮城』第01公演(18:00) in ゼビオアリーナ仙台
08月06日(木)『真夏の全国ツアー2015 宮城』第02公演(18:00) in ゼビオアリーナ仙台

08月08日(土)『真夏の全国ツアー2015 愛知』第03公演(17:00) in 日本ガイシホール
08月09日(日)『真夏の全国ツアー2015 愛知』第04公演(11:00)&第05公演(16:00) in 日本ガイシホール

08月15日(土)『真夏の全国ツアー2015 広島』第06公演(17:00) in 広島サンプラザホール
08月16日(日)『真夏の全国ツアー2015 広島』第07公演(11:00)&第08公演(16:00) in 広島サンプラザホール

08月19日(木)『初森ベマーズ』クランクアップ

08月22日(土)『真夏の全国ツアー2015 福岡』第09公演(17:00) in 福岡国際センター
08月23日(日)『真夏の全国ツアー2015 福岡』第10公演(11:00)&第11公演(16:00) in 福岡国際センター

08月25日(火)『真夏の全国ツアー2015 大阪』第12公演(18:00) in 大阪城ホール
08月26日(水)『真夏の全国ツアー2015 大阪』第13公演(13:00)&第14公演(18:00) in 大阪城ホール

08月30日(日)『真夏の全国ツアー2015 東京』第15公演(17:00) in 明治神宮野球場
08月30日(日) 深夜『乃木坂工事中』13th選抜メンバー発表
08月31日(月)『真夏の全国ツアー2015 東京』千秋楽第16公演(18:00) in 明治神宮野球場


つまり、『初森ベマーズ』の撮影は、全16公演ある全国ツアーの半分が終了する時点まで続いており、しかも、その8公演は宮城、愛知、広島と移動距離の長い地方で行なわれている。

高山一実は、千秋楽翌日のブログに、

12枚目の期間は今までの人生で一番濃かったと思います。
舞台もドラマも番組もライブも、みっしり詰まっていて5月から8月終わるまでの3ヶ月間は1日しか休みがありませんでした。

高山一実の2015/09/01_13:06ブログ

と書いていて、過酷な日程の中で、全国ツアーが進んだことが分かります。


こういったスケジュールを乗り切ったことが、大きな感動を呼んでいるのだけど、一方、千秋楽において、その弊害かもしれないと、疑いたくなる点がありました。

ドラマにほぼ毎回出演する12th選抜メンバーによる幾つかのステージで、全体ダンスのフリがあまり揃ってないのでは?、と少し気になったんですね。

その典型例が、「羽根の記憶」です。


神宮のような大箱では、個々のメンバーが会場を走り回って、観客を煽ったり、推しタオルや団扇を指差して、レスしたりすることが多いので、一箇所に固まってのダンスは少ない傾向がある。

しかし、「太陽ノック」の紺色系衣装で、12th選抜メンバーが踊った「羽根の記憶」は、出だしこそメンバーが散らばっていたものの、最後に、特設センターステージに集まり、全体ダンスを披露します。

この中で、3列目、2列目、1列目のメンバーが、少しずつタイミングをズラして両腕を下から上に動かし、最終的に、全員で「アメイジング」のようなポーズを取るフリが入っています。

おそらく、鳥が羽根を広げるシーンを、表現しているのだと思いますが、同じ列にいるメンバー同士の腕を上げるタイミングがしっかり揃っておらず、その個人差によるズレが、列ごとに発生させるべきタイミングのズレとあまり変わらないため、何かウエーブのような印象を受け、振り付けの意図が伝わりにくかった。

ここは、乃木坂が大空に飛翔していくことを暗示する、「見せ場」の筈で、だからこそわざわざ全体ダンスを入れたのだと思いますが、揃いの完成度に問題があって、観ていて少し残念でした。


揃いが甘かった原因は、全体練習の不足だと思います。

「命は美しい」のように、難度の高いダンスの場合は、個々のダンススキルを根本的にアップしなければ、どんなに全体練習を重ねても、振り付け師が意図する表現を、なかなか形に出来ないことがある。

しかし、「羽根の記憶」ダンスの、列ごとにタイミングをズラすフリは、練習さえ積めば出来る筈で、これが出来ていないのは、全体で繰り返しタイミングを合わせる時間が、決定的に足りなかったことを意味します。


