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新古今和歌集の部屋

巻第十七 雑歌中

1586 河嶋皇子
白波の浜松が枝のたむけぐさ幾世までにか年の経ぬらむ

1587 式部卿宇合
山城の岩田の小野のははそ原見つつや君が山路越ゆらむ

1588 在原業平朝臣
葦の屋の灘の塩やき暇なみ黄楊のをぐしもささず来にけり

1589 在原業平朝臣
晴るる夜の星か河辺の螢かもわが住む方に海人のたく火か

1590 よみ人知らず
しかの蜑の塩焼く煙風をいたみ立ちはのぼらで山にたなびく

1591 紀貫之 ○
難波女の衣ほすとて刈りてたく葦火の煙立たぬ日ぞなき

1592 壬生忠岑
年経ればくちこそまされ橋柱むかしながらの名だに変らで

1593 恵慶法師 ○
春の日のながらの浜に船とめていづれか橋と問へど答えぬ

1594 後徳大寺左大臣
朽ちにけるながらの橋を来て見れば葦の枯葉に秋風ぞ吹く

1595 権中納言定頼 ○
沖つ風夜半に吹くらし難波潟あかつきかけて波ぞ寄すなる

1596 藤原孝善 ○
須磨の浦のなぎたる朝は目もはるに霞にまがふ海人の釣舟

1597 壬生忠見
秋風の関吹き越ゆるたびごとに声うち添ふる須磨の浦なみ

1598 前大僧正慈円
須磨の関夢をとほさぬ波の音を思ひもよらで宿をかりける

1599 摂政太政大臣
人住まぬ不破の関屋の板びさし荒れにし後はただ秋の風

1600 源俊頼朝臣
あま小舟苫吹きかへす浦風にひとりあかしの月をこそ見れ

1601 寂蓮法師
和歌の浦を松の葉ごしにながむればこずえに寄する海人の釣舟

1602 正三位季能
水の江のよしのの宮は神さびてよはひたけたる浦の松風

1603 藤原秀能
今さらに住み憂しとてもいかがせむ灘の塩屋の夕ぐれの空

1604 女御徽子女王
大淀の浦に立つ波かへらずは松のかはらぬ色を見ましや

1605 後冷泉院御歌 ○
待つ人は心ゆくともすみよしの里にとのみは思はざらなむ

1606 大弐三位 ○
住吉の松はまつともおもほえで君が千年のかげぞ恋しき

1607 祝部成仲 ○
打ちよする波の声にてしるきかな吹上の浜の秋の初かぜ

1608 越前 ○
沖つ風夜寒になれや田子の浦の海人の藻塩火たきまさるらむ

1609 藤原家隆朝臣 ○
見わたせば霞のうちも霞みけりけぶりたなびく塩釜の浦

1610 皇太后宮大夫俊成 ○
今日とてや磯菜摘むらむ伊勢島や一志の浦のあまのをとめ子

1611 西行法師
鈴鹿山うき世をよそにふり捨てていかになりゆくわが身なるらむ

1612 前大僧正慈円 ○
世の中を心高くもいとふかな富士のけぶりを身の思にて

1613 西行法師
風になびく富士の煙の空に消えて行方もしらぬわが思かな

1614 在原業平朝臣
時知らぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の子まだらに雪の降るらむ

