つれづれなるまま映画を観て過ごす「ベッチーの映画三昧日記」

映画検定1級のベッチーのベッチーによるベッチーのための映画館鑑賞記録gooブログ。
コンテンツ:ベッチーの映画三昧日記

「ブリッジ・オブ・スパイ」

2016-01-19 21:53:31 | goo映画レビュー
●ベッチー的映画三昧日記
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟の脚本が光る「ブリッジ・オブ・スパイ」

 数々の傑作を送り出してしるスティーヴン・スピルバーグ監督だが、特に第2次世界大戦に絡む物語については「太陽の帝国」、「シンドラーのリスト」、「プライベート・ライアン」など監督の大戦に対する特別な思いを感じさせるような作品が多い。
 同監督が相性の良いトム・ハンクスと組んで制作したのが大戦後の東西冷戦下にアメリカ、ソ連の間で実際に起きたスパイ交換事件を基にしたサスペンス映画が「ブリッジ・オブ・スパイ」だ。つい先日、本年度アカデミー賞の作品賞、助演男優賞、脚本賞をはじめとした6部門にノミネートされた。


米ソが諜報合戦を繰り広げていた冷戦中の1957年、FBIがソ連のスパイルドルフ・アベル(マーク・ライランス)を逮捕した。保険関連の敏腕弁護士ジェームズ・ドノバン(トム・ハンクス)は、いわゆる国選弁護士として彼の裁判を引き受ける。ドノバンは様々な嫌がらせを受けながらもルドルフの死刑判決から禁固刑への減刑を成功させる。それから数年後、アメリカがソ連に送り込んだ撮影偵察機U2が撃墜され、パイロットのパワーズがソ連に捕獲される。CIAはソ連とアベルとパワーズのスパイ交換を画策し、アベルを弁護したドノバンに交換という任務を依頼する。ドノバンは一民間人として交換交渉のためベルリンへ赴く。時はまさにベルリンに東西の壁が作られている緊張の緊迫したまっただ中だった…。
  
スピルーバーグとトム・ハンクスが組んだのだから面白くないはずはないが、本作はやはり脚本が良い。「ノーカントリー」のアカデミー受賞監督でもあるジョエル&イーサン・コーエン兄弟が担当した本は、国家を揺るがすような実話の舞台裏でごく普通の民間人がかくもヒーローのような作戦に挑んでいたというところがサスペンスタッチで見事に描かれている。導入部のソ連スパイ、アベルの逮捕から裁判に至る話とアメリカCIAのソ連偵察作戦が同時進行で描かれるところは秀逸だ。やや長いが、この過程でドノバンとアベルのやり取りが丁寧に描かれているため、後にドノバンがなぜ、この危険な任務を引き受けたのか、またアベルが敵国のドノバンにどれほど信頼を寄せていたのかが、ぐっと迫ってくる仕掛けとなっている。
また、当時の緊迫したベルリンの様子がリアルに映像化されたところも本作の見どころだ。西側への脱出を食い止めるため、ベルリンに壁が出来たのが1961年。映画ではブロックによって壁がどんどん高くなり、同じ都市の中で住民が次第に行き来が出来なくなっていく恐ろしい様が克明に描かれている。そのような状況下、ベルリンに降り立ったドノバンが一人で交渉のため東西ベルリンを行き来する様子は手に汗を握るスリルの連続でサスペンスにあふれている。
そして、ドノバンが東ベルリンから西ベルリンに戻る列車の中から見てしまう壁を乗り越えようとして射殺される市民らの姿はスピルバーグが戦争に対して一貫して見せるヒューマニズムの思想を表す象徴的シーンと言える。

ベルリンに壁が作られたのが1961年8月。
そして、その壁が崩壊したのが1989年11月。
半世紀前の出来事なのに、はるか昔のことの思えてしまうが、今自分たちが犯してきた歴史を認識することはとても大事な事かもしれない。

「黒衣の刺客」

2016-01-14 20:12:41 | goo映画レビュー
●ベッチー的映画三昧日記
監督が意図する境地までついて行けない鑑賞者にはとても不思議な映画「黒衣の刺客」

 今ま でに幾多の映画祭で受賞し世界的に評価を得ている巨匠が久しぶりに作品を発表したとき周りはどのように反応するのか。まっさらな状態で作品評価が出来るのだろうか?巨匠の提示したものに対してそれまでの実績を基にしたプラス評価がされていないだろうか。本作「黒衣の刺客」を観てまずそのような感想を持った。