12枚目シングルでは、こういった「時間不足」が目立ちます。

「太陽ノック」MVの終盤に披露されるダンスシーンでは、生田絵梨花がフリを間違えていると、ネットで話題になりました。

いくちゃんも人間なので(笑)、いつもいつも完璧というわけに行かないのは当たり前で、もう一度、撮影すれば済むことなんだけど、撮り直しをせず、完成したシーンとして、そのまま収録してしまっている。

さらに、「魚たちのLOVE SONG」MVでは、白いドレスを着た、白石麻衣、橋本奈々未、高山一実、深川麻衣の4人による終盤のダンスが、あまりに不揃いで、「どんな意図が込められているんだろう?」と考え込んでしまうほどです(笑)。


12th選抜は、5月10日(日)深夜の『乃木坂工事中』で発表され、『初森ベマーズ』のクランクインが5月25日(月)。

12枚目の制作期間は、ドラマ撮影とほぼ完全に重なっていて、主役級として毎回出演する選抜1列目2列目が、MVやペアPVに際して、「時間不足」に陥るのは容易に想像が出来ます。

生田絵梨花と白石麻衣の「ペアPV」は、二人が直接会って絡むシーンがなく、トップメンバーが超多忙だったことを物語る象徴的な作品になっています。


ドラマの番組プロデューサーは、打ち上げの挨拶で、桜井玲香が、「6月には撮影が終了すると聞いていた」と述べたことをツイッターで明かしています。

つまり、全国ツアーの期間にまでドラマ撮影が延びるとは、乃木坂側も予想していなかった可能性が高い。

しかし、連続ドラマの撮影が予定通り進まないのは、珍しくない筈で、数ヶ月に渡って拘束されるような番組に関わるメンバーは、選抜に入れず、それ以外のメンバーを中心に12th選抜を構成するのが、本来の姿です。

シングルもドラマもライブも、何でもかんでも福神メンバー中心という強引な発想が、12枚目収録のMVやPVの質を低下させ、全国ツアーが千秋楽に至っても、全体ダンスの完成度が上がっていない事態を招いたんじゃないでしょうか。


こういったマイナス点を、メンバーは限界ギリギリまで頑張ったのだからと、スルーする気にならないのは、最近の運営のスケジュール設定や選抜選考に、「シングルやライブのクオリティが少々下がっても良いじゃないか」という姿勢が見え隠れするからです。

乃木坂の未来を考えると、シングルでもライブでも、パフォーマンスの質だけは妥協すべきでない。

乃木坂メンバーと握手が出来る魅力によって、選抜メンバーやタイトルさえ分からない段階から、飛ぶようにCDが売れるのだから、気を抜くと、あっと言う間に収録コンテンツのクオリティは低下していくでしょう。

そんなクオリティを軽視する乃木坂に、私はなって欲しくないし、少なからぬファンが、同じ思いを抱いてるんじゃないでしょうか。

「羽根の記憶」全体ダンスの不揃いは、偶然のミスではなく、それを招いている背景に、無視出来ないものがあって、指摘せざるを得ないわけです。


一方、アンダーメンバーによるパフォーマンスは、やはりと言うか、案の定というか(笑)、総じて出来がよく、例えば「ここにいる理由」は、ダイナミックに変化する全体フォーメーションなど、見どころが多かった。

まあ、伊藤万理華という、両腕を広げるだけで絵になるような、壮絶にダンスの上手い人がセンターを務めていることが、このパフォーマンスの魅力をぐいぐい高めている面はあると思います。

しかし、ダンスの練習に比較的多くの時間を充てられるというメリットが、アンダーによるダンスのレベルが高い、大きな理由じゃないでしょうか。

そして、披露されたすべての曲の中で、私がもっとも素晴らしいと感じたのは、やはりアンダー曲である「別れ際、もっと好きになる」のパフォーマンスです。


胸元に大きな襞をあしらった、おしゃれで上品なドレスを着て、堀未央奈センターの12thアンダーが披露したダンスは、各メンバーの腕の振りやターンがシャープである上に、全体ダンスがよく揃っていて、完成度が高い。

終盤、全員が集まったとき、3列の密集隊形で前2列が座り、親指と人差し指で輪を作った両手を、中央前から後ろに向かって順に上げていき、最後に両側の全員が一斉に上げるシーンは、タイの伝統舞踊を思わせるようなダンスで、波のようにリズミカルに伝搬する、動きの流れが表現されていて、鳥肌が立つほど、圧巻の出来栄になっています。

