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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

MCR『神様さん』

2010-10-25 | 舞台

*櫻井智也作・演出 公式サイトはこちら 三鷹市芸術文化センター 31日まで
 櫻井智也はブラジル客演陣のなかでも常連であろう。高飛車に喚いたり威嚇したりするけれども性根は弱いダメ男で、たいてい相手役の桑原裕子(KAKUTA)に逆襲されおとなしくなる、というイメージか。彼が作・演出をつとめるMCRは今回がはじめて。

 上手上方は大理石の柱など宮殿らしき作り、中間にちょっとしたスペース、下には畑のようなものと、舞台空間が3つある。そして上手中間の微妙な高さの位置にラジオ局の一室らしきものがあり、開演前からパーソナリティが絶叫調のDJを行っている。

 宮殿には「姫」と呼ばれる女性(桑原裕子)がいて、好き勝手な言動を2人の執事に口うるさく叱責されている。中間には画家(有川マコト)がおり、彼のマネジメントをしているのか、わけあり風の男たちが出入りする。下の畑は奥田くん(奥田洋平)の家で、男友だちが集まって「いも煮会」を催すらしい。星のホールの高い天井をいっぱいに使い、3つの空間(+ラジオ局)の人々が出たり入ったりする1時間40分である。
 

 特定の信仰をもつ人にとって、「神様」とは自分の信じる神だけである。人間ではない。しかし人間を「神様」と呼び、神と同じようにしてしまうとどうなるか。
 桑原が演じる姫の両親は2年前に亡くなった。「だからいまはあなたがこの国の象徴なのです」と執事(中川智明)は諌める。姫は出会い系サイトに登録したり、世話係の女性(石澤美和)を無理やり友だち扱いしたり(しかし世話係も結構ノリノリ)、奔放にふるまうが自由にはなれない。その姫が恋らしき気持ちを抱いた奥田くんは実は日本人ではなく、「まちがった」といってこの国にミサイルを撃ち込んだ国の人であった。

 ラジオ局の存在が自分には最後まで腑に落ちなかったし、もう少し登場人物や話を刈り込んでもよかったのではないかと思う。

 これはあくまでフィクションであり、姫と呼ばれてはいるものの、ちょっとアタマが変になったお金持ちのお嬢様を周囲がそう呼んで丁重に扱っているだけかもしれず、画家もほんとうの画家かどうかは怪しく、どこに視点を決めればいいのか迷いながらも、これはそうとうに際どい内容を描いている舞台ではないかとだんだん怖くなってきた。あのご夫婦に男の子が生まれなかったら、あの女の子が国の象徴になるのだ。そして恋した相手が外国人であったなら・・・という話なのである。みる人によっては「けしからん」と怒るかもしれないだろうし、すべてギャグと受け止める人もいるかもしれない。舞台から社会的、政治的な意図は感じられなかったが、作者の心をもっと知りたいと思う。この国の行く末を憂いているのか、国の象徴というとてつもない重責を背負うかもしれない小さな女の子に劇作家として心を寄り添わせているのか、人が神と崇め奉られることの滑稽、不気味、不自然を達者な俳優たちによって描いてみせたのか。

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