 「非情城市」、「百年恋歌」で有名な台湾のホウ・シャオシェン監督が5年の歳月をかけて、8年ぶりに発表したのが「黒衣の刺客」だ。同監督が初めて手掛けた武侠時代劇ということで話題となり、第68回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した。
 私もホウ・シャオシェン監督が作った武侠時代劇ということ、主演がスー・チー、チャン・チェン、妻夫木聡ら興味深かったメンバーだったことに惹かれて劇場へ出かけたくちだが、鑑賞するうちに冒頭に述べたような考えに至った。

プレスリリースに書かれた物語は次のとおり。
唐の時代の中国、13年の時を経て両親の元に戻ってきた隠娘(インニャン=スー・チー)は女道士によって暗殺者に育て上げられていた。隱娘はかつての許嫁である暴君の田季安(ティエン・ジィアンチャン・チェン=)を暗殺するよう命じられる。暗殺の任務中に窮地に追い込まれる隱娘は、難破した遣唐使船の日本人青年(妻夫木聡)に助けられる。冷徹な暗殺者として生きてきた隱娘の心の中に戸惑いと情が生まれてくる…。

全くのサイレントで始まるタイトルローグからモノクロの冒頭部分を経てカラーで展開される映像世界は極端に静寂でゆったりと進み自然の音のみが耳につく。と思うと、刃と刃が重なり合う鋭い音を誇張した動の場面になったりとする。しかし、その格闘場面も真剣勝負というよりなぜか模擬演舞を観ているような様式美の世界に感じる。そして、次々と色々な人物が登場してくるが、台詞が非常に少なく誰が誰なのか人物の相関関係がよくわからない。映画本編からプレスリリースにあるストーリーを読めとるのは極めて難しい。武侠映画と思って足を運んだ人には本当に肩透かしを食わされる。

監督がこだわったのは霞に煙る山々や荒野といった自然の心象風景やほのかなロウソクの火越しに展開する宮廷シーン(私には見にくいだけだったが)などストーリーよりも映像のようだ。各シーンはそれぞれ一枚一枚の絵画を観るように目を奪われるものもあるが、感覚的な映像ショットを繋ぎ合わせただけで決定的に物語性に欠けているように思える。ストーリーを追うよりも、自分の感性を前面に押し出した作家性の強いフィルムを提示するというのは、晩年の巨匠たちによく見られる傾向ではないだろうか。

監督が意図する境地までついて行けない鑑賞者にはとても不思議な映画を観ているような気分だった。

「クリード チャンプを継ぐ男」

2016-01-11 10:13:29 | goo映画レビュー
●ベッチー的映画三昧日記
見事なまでに「ロッキー」を継承したファンには本当に歓喜ものの新章「クリード チャンプを継ぐ男」


 2006年に製作された「ロッキー・ザ・ファイナル」から9年。スタローンの年齢を考えたら、まさか、まさか、「ロッキー」の新シリーズを観ることが出来るとは夢にも思っていなかった。ところが、本編のスピン・オフ制作がお得意なアメリカらしい。見事なまでに「ロッキー」を継承したファンには本当に歓喜ものの新章を作ってくれた。

 梶原一騎のスポ根漫画全盛期に青春を過ごした私たちの世代にとって「ロッキー」は日本人の琴線に見事にフィットした血沸き肉躍る感動のヒューマンドラマだった。
そして、ロッキーと言えば彼を輝かせるのが好敵手。その中でも最大のライバルがアポロ・クリードだったのは文句のないところだ。ロッキーとアポロの間は単なる試合相手ではない。お互いが高みを目指し、スポーツの世界でいう“両雄並び得ず”を覆して二人とも伝説なった盟友である。「巨人の星」で言うと、星飛雄馬と花形満。「あしたのジョー」で言えば、矢吹丈と力石徹なのだ。

 そのアポロ・クリードに息子がいて、ボクサーの血が受け継がれていたという設定に涙。父を知らぬ息子はかつての父のライバルであるロッキーに教えを乞う。そして二人はチャンプを目指し過酷なトレーニングに挑んでいく。二人の間には師弟を超えた父子のような感情が芽生えていき、二人の間柄を客寄せにしようと画策するプロモーターによって強大な世界チャンプとのタイトル戦へと進んでいく…。

 大の「ロッキー」ファンだったというライアン・クーグラー監督は随所にオリジナルのシーンの再現を図っている。クリードがロッキーにコーチをお願いするくだりはロッキーとミッキーの関係を彷彿させるし、アポロの息子ということで世界チャンピオンの挑戦権を得てシンデレラ・ボーイとなるところ、フィラデルフィアの街をロードワークする様子や独特のトレーニング方法、チャンプとの試合展開などなど、スタローンへのリスペクト満載だ。
 