また、毅然としながら、それでいて好きな人への切ない思いが滲んでいるような、魅力溢れる表情をメンバーが見せていて、引き込まれました。


とくに、堀未央奈の発するオーラには、畏怖の念を覚えるほどの迫力がある。

コミカルながら切ない思いを抱く主人公を好演した「別れ際、もっと好きになる」MVや、傷だらけの顔で演じた『初森ベマーズ』の硬派なカチドキ役など、堀ちゃんは、髪をショートにしてから、登場する度、100%の確率で、素晴らしい爪痕を残している感がある。

もともと、類い稀な存在感を持っていたけど、最近、シリアスな雰囲気に一層磨きが掛かってきて、急速に成長している気がします。

12thアンダーは、堀未央奈を中心に、ダンスの上手い中元日芽香、中田花奈、川村真洋と、成長著しい北野日奈子がフロントに入っており、こういったパフォーマンス重視の布陣が、「別れ際、もっと好きになる」の成功につながっていると思います。


アンダーライブの4thシーズンが非常に楽しみだけど、もっと踏み込んで言えば、12thアンダーをそのまま12枚目の選抜にして、「別れ際、もっと好きになる」を表題曲にするのが、最善だったんじゃないでしょうか。

そして、現在の12th選抜は、ベマーズ選抜としてドラマに専念して、担当楽曲数を減らせば、MV、PV、ライブのためのダンス練習に、もっと時間が割けたと思います。

連続主演ドラマのような大仕事が入ったときは、ドラマ選抜とシングル選抜のように、分業体制を敷くべきで、それをしなければ、どこかのクオリティが犠牲になるのは避けられません。

握手会成績の上位が、華々しい仕事を総取りするシステムは、乃木坂の外仕事がまだ少なかった頃は、問題が表面化しなかったけど、連続10話以上の30分ドラマといった、大きなメディア仕事が入るようになったら、考え方を変えないと、やがて行き詰まるのは当然です。

全国ツアー千秋楽の「羽根の記憶」と「別れ際、もっと好きになる」の二つのステージは、まさに今、そのやり方が行き詰まりつつあり、しかもどこに解決策があるのかを示していると思います。


神宮千秋楽ライブに大きな影響を与えた、もう一つは、驚くほど高度な音声加工技術が投入された可能性が高いことです。

オーケストラをバックに、生田絵梨花がピアノを演奏し、彼女を含めたメンバーが歌を担当した、「何度目の青空か?」「君の名は希望」「悲しみの忘れ方」のライブ最後のステージは、美しい音楽と歌唱だけでなく、途中、花火が上がったり、いくちゃんが鍵盤を叩きながら、感極まって涙を浮かべたり、本当に感動させられる名場面の連続でした。

ただ、神宮のような大きな屋外会場で、オーケストラの生演奏に載せて、歌声をすべての観客に届けられるのは、それが完全な生歌であれば、オペラ歌手になれるレベルの歌唱力です。

それほど、会場に響いたメンバーの歌唱は、かつて聴いたことがないほど、音が正確に取れている上に、ボリュームが申し分がなかった。

メンバーの歌声を、機械によって大きくしているのは間違いないのだけど、単に大きくしているだけではなく、音の外れた部分を、高い精度で修正し、しかも、不自然にならないタッチに仕上げる音声加工技術が使われているのだと思います。


それが一番明確に現れたのが、西野七瀬が初森第二の制服を着て、ソロで歌った「もう少しの夢」です。

『初森ベマーズ』のエンディング曲ですが、最初のフレーズを聴いて、「な、なーちゃん、家入レオを越えてるやん」と、腰を抜かしそうになった(笑)。

低いキーを物ともせず、豊かな声量でスタジアム全体に響き渡らせる歌唱力は、渡辺美里の西武球場ライブを彷彿させるものがある。

しかも、特設センターステージから、バックスクリーン側のメインステージに向かって歩いても、息切れせず、声量を保ち、確かな音程で歌い続けていました。


西野七瀬は、昨年の神宮ライブで、初披露された10枚目表題曲「何度目の青空か?」を、生田絵梨花に続いて、白石麻衣と歌いましたが、大きな声を張り上げながら、音を取るのは、1単語が限度で、かなり苦労していました。

もちろん、ななせまるの歌唱力が、この一年で急速に進歩した可能性はあるけど、いくらなんでも、仕上がっているレベルが高過ぎるので、オーケストラをバックに歌ったステージと同じく、かなり高度な修正技術が入っているのだと思います。

