エッセイ「える日本語の奥深さ(26)」2016.11
大相撲福岡場所(11月場所)で横綱鶴竜が七場所ぶり三度目の優勝をした。他の二人の横綱に比較して成績に差があったことは事実である。本人もファンもそのコンプレックスを払拭できたのではないだろうか。彼を含めてモンゴル出身の力士の話す日本語は実にすばらしい。下手をするとネイティブである日本人以上かもしれない。彼らは読書家でよく勉強しているという。
それに比べると、ひところ多かったハワイ出身の力士は明るく、ユーモアに溢れて大相撲の雰囲気を一変してくれた功績は大きかった。しかし彼らの話す日本語は、いかにもたどたどしいという感じがした。
ところで、日本語は世界でも難しい言語の一つであると言われる。世界でおよそ300万人の外国人が日本語を学習しているという。彼らは難しい理由を以下のように上げている。
A.漢字が覚えられない
一説によると5万語以上(「諸橋大漢和」漢字の正確な数は誰にも分からない)あるという。常用漢字2136字(音・訓)を日本人は中学生ぐらいまでに一生懸命に覚えるのであるから、外国人にとっては厄介であろう。”漢字は複雑な絵のようである”という。
B.直訳できない表現が多い
「よろしくお願いします」、「恐れ入ります」、「お邪魔します」、「お疲れ様です」などは全て直訳しようとするとおかしな意味になってしまう。
これらの言葉は日本の文化や習慣を反映しているもので、「日本語の教科書」でいくらその用法を勉強しても、実際にその場面を経験しないと使い方がいまいち理解できないようだ。
C.敬語が使えない
日本人でも正しく使えないことが多く、敬語の概念がない外国人には難しい。
D.語尾のニュアンスがつかめない
日本語は曖昧な言語で、重要視される言葉のニュアンスが掴み取れない。
E.和製外国語が厄介
正しい意味(原語)と間違った使われ方が混在しているためわけが分からなくなるそうだ。
F.方がころころ変わる
英語のように単純ではないから大変である。
数える言葉(助数詞)の奥深さについて今回のエッセイとした
G.助詞の使い方がイマイチ分からない
経験をつまないと、どうしようもない部分がある。
というものである。
人類が何十万年か前に最初に発した言葉として、「数」を表す言葉が重要であったと考えられる。難しい日本語の中でも日本人でも正確に知らないのが「」である。日本語には約500種類の「助数詞」があるそうだ。外国人の日本語の学習者が「卒倒するほどの多さだ」と。
もちろん、現実の生活では使わないものが多数ある。例えば「仏像」とか「兜ひと」などである。
さて、寿司の原型と言われる、魚を米飯に漬け込んで発行させた「なれ寿司」は,鮒や鮎などの魚を主として食すため「一匹、二匹」や「一尾、二尾」と数える。「かぶら寿司」や「大根寿司」などは、漬け込む樽を数えて「ひと樽」ということもある。
「押し寿司」や「樽寿司」は、切り分ける前を「一本、二本」と数え、切り分けた寿司は「一個」または「一切れ」という。一本の寿司を何個かに切り分けるかを表す際、「五つ切り」や「七つ切り」のように言う。「海苔巻き」も同様の数え方である。
「千まり寿司」や「茶巾寿司」、「いなり寿司」などは「一個」、「ちらし寿司」や「握り寿司」は箱に入っていれば「ひと折」、樽で供されれば「ひと樽」、パックなら「ひとパック」である。
私たちが慣れ親しんでいる寿司の数え方の「一貫」は、どういうルーツがあるのだろうか。
主要な新聞紙面ではもっぱら寿司を「一個、二個」で数えている。民放テレビ局では「一貫、二貫」と数えている。NHKだけはいずれの数え方も用いず「ひとつ、ふたつ」と数えている。なぜこのような不統一な数え方になってしまったのだろうか。
江戸時代、「にぎり寿司」が登場したのは、文化・文政期(1803~30頃)で、にぎり寿司は「一つ、二つ」と数えていたようだ。
時代はずーッと下って、1990年前後のグルメブームに乗って一気に一人歩きを始めたのだ。高級な寿司を一般の人が口にする機会が増え、料理全般に使っていた数え方「カン」が、あたかも寿司専用のものであるかのようにテレビた雑誌に登場するようになった。
「カン」は江戸時代の尺貫法に使われていた単位の字が当てられ、回転寿司屋の台頭も相まって見事に定着したものと考えられる。寿司を数える「貫」はバブルが生んだ助数詞なのである。
もちろん、今でも正当な江戸前の寿司は「一個」あるいは「ひとつ」と数える.特別感や高級感のある寿司について、助数詞でもそれらを演出しようとしたのは日本語の面白さである。
漢字の音読みの妙で、ウニやイクラの載った「軍艦巻き」を「一艦、二艦」と「艦」の文を用いて表したり、「手巻き寿司」の「卷」の字も「かん」と読めるので回転寿司や宅配寿司などでしばしば「ネギトロ」のように記している。「カン」は「カン」でも貫・卷・艦と三種類もあるのだ。
海外で日本食ブームが報じられているが、店で寿司をオーダーする際にどのような助数詞が使われるのであろうか。