1615 在原元方 ○
春秋も知らぬときはの山里は住む人さへやおもがはりせぬ

1616 前大僧正慈円 ○
花ならでただ柴の戸をさして思ふ心のおくもみ吉野の山

1617 西行法師
吉野山やがて出でじと思ふ身を花ちりなばと人や待つらむ

1618 藤原家衡朝臣 ○
厭ひてもなほ厭はしき世なりけり吉野のおくの秋のゆうぐれ

1619 右衛門督通具 ○
一筋に馴れなばさてもすぎの庵に夜な夜な変る風の音かな

1620 藤原有家朝臣 ○
誰かはと思ひ絶えてもまつにのみ音づれて行く風は恨めし

1621 宜秋門院丹後 ○
山里は世の憂きよりも住みわびぬことのほかなる峰の嵐に

1622 藤原家隆朝臣 ○
滝の音松のひびきも馴れぬればうちぬるほどの夢は見せけり

1623 寂然法師 ○
ことしげき世を厭れにしみ山辺にあらしの風も心して吹け

1624 権大納言師氏
奥山の苔のころもにくらべ見よいづれか霧の置きまさるとも

1625 藤原高光
白露のあした夕べにおくやまの苔のころもは風もさはらず

1626 よみ人知らず
世の中を背きにとては来しかどもなほ憂き事はおほはらの里

1627 大中臣能宣朝臣
身をばかつをしほの山と思ひつついかに定めて人の入りけむ

1628 恵慶法師
苔の庵さして来つれど君まさでかへるみ山の道ぞつゆけき

1629 (聖)
荒れ果てて風も障らぬ苔の庵にわれはなくとも露はもりけむ

1630 西行法師
山深くさこそ心は通ふとも住まであはれを知らむものかは

1631 西行法師
山かげに住まぬ心はいかなれや惜しまれて入る月もある世に

1632 寂蓮法師 ○
立ち出でてつま木をりこし片岡のふかき山路となりにけるかな

1633 太上天皇 
奥山のおどろが下も踏みわけて道ある世ぞと人に知らせむ

1634 二条院讃岐 ○
ながらへて猶君が代を松山の待つとせしまに年ぞ経にける

1635 皇太后宮大夫俊成 ○
今はとてつま木こるべき宿の松千世をば君となほ祈るかな

1636 藤原有家朝臣
われながらおもふか物をとばかりに袖にしぐるる庭の松風

1637 道命法師
世をそむく所とか聞く奥山はものおもふにぞ入るべかりける

1638 和泉式部 ○
世をそむく方はいづくもありぬべし大原山はすみよかりきや

1639 少将井尼 ○
思ふことおほ原山の炭竈はいとどなげきの数をこそ積め

1640 西行法師
たれ住みてあはれ知るらむ山里の雨降りすさむ夕暮の空

1641 西行法師
しをりせで猶山深く分け入らむ憂きこと聞かぬ所ありやと

1642 殷富門院大輔 ○
かざしをる三輪の繁山かき分けて哀とぞ思ふ杉立てる門

1643 道命法師 ○
いつとなきをぐらの山のかげを見て暮れぬと人の急ぐなるらむ

1644 藤原定家朝臣 ○
嵯峨の山千世にふる道あととめてまた露わくる望月の駒

1645 知足院入道前関白太政大臣
佐保川の流ひさしき身なれどもうき瀬にあひて沈みぬるかな

1646 東三条入道前摂政太政大臣
かかるせもありけるものを宇治川の絶えぬばかりも歎きけるかな

1647 円融院御歌
昔より絶えせぬ川の末なれば淀むばかりをなに歎くらむ

1648 柿本人麿
もののふの八十うぢ川の網代木にいさよふ波の行方知らずも


1649 中納言行平
わが世をば今日か明日かと待つかひの涙の滝といづれ高けむ

1650 二条関白内大臣 ○
みなかみの空に見ゆるは白雲のたつにまがへる布びきの滝

1651 藤原有家朝臣
ひさかたの天つをとめがなつごろも雲居にさらす布引の滝

1652 摂政太政大臣
むかし聞く天の河原を尋ね来てあとなき水をながむばかりぞ

1653 藤原実方朝臣
天の川通ふうき木にこと問はむ紅葉の橋は散るや散らずや

1654 前中納言匡房
真木の板も苔むすばかりなりにけり幾世経ぬらむ瀬田の長橋

1655 中務 ○
定めなき名には立てれど飛鳥川早く渡りし瀬にこそありけれ

1656 前大僧正慈円
山ざとに独ながめて思ふかな世に住む人のこころながさを

1657 西行法師
山里にうき世いとはむ友もがな悔しく過ぎしむかし語らむ

1658 西行法師
山里は人来させじと思はねどとはるることぞ疎くなりゆく

1659 前大僧正慈円 ○
草の庵をいとひても又いかがせむ露のいのちのかかる限りは

1660 大僧正行尊 ○
わくらばになどかかは人のとはざらむ音無川に住む身なりとも

1661 安法法師
世をそむく山のみなみの松風に苔のころもや夜寒なるらむ

1662 藤原家隆朝臣
いつかわれ苔のたもとに露おきて知らぬ山路の月を見るべき

1663 式子内親王 ○
今はわれ松のはしらの杉の庵に閉づべきものを苔ふかき袖

1664 小侍従 ○
しきみ摘む山路の露にぬれにけりあかつきおきの墨染の袖

1665 摂政太政大臣 ○
忘れじの人だに訪はぬ山路かな桜は雪に降りかはれども

1666 藤原雅経 ○
かげやどす露のみしげくなりはてて草にやつるる故郷の月

1667 賀茂重保
煙絶えて焼く人もなき炭竈のあとのなげきを誰かこるらむ

1668 西日法師
八十ぢあまり西の迎へを待ちわびて住みあらしたる柴のいほりぞ

1669 前大僧正慈円
山里に訪ひ来る人のことぐさはこのすまひこそうらやましけれ

1670 式子内親王
斧の柄の朽ちし昔は遠けれどありしにもあらぬ世をもふるかな

1671 皇太后宮大夫俊成 ○
いかにせむ賤が園生の奥の竹かきこもるとも世の中ぞかし

1672 祝部成仲
あけくれは昔をのみぞしのぶ草葉ずゑの露に袖ぬらしつつ

1673 前大僧正慈円 ○
岡のべの里のあるじを尋ぬれば人は答へず山おろしの風

1674 西行法師
古畑のそばのたつ木にゐる鳩の友よぶ声のすごきゆふぐれ

1675 西行法師 ○
山賤のかた岡かけてしむる野の境に立てる玉のをやなぎ

1676 西行法師 ○
しげき野をいくひと村にわけなして更に昔を忍びかへさむ

1677 西行法師 ○
むかし見し庭の小松に年ふりてあらしのおとを梢にぞ聞く

1678 大僧正行尊 ○
住み馴れしわがふるさとはこの頃や浅茅が原に鶉啼くらむ

1679 摂政太政大臣
ふる里はあさぢがすゑになりはてて月に残れる人のおもかげ

1680 西行法師
これや見し昔住みけむ跡ならむよもぎが露に月のかかれる

1681 紀貫之 ○
蔭にとて立ちかくるればからころも濡れぬ雨ふる松の声かな

1682 能因法師
いそのかみふりにし人をたづぬれば荒れたる宿に菫摘みけり

1683 恵慶法師 ○
古へを思ひやりてぞ恋ひわたる荒れたる宿の苔のいはばし

1684 藤原定家朝臣 ○
わくらばに問はれし人も昔にてそれより庭の跡は絶えにき

1685 赤染衛門 ○
なげきこる身は山ながら過ぐせかし憂き世の中に何帰るらむ

1686 柿本人麿
秋されば狩人越ゆる立田山たちても居てもものをしぞ思ふ

1687 天智天皇御歌
朝倉や木のまろ殿にわがをれば名のりをしつつ行くは誰が子ぞ

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