面白いのは、スカパー版だと、神宮で聴いたものより、声量が小さく、音程もやや甘いんですね。

2月に西武ドームで開催された『乃木坂46 3rd YEAR BIRTHDAY LIVE』で、会場に行った人と、スカパーで鑑賞した人が、違う印象を持ったことが話題になりました。

そして、西武ドームの観客は、歌が上手かったと述べる人が多く、スカパー版の視聴者は、随分と音を外していたと指摘する人が多かった。

今回の神宮ライブでも、私は、会場の方が上手く、スカパーはやや下手という印象を受けました。

どうやら、ライブ会場に流す音源と、スカパーで放送する音源は、少し異なるようで、修正の度合いは、テレビ用の方が甘いようです。


しかし、「もう少しの夢」は、スカパー版でもかなり修正が入っていると思います。

というのは、長いフレーズを歌ったり、歩いて移動したりすると、声量が追いつかなくなって、次のフレーズが苦しくなるのが普通です。

これは、どんなに上手い歌手であっても起こることで、もちろん音は外さないけど、力みが入って、「声を振絞ってる」感が伝わってきます。

「もう少しの夢」の歌唱には、これが全然なくて、最初から最後まで、「スー」と引っ掛かりなく歌っている。


乃木坂メンバー全員が初森ベマーズとポラリスの2チームに分かれ、それぞれのユニフォームを着て、「太陽ノック(ストンプVer.)」「月の大きさ」「指望遠鏡」「会いたかったかもしれない」を披露したステージの前に、お馴染みの高橋大輔アナウンサーが、前振りをやってくれました。

「あつく、あつく、あつく、盛り上がっていきますか?」と叫ぶあたり、煽りのお手本のような名調子でしたが、マイクがあるとはいえ、生の声を、神宮球場全体に轟かせるため、相当に力が入っているのが伝わってきました。

その力みが、観客の心に火をつける一因でもあるんですが、大箱での生歌というのは、こういった喉に力の入る場面が少なからずある筈で、さすがに、そこまでのテイストを加味する技術はまだないのかもしれません。


実は、西武ドームライブでも、西野七瀬は「ひとりよがり」というソロ曲を歌っています。

そして、スカパー版では、息切れや力みが全部入っていて、それゆえ、私は、結構好きなんですね、ななせまるのこのステージが。

もちろん、上手く歌うに越したことはないけど、音声加工技術によって、修正された「自然で上手い歌唱」を聴くくらいなら、息が続かず、音を外し、力みも入っている、ありのままの「不自然で下手な歌唱」の方が良い。

とくに、ソロ曲の場合は、歌手がそういう風に歌うのであれば、下手であっても、それが正解だという見方が出来ます。


昨年の『FNS歌謡祭』で、GLAYのボーカルTERUが、自分が歌った音声の一部に、「間違い」があったとして、オンエアでは、修正されたものに、差し替えられていたことをツイッターで明かしています。

バンドのエンジニアチームが独自の判断で行なったそうですが、TERUさんにとっては、あまり愉快な出来事ではなく、今度からは差し替えずに済むよう、正確に歌唱したいと述べていました。

トップアーティストの思わぬ告白によって、音声修正技術の進歩と問題点に注目が集まりましたが、GLAYのTERUですら、知らない間に歌を加工されてしまう時代、乃木坂メンバーにファンが「本当の声を聴かせておくれよ」と頼むのは(笑)、難しくなっているのかもしれません。


しかし、「間違い」を修正するという考え方は、突き詰めれば、歌い手は、間違いを犯す人間ではなく、間違いを犯さない、バーチャルの方が良いという思想に行き着く危険があります。

12枚目に収録された、鈴木絢音と渡辺みり愛によるペアPV「イマガール」で、あーちゃん扮するミライが住んでいた2046年は、バーチャルのアイドルしかいない世界だそうですが、高度な音声技術が駆使された、2015年の神宮ライブは、30年後の未来として、その物語設定が荒唐無稽なものでないかもしれないと思わせるイベントでした。

かつて、大箱ライブが出来たのは、ごく一握りの歌手だけでした。

これは動員力や開催費の問題もあるけど、会場全体に歌を響かせるだけのスキルを持った人が、そんなに多くないという面もあったでしょう。

しかし、音声加工技術が発展すれば、乃木坂のように、握手会など、何らかの方法で人気を集め、そのハイテク使用料を払えるだけの資金をゲット出来れば、オペラ歌手のように、オーケストラと共演することも出来るし、ソロ曲をトップアーティスト並みに歌いこなすことも出来る、そんな可能性が開けてきた。

