告白
2010年/日本
「告白」は、大衆にわかりやすい映像提示をしながら、奥に潜む毒は中島監督の中で一番強い作品かも
総合 80点
ストーリー 85点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 75点
音楽 80点
●べッチー的映画三昧日記
「告 白」
「告白」は、教え子に娘を殺された中学校教師の復讐という過激な内容で、2009年本屋大賞に輝いた湊かなえの同名ベストセラー小説の映画化作品。
R15作品だが若い人の間でちょっとしたブームとなっている。私は原作を未読者なので、以下はあくまで映画を観ての感想だ。
私が本作を観たのは「下妻…」、「嫌われ松子の一生」の中島哲也監督がどう料理したのか興味があったから。第一印象は、「この監督、さすが。油断できない」というもの。作家性の強い中島色は失うことなく、もしかしたら、敢えて大衆にわかりやすいような映像提示をしながら、奥に潜む毒は一番強い作品となっていると感じた。
舞台劇のようなセリフの応酬となっているが、そのセリフ中にカットインされる曇天の空などさりげない映像が実は非常に計算されていて、登場人物の心象を表わしているかのようだ。画面全体も暗っぽく、今までのどぎつい色彩は抑えめである。そして、何よりもこの映画は、現在社会の中で一番モラル規範の権化である学校を舞台にしながら、全く社会性が欠如している点だ。ここに描かれる人たちには、モラルとか悪とか正義とか、今まで人間がルールとして決めた枠組みではないところからすべての行動がなされている。いわゆる他と関わりを求めない個人としてのプリミティブな部分が行動の動機なのだ。したがって、この映画に描かれる人間関係は子としての個と、母性との関係のみで家族は描かれない。わずかに主人公の女性教師一家のみに父性が出てくるもの、それは全体プロットの必要性からで最小限にとどめられている。
社会規範自体、誰かが都合の良いように作ってきたもので、それが本当に是か否かなんて考えると、深い混迷の淵に落ちてしまう。だから、みんなあまり深いことは考えずに日常生活を送っているわけで、そのあたりが少しずつ壊れて来ているのが現在社会なのかもしれない。
中島監督がラストで、なぜ、主人公の松たか子にあのセリフを吐かせたのか。単純な照れなのか?深い読みのうえなのか?とにかく、あの一言によって、私の中では、より絶望的なエンディングになってしまった感じだ。
だから、このような映画がさりげなく出てくるところが、それをエンターティメントとして観ている社会が非常に怖い、恐い。
アイガー北壁
2008年/ドイツ=オーストリア=スイス
山とクライマーとの戦いや極限の状況描写など「アイガー北壁」の方が現場撮影主義の「槍ヶ岳」より楽しめた、というのが私の実感
総合 75点
ストーリー 75点
キャスト 70点
演出 75点
ビジュアル 70点
音楽 80点
●べッチー的映画三昧日記
「アイガー北壁」
昨年の邦画界は「山へ登り過酷な実写撮影をしてきたぞ」という歌い文句と美しい自然映像が評判を呼び山岳映画「槍ヶ岳 点の記」が大ヒットした。
ドイツ映画「アイガー北壁」も山と政府の威信のため初登頂を目指す登山家が主役。ドイツでは忘れられない悲劇として語り伝えられている実話を基にした山岳映画だ。しかし、映画って監督の思いにより、全く違った仕上がりになるということを知ることが出来た。
1936年、オリンピック開催に沸くナチス政権下のドイツ。政府は国の威信を保持しようと、成功者へは金メダルと名誉を与えると当時前人未踏だったアイガー北壁のドイツ人による初登頂を促す。当初その危険さから乗り気でなかったドイツの若きクライマー、トニーは世間や新聞社に勤める恋人の期待にこたえるため、相棒のアンディとともにアイガー北壁の挑戦を決意する。
結果的に登頂が失敗に終わることはわかっているし、なぜ、事故は起きてしまったのか的描き方は「八甲田山」と同じパターン。挑戦に挑む人間はブレーキが利かなくなり、そこに予期せぬ事故等も重ねり、判断を誤る。そして悲劇となっていく…という構図だ。
