●撮影地 金沢市東山 松の内。 或る霜の朝、水仙の作り花を格子門の外よりさし入れ置きし者のありけり、誰の仕業と知るよし無けれど、美登利は何ゆえとなく懐かしき思いにて、違い棚の一輪さしに入れて淋しく清き姿をめでけるが、聞くともなしに伝え聞くその明けの日は、信如が何がしの学林に袖の色をかえぬべき当日なりしとぞ。(樋口一葉「たけくらべ」の最後のくだり)
芸妓の置き屋で育った美登利は、子どもながら芸妓の見習いをすることになった。街でいっしょに遊んだ筆屋の正太とも気ままにたわむれることも叶わない。正太は筆屋のあとを継いだというだけでは、この先美登利と遊ぶお金がままならぬのも知っていた。いっそ季節物を商う際物屋に転向してお金を稼ごうかとさえ思っていた。
ある朝、美登利は遊びに行けない寂しさに格子越しに外を見ると、水仙の造花が格子の間に挿してあった。美登利は何気なくそれを一輪差しに活けて違い棚に置く。後日、水仙の花をくれたのが龍華寺の信如だとわかる。信如も美登利の遊び仲間で、下駄の鼻緒が切れて困っている信如を助けてやったのをさんざんひやかされたりもした。信如もひそかに美登利に恋心を抱いていた。
信如は水仙の花を格子に挿した朝、仏門の修行に出たのだった。何年かして修行を終え墨染めの衣姿で帰ってきたときは、仏に仕える身となり遊ぶことも叶わない。
こうして子どもが大人になっていく。生まれながらに進む道が決まっていて、それぞれの道を進むには、失うものがあるのに気づくのだった。
芸妓の置き屋で育った美登利は、子どもながら芸妓の見習いをすることになった。街でいっしょに遊んだ筆屋の正太とも気ままにたわむれることも叶わない。正太は筆屋のあとを継いだというだけでは、この先美登利と遊ぶお金がままならぬのも知っていた。いっそ季節物を商う際物屋に転向してお金を稼ごうかとさえ思っていた。
ある朝、美登利は遊びに行けない寂しさに格子越しに外を見ると、水仙の造花が格子の間に挿してあった。美登利は何気なくそれを一輪差しに活けて違い棚に置く。後日、水仙の花をくれたのが龍華寺の信如だとわかる。信如も美登利の遊び仲間で、下駄の鼻緒が切れて困っている信如を助けてやったのをさんざんひやかされたりもした。信如もひそかに美登利に恋心を抱いていた。
信如は水仙の花を格子に挿した朝、仏門の修行に出たのだった。何年かして修行を終え墨染めの衣姿で帰ってきたときは、仏に仕える身となり遊ぶことも叶わない。
こうして子どもが大人になっていく。生まれながらに進む道が決まっていて、それぞれの道を進むには、失うものがあるのに気づくのだった。