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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

元祖演劇乃素いき座+龍昇企画『チャイニーズスープ』

2009-11-15 | 舞台

*平田オリザ作 柴幸男演出 公式サイトはこちら こまばアゴラ劇場 15日で終了
 1990年に初演された作品を19年ぶりに改稿し、初演と同じキャストで(土井通肇、龍昇)、演出は初演当時7歳だった柴幸男によって再演の運びになった。ベルリンの壁崩壊で失業した東西の元スパイの20年後の姿である。公演チラシに掲載されている平田の挨拶文によれば、「素材の三割程度は初演のままだが、台詞はすべて書き換えた」とのこと。自分は初演を見ておらず、今回の再演が初見となった。 

 ベルリンの壁崩壊直後であれば、「失業した東西の元スパイ」という設定も相当な現実味と緊張感があったのではないかと予想する。そこから20年後に改稿した上で新演出での再演という企画にどんな意図を読み取るかがポイントと思われたが、老いた元スパイ2人の会話はゆるゆるととりとめがなく、集中を欠く観劇となった。レストランでスープをオーダーしたはずが、なぜか2人してコックの格好に着替えて実際にスープを作り始める。野菜を刻み、フライパンで炒めて大鍋に入れ、カセットコンロに火をつける。自分は後方の座席についたのでよく見えなかったが、舞台床にはさまざまな野菜が置かれており、2人はそれらを使って料理をするのである。

 舞台で飲み食いをすることは珍しくなくても、実際に調理をするのはあまり見たことがない。始まったときには「ほんとうに料理するんだ」とちょっと驚くが、調理の手順と台詞がちぐはぐだったり、今回のように最後には人参やじゃがいもの皮やおろか、まな板や包丁、サラダオイルの瓶までも大鍋に入れてしまう演出にはいささか戸惑った。実際に飲んだり食べたりすること、調理をすることがその作品世界を立ち上げるためにほんとうに必要であるのかが伝わらないと、「食べものを粗末にして」とやや方向違いだとは思いながらも、単純に腹が立ってしまうのである。

 政治や経済などさまざまな場面において、「ベルリンの壁崩壊から20年」という言い方がされる。あのころはどうだったのか、あれから世界は、演劇はどう変わっていったのか、あるいは変わらなかったのか。考える糸口を求めて舞台に臨んだが、残念ながらみつけることはできなかった。来るときは汗ばむほどの陽気だったのに、1時間後、晩秋の陽はあっというまに傾いていた。

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