 考えてみればロッキーがクリードに変わっただけのベタな話であるが、スポ根大好き人間には、感動のつぼを心得た堪らない物語になっている。
 そして、その感動をさらに高めたのが音楽だ。本作の音楽の効果は素晴らしい。各シーンが音楽によって盛り上げられ、観る方のテンションを上げる。映画における映像と音楽は一体だというのが体感できる作品となっている。「ロッキー」シリーズの音楽と似た音楽で展開してきた物語が最後の世界タイトル戦のクライマックスになって満を持してビル・コンティのあの音楽が流れ出す。

 ロッキーのアメリカン・ドリームが40年の時を経て、次の世代のドリームにつながっていく。この40年間の自分の歩んできた時間(人生)を重ね合わせ、歓喜にむせび泣いたのは、私だけではないだろう。
 この終わり方だと「クリード2」が当然あると思うのだが…。


「スターウォーズ フォースの覚醒」

2016-01-06 19:58:21 | goo映画レビュー
●ベッチー的映画三昧日記

 原点回帰の姿勢が、まず買える文句なく満足できる「スターウォーズ フォースの覚醒」

 ルーカスフィルムがディズニーに買収され、「スター・ウォーズ」の新たなプロジェクトをスタートさせるというニュースを聞いたときは、また“柳の下の何匹目のかのどじょう”を狙ったハリウッド商法かと思っていた。

 その後、昨年位から全くの秘密だったSWプロジェクトの内容が少しずつ明らかになってきた。今度のSWは「エピソード6 ジュダイの帰還」に続く話らしいこと。しかも旧作のルーク、ハン・ソロ、レイアを演じたマーク・ハミル、ハリソン・フォード、キャリー・フィッシャーの3人が登場するというニュースが伝わってきた。こうなって来ると、初期のSWファンとしては期待せずには入られない。
 
 そのSWの新章「スター・ウォーズ フォースの覚醒」が12月18日世界同時に公開された。しかし「1作目から6作までを観てから行きたい」という妻の要望により、すぐに劇場へ行きたいのをぐっと我慢。年末休みに過去6作鑑賞の復習を経て、満を持してお正月に観に行ってきた。結果として復習が功を奏して新作SWを大満喫した。
 
 J・ウィリアムスのあの音楽と共に“遠い昔、はるか彼方の銀河系で…”で始まる冒頭につづき、大砂丘の巨大宇宙船の残骸で、SWの正当な継承であることを確認。

物語は「ジュダイの帰還」から30年後が舞台。最後のジュダイ騎士ルークがある一件から姿を消した以降、銀河帝国の残党による「ファースト・オーダー」と呼ばれる組織が台頭し新共和国の新たな脅威となり、ルークの妹レイア・オーガナ将軍が対抗する軍事組織「レジスタンス」を結成し、ファースト・オーダーに立ち向かっているという設定だ。
鋭い人なら、これって第1作「エピソード4 新たな希望」と同じと思うかも。しかも、話は双方がお互いの戦闘に大きく影響するルーク・スカイウォーカーを探し求めていて、その所在を突き止めたレジスタンス兵士がファースト・オーダー軍に追われ、自分のドロイドBB-8にデータを託す。そしてBB-8は孤独な少女レイに出会い、壮大な冒険の旅が始まっていく。
そう、まさにエピソード4のリブートとも言える展開なのだ。ところが、ハリソン・フォード、マーク・ハミル、キャリー・フィッシャーはじめチューバッカやC-3POやR2D2など旧シリーズの伝説的キャラクターが総出演してストーリーを繋いでいくので、懐かしさだけでのせられてしまう。映像的にもあまりにもCGが多用されて、かえって嘘っぽい世界観になってしまったエピソード1~3に比べて、実物大のファルコン号をはじめ随所にセットを用いてリアル感を出すなど、本物ぽさ、初期の世界観回帰を追求したJ・J・エイブラムス監督の姿勢が人間ドラマとしてもロマンも復活させた感じで見事にフィットした。
 旧作主演の3人の老化が進み過ぎとかいう巷の批判を私はさほど気にしない。実際は40年近く経っているのだから。彼らの顔に刻まれたしわの中に映画で描かれていない30年間の物語があるのだと自分の想像を膨らませたほうがロマンがあるというものだ。

 本作では、ある意味ハン・ソロが主役級であったが、次作で減量したマーク・ハミル演じるルークがかなりのウェイトを占めるのだろう。新しく登場した若手のキャラがどのように成長していくのか2年後のSWが待ち遠しい。