了
大相撲福岡場所(11月場所)で横綱鶴竜が七場所ぶり三度目の優勝をした。他の二人の横綱に比較して成績に差があったことは事実である。本人もファンもそのコンプレックスを払拭できたのではないだろうか。彼を含めてモンゴル出身の力士の話す日本語は実にすばらしい。下手をするとネイティブである日本人以上かもしれない。彼らは読書家でよく勉強しているという。
それに比べると、ひところ多かったハワイ出身の力士は明るく、ユーモアに溢れて大相撲の雰囲気を一変してくれた功績は大きかった。しかし彼らの話す日本語は、いかにもたどたどしいという感じがした。
ところで、日本語は世界でも難しい言語の一つであると言われる。世界でおよそ300万人の外国人が日本語を学習しているという。彼らは難しい理由を以下のように上げている。
A.漢字が覚えられない
一説によると5万語以上(「諸橋大漢和」漢字の正確な数は誰にも分からない)あるという。常用漢字2136字(音・訓)を日本人は中学生ぐらいまでに一生懸命に覚えるのであるから、外国人にとっては厄介であろう。”漢字は複雑な絵のようである”という。
B.直訳できない表現が多い
「よろしくお願いします」、「恐れ入ります」、「お邪魔します」、「お疲れ様です」などは全て直訳しようとするとおかしな意味になってしまう。
これらの言葉は日本の文化や習慣を反映しているもので、「日本語の教科書」でいくらその用法を勉強しても、実際にその場面を経験しないと使い方がいまいち理解できないようだ。
C.敬語が使えない
日本人でも正しく使えないことが多く、敬語の概念がない外国人には難しい。
D.語尾のニュアンスがつかめない
日本語は曖昧な言語で、重要視される言葉のニュアンスが掴み取れない。
E.和製外国語が厄介
正しい意味(原語)と間違った使われ方が混在しているためわけが分からなくなるそうだ。
F.方がころころ変わる
英語のように単純ではないから大変である。
数える言葉(助数詞)の奥深さについて今回のエッセイとした
G.助詞の使い方がイマイチ分からない
経験をつまないと、どうしようもない部分がある。
というものである。
人類が何十万年か前に最初に発した言葉として、「数」を表す言葉が重要であったと考えられる。難しい日本語の中でも日本人でも正確に知らないのが「」である。日本語には約500種類の「助数詞」があるそうだ。外国人の日本語の学習者が「卒倒するほどの多さだ」と。
もちろん、現実の生活では使わないものが多数ある。例えば「仏像」とか「兜ひと」などである。
さて、寿司の原型と言われる、魚を米飯に漬け込んで発行させた「なれ寿司」は,鮒や鮎などの魚を主として食すため「一匹、二匹」や「一尾、二尾」と数える。「かぶら寿司」や「大根寿司」などは、漬け込む樽を数えて「ひと樽」ということもある。
「押し寿司」や「樽寿司」は、切り分ける前を「一本、二本」と数え、切り分けた寿司は「一個」または「一切れ」という。一本の寿司を何個かに切り分けるかを表す際、「五つ切り」や「七つ切り」のように言う。「海苔巻き」も同様の数え方である。
「千まり寿司」や「茶巾寿司」、「いなり寿司」などは「一個」、「ちらし寿司」や「握り寿司」は箱に入っていれば「ひと折」、樽で供されれば「ひと樽」、パックなら「ひとパック」である。
私たちが慣れ親しんでいる寿司の数え方の「一貫」は、どういうルーツがあるのだろうか。
主要な新聞紙面ではもっぱら寿司を「一個、二個」で数えている。民放テレビ局では「一貫、二貫」と数えている。NHKだけはいずれの数え方も用いず「ひとつ、ふたつ」と数えている。なぜこのような不統一な数え方になってしまったのだろうか。
江戸時代、「にぎり寿司」が登場したのは、文化・文政期(1803~30頃)で、にぎり寿司は「一つ、二つ」と数えていたようだ。
時代はずーッと下って、1990年前後のグルメブームに乗って一気に一人歩きを始めたのだ。高級な寿司を一般の人が口にする機会が増え、料理全般に使っていた数え方「カン」が、あたかも寿司専用のものであるかのようにテレビた雑誌に登場するようになった。
「カン」は江戸時代の尺貫法に使われていた単位の字が当てられ、回転寿司屋の台頭も相まって見事に定着したものと考えられる。寿司を数える「貫」はバブルが生んだ助数詞なのである。
もちろん、今でも正当な江戸前の寿司は「一個」あるいは「ひとつ」と数える.特別感や高級感のある寿司について、助数詞でもそれらを演出しようとしたのは日本語の面白さである。
漢字の音読みの妙で、ウニやイクラの載った「軍艦巻き」を「一艦、二艦」と「艦」の文を用いて表したり、「手巻き寿司」の「卷」の字も「かん」と読めるので回転寿司や宅配寿司などでしばしば「ネギトロ」のように記している。「カン」は「カン」でも貫・卷・艦と三種類もあるのだ。
海外で日本食ブームが報じられているが、店で寿司をオーダーする際にどのような助数詞が使われるのであろうか。
了