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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

「かぐや姫伝説」より『月・こうこう,風・そうそう』

2016-07-13 | 舞台

*別役実作 宮田慶子演出 公式サイトはこちら 新国立劇場小劇場 31日まで
 昨年はじまった19団体21演目連続上演「別役実フェスティバル」最終演目である。パーキンソン病を患いながら来年齢八十を迎えんとする別役実、堂々の新作書き下ろしだ。タイトルにある通り「かぐや姫伝説」、つまり『竹取物語』を題材にした物語である。

 いつごろともわからぬ昔、竹林に暮らす老爺(花王おさむ)と老婆(松金よね子)が心中する場所を探してさまよ
 っている。ようよう「ここなら」と決めた死に場所に茣蓙を敷き、心中を前になぜか粟粥を食べようとしているところへ美しい姫(和音美桜)が現れる。「通りがかりのものです。助けていただけますか?」誰から追われているのか、どこから来て、どこへ行こうとしているのか、老夫婦の問いかけには「わかりません」と繰り返すばかり。

 別役作品といえば「街角、電信柱が一本、かたわらにベンチがひとつ、風が吹いている」といういつもの風景があり、そこへ男1、女2と名前を持たない人びとが現れ、お茶をのむのまない、バスを待っている、でも切符は持っていないなどとどこに着地するのかわからない会話を繰り広げるといったイメージが強い。

 それが本作は老爺に老婆、姫、盲目の女(竹下景子)、風魔の三郎(橋本淳)、ミカド(嵯川哲朗)など、年齢や役割、性質を明示された人物が登場する。さらに姫の追手の手下たち4名は文学座附属研修所や舞台芸術学院、新国立劇場演劇研修所を卒業し、TEAM HANDYというカンパニーで活躍する俳優で、劇中華麗なダンスのような殺陣を披露したりなど、これまでの別役作品のイメージをがらりと変える様相を呈している。知らなければ本作の作者が別役実だと気づかないかもしれない。

 物語は「かぐや姫」に終始せず、別役が過去に記した戯曲や童話、古事記、「落窪物語」、果てはギリシャ悲劇『オイディプス王』を想起させ、前述の配役にしても、観劇前はバランスが悪いのではないかと懸念したが、さまざまな出自と経験を持つ俳優たちは、別役作品の台詞に戸惑いながらも、自分の役が何をどのように必要とされているかを的確にとらえており、劇世界を客席に届けることに力を合わせている印象を受けた。

 花王おさむと松金よね子の老夫婦のやりとりはさすがベテランとうならされる。しかもその巧さが嫌味に感じられない。姫を追ってくる男(山崎一)と碁を打つ場面はコントのように客席をなごませる。出演俳優のなかではNHK朝の連続ドラマ『ちりとてちん』で、ヒロインの心優しい弟を演じた橋本淳が、強烈な野性味を発しながらふと繊細な面も見せる風魔の三郎役で健闘している。改めてプロフィールを読むと舞台出演も多彩である。おそらく作品によってつぎつぎに違う顔、新しい魅力をみせる俳優ではないだろうか。見逃した作品がいくつもあるのは残念だが、俳優に対して固定したイメージを抱くことを自戒し、今後の活動に注目したい。

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