バーチャルアイドルは飛躍し過ぎだとしても、技術的に色んな演出が可能になりつつある今、では、アイドルの魅力とはそもそも何なのか、何をファンに届ければ良いのか、次第に見えにくくなっている気がします。


私自身は、音声技術を使っても良いけど、使わない完全な生歌を、何曲かは入れて欲しいと思っています。

やはり、加工しないありのままの姿、それこそが乃木坂というアイドルの魅力の源泉であることを、常に確かめていたいからです。

ダンスを間違え、音を外し、スキャンダルも起こす(笑)。

しかし、そういう自分を見つめ直して、より良くなろうと努力する過程にこそ、一番の魅力があるように感じます。


「太陽ノック(ストンプVer.)」は、『乃木坂工事中』で若月佑美がやらされた、ロボットダンスを思い起こす、罰ゲームのようなダンスに仕上がっていて(笑)、非常に楽しかったけど、その中でも、やはり秋元真夏は魅せてくれました。

バットを空中で一回転させ、再びキャッチするフリで、期待通りに、バットを落とし、真後ろの星野みなみまで慌てる場面がありました。

もう真夏さんの笑いの打率は10割で、ほぼ確実に「見せ場」を作ってくれる。

彼女を観ていると、どんなシーンであっても、「正解」なんてものはないことに、気づかされて、何だか勇気づけられます(笑)。

やはり、不完全であることの楽しさや美しさが窒息するような未来は、あまり来て欲しくないですね。


12th選抜メンバーにとって大きな負担となった過密スケジュール。

歌唱力アップに絶大なる威力を発揮する一方、本当の個性を封印しかねない、高度な音声加工技術。

乃木坂を巡るこういった壁を乗り越え、生身の人間の底力を、会場全体に響かせたのが、生田絵梨花でした。


初森ベマーズ、全国ツアー、音大の課題など、負荷が極限まで重くのしかかる中、1人ピアノに向かい、失敗の恐怖と闘い、プレッシャーを撥ね除け、3万人以上の観客の前で、オーケストラをバックにした弾き歌いに挑む。

しかも、「何度目の青空か?」の前奏部分は、かつてないほど難度の高いアレンジになっていて、実際、さすがのいくちゃんも、極度の緊張から、指使いがやや重く、珍しくミスタッチに近い音が二三ありました。

しかし、ここで挫けないのが、生田絵梨花の凄まじいところで、気持ちを切らさず、流れるようなリズムを維持して、最後まで弾き切ってしまった。

表情を見ていると、「何度目の青空か?」が最大の難関だったようで、次の「君の名は希望」は、スラスラといつもの軽快なタッチで弾き進み、「悲しみの忘れ方」では、曲の途中で涙を浮かべ、延々と続いた緊張から、ようやく解放される安堵感が伝わってきました。


演奏後、いくちゃんは、涙を流しながら、自分は決して1人ではなかった、みんなが助けてくれたんだと述べています。

この言葉は、彼女がこの夏、いかに孤独な闘いに直面してきたかを、かえって示すもので、聴いていて胸が熱くなった。

ピアノ演奏は、ダンスと同じく、修正出来ないので(笑)、もう自分の力で乗り越えるしかないんですが、まだ顔にあどけなさが残るこの少女は、たった一人でそれに立ち向かい、最後に、

弾きながら、この瞬間が本当に終わって欲しくないなと思いました

と述べる境地にまで達してしまった。

ステージの出来栄えを越え、生田絵梨花が紡いだ生身の人間の物語が、夏の終わりの神宮を光り輝かせたのだと思います。

そして、もし演奏加工技術があって、ミスタッチしても、音を外さないようなシステムだったら、これほど心震える物語が誕生したでしょうか。


白石麻衣は、37人それぞれの「乃木坂らしさ」があるかもしれないと述べていましたが、確かにその通りだと思います。

「乃木坂らしい」とは、そこに生駒里奈がいること、そこに桜井玲香がいること、そこに西野七瀬がいること、そこに白石麻衣がいること、そこに星野みなみがいること、そこに堀未央奈がいること、エトセトラと37通りの表現が出来ます。