「槍ヶ岳 点の記」はカメラマンで監督も務めた木村大作がすべて実際の現場で撮影することを映画の命題に作ったもので、過酷だった撮影の苦労話ばかりが語られ、映画の内容や出来の部分が正当に評価されなかったように感じていた。
私の独断的感想を言えば、山岳映画としては山とクライマーとの戦いや極限の状況描写など、「アイガー北壁」の方が現場撮影主義の「槍ヶ岳」より楽しめた、というのが実感だ。
「アイガー北壁」はロケ部分もかなりあるが、おそらく、実写部分と人物部分の合成やセット撮影部分もあるはずだ。しかし、映画としての総合的な完成度では、現場撮影だけで作ったものより、本作の方がはるかに現場での緊張感、切迫感は伝わったし、凍てつくような寒さも感じることができた。皮肉な気がするはそれが映画製作の魅力的なところ。
難を言えば、ラスト付近になりトニーと取材に来ていた恋人ルイーザの関係が急に恋愛感が強まりクローズアップされたことだ。劇的な盛り上げで、トニーの死をより非劇的にしようとしたのだろうが、それまでのドキュメンタリ調が一転した印象を受けた。最後にルイーザが上司にマスコミ批判するのも乱暴すぎる展開。だって映画前半ではルイーザ自身も記者として幼なじみが初登頂に臨むということを利用してキャリアアップしようとアイガーへ来たのに。
きっと、山の天候と同じで、たった数日間で女心は変わったということなのでしょうね。
孤高のメス
2010年/日本
リアルティを追求した本格的な医療映画、堤真一がかっこ良すぎ!「孤高のメス」
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 75点
音楽 75点
●べッチー的映画三昧日記
「孤高のメス」
ドラマチックな展開を求めるあまり、現実感がなくなったTVの医療ドラマに辟易していたが、久しぶりにリアルティを追求した本格的な医療映画が登場した。
原作は現職医師大鐘稔彦のベストセラー小説ということだが、小説化される前に同氏はビジネスジャンプに連載された「メスよ輝け!!」の漫画原作として提供しており、これが本作の元ネタと言った方が正しいのかも知れない。
映画の舞台は1989年、海沿いの地方都市。大学病院に依存し腐敗しきった市民病院に1人の外科医が赴任する。彼は「目の前の患者を救う」という医師としての基本的な信念のもと、難しい手術を次々と成功させていく。そして彼の真摯な姿は、仕事に疑問抱き、やる気をなくしていた若手医師や看護婦たちの志をも変えていく。
そのような中、彼に心酔する市長が病に倒れる。命を救うために、まだ法律的に認められていない脳死患者からの肝臓移植を行うか否かという、医師生命を賭けた決断を迫られる…。
本作の成功の要因は、長編原作に対しポイントを絞り、大胆にそり落とした脚本によるところが大きい。映画の舞台の大半は堤真一演じる外科医当麻の手術室での行動に絞っている。彼の私生活は描かれないし、オペされる患者がなぜ病気になったかとかの病院外の話はほとんど省いている。
それを可能にしたのは、映画全体が彼を一番そばで観ていた手術担当看護婦の日記の回想という一人称で語られていく手法をとったことだ。本作の場合、そのことが、かえって医療現場が抱える問題を集約でき、私たちが忘れつつある医師に対する尊敬の念や命の大切さを訴えることとなった。それは映画のラストで最高の感動となって示されることとなる。
その意味では看護婦を好演した夏川結衣がもう一人の主役とも言える。シングルマザーの設定が過酷な医療現場の勤務実態を自然な形で訴えるし、また当麻に対する尊敬とも恋愛感情とも思える微妙な様子を見事に演じている。
生瀬勝久ら演じる大学病院から派遣された医師たちの地域医療に対する情熱のなさや、悪人ぶりが、ステレオタイプで多少笑えてしまうことや、ややアップ多用のカメラアングルがTV的で映画的重厚さに欠ける点はあるが、それらは本作の感動を少しも損なうものではない。
当麻が語る言葉は多くはないが、男はまず行動で示し、その背中を見せることで部下を導く。私たちが望むリーダーの資質を彼に見た思いで、素直に感動してしまった。
堤真一、かっこ良すぎ!