そして、その中でも、「そこに生田絵梨花がいること」は、特別な響きを持っている。

乃木坂ファンで、そう感じるのは、私だけではないと思います。


1回目アンコールの2曲目として、「ダンケシェーン」が始まったとき、ゴンドラに乗っていた生田絵梨花は、

あなたの温かい
その背中が好きだった

と歌い出します。

少なくとも、スカパー版では、この歌唱は100%の生歌だと思います。

というのも、ファンへのアピールに気を取られて、マイクと口元の距離が変わる度、声量が大きく変化して、歌が大きくなったり、小さくなったりしていました(笑)。


私は、この歌唱が、神宮ライブのすべての歌唱の中で、もっとも素晴らしいと感じました。

いくちゃんの美しい生の歌声が、音量を揺るがせながら響き、緊張が続いた夏を取り戻すかのように、ゴンドラの上で、夢中になってはしゃぐ気持ちが、生き生きと表現されていました。

もちろん、顔が動いて、音量が不規則に変わるなんて、音楽的にはアウトですが(笑)、でも、これほど歌い手の弾ける喜びがダイレクトに伝わってきて、聴いてて楽しくなる歌は滅多にない。

どんな歌唱が聴き手を感動させるのか、「正解」なんて、誰にも分からない。

歌が持つ無限の可能性を、生田絵梨花が教えてくれているかのようなシーンでした。



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// 乃木坂メンバーが出演する映画・舞台・テレビ番組

[地デ] 毎週金曜 24 : 12 ~ テレビ東京『初森ベマーズ』
乃木坂46が主要役を独占する初の連続「単独」ドラマ。
テレビ東京の番組公式サイト

[映画] 『アイズ』秋葉原アキバシアターで上映中
伊藤万理華の主演映画。原作は鈴木光司の短編ホラー小説集『アイズ』(2005)収録の『しるし』。鈴木氏は、『リング』『らせん』『仄暗い水の底から』などの原作者。
映画『アイズ』の公式サイト
映画『アイズ』予告編
秋葉原アキバシアターにおける特別追加上映の情報
舞台挨拶の情報
伊藤万理華の2015/07/06_11:42ブログ

映画『アイズ』予告編 主題歌Ver. teenAge dream / SuG
SuG「teenAge dream」のMV

[映画] 『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』が全国ロードショー中
7月10日(金)からTOHOシネマズ新宿ほか各地の映画館
乃木坂による単独主演映画。7月10日(金)と11日(土)に全国でメンバー参加の舞台挨拶。
映画の公式サイト
舞台挨拶のスケジュール

[映画] 『コープスパーティ』が8月1日(土)から全国ロードショー
シネリーブル池袋ほか各地の映画館
生駒里奈の初主演映画。7月23日(水)19 : 00より、ユナイテッド・シネマ豊洲にて、舞台挨拶付きの完成披露試写会。
映画『コープスパーティ』の公式サイト
乃木坂公式サイトの試写会に関する記事


// 星野みなみの溢れる魅力

7月18日14:18 星野みなみ

乃木坂の風 09Oct13 ~ 星野みなみが放つ紺碧の輝き、代々木ライブの魅力と今後を考える

乃木坂の風 16Sep13 ~ 「みさ、原宿行くの?」、星野みなみに激怒する衛藤美彩! in 乃木坂の「の」

乃木坂各論第3話、星野みなみ ~ 紺碧の微笑、静謐の情熱、ここにヒロインがいる

さらに詳しく

アレチの素敵な乃木坂業務連絡 24Sep13 ~ 星野みなみのコーナー


// 特集ページ

アレチの素敵な乃木坂業務連絡 10Jul13 ~ えくせれんとブログの目次

アレチの素敵な乃木坂業務連絡 24Dec13 ~ 7枚目「バレッタ」の関連情報

アレチの素敵な乃木坂業務連絡 24Sep13 ~ 6枚目「ガールズルール」の関連情報

アレチの素敵な乃木坂業務連絡 24Sep13 ~ 和田まあやのコーナー

アレチの素敵な乃木坂業務連絡 06Jun14 ~「16人のプリンシパル deux」の関連情報

アレチの素敵な乃木坂業務連絡 19Jun14 ~「16人のプリンシパル trois」の関連情報

アレチの素敵な乃木坂業務連絡 24Jun14 ~ シングル収録全曲の簡易ハンドブック

アレチの素敵な乃木坂業務連絡 22Apr15 ~ レギュラー出演番組


# 記事中の青字部分は、テレビ番組、公式サイト、書籍、歌の歌詞などに、掲載されたものを、そのまま抜粋引用したことを表しています

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