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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

てがみ座第10回公演『汽水域』

2014-12-28 | 舞台

*長田育恵作 扇田拓也(ヒンドゥー五千回)演出 公式サイトはこちら シアタートラム 12月6日で終了 12月12日より穂の国とよはし芸術劇場PLAT/アートスペースで上演 (1,2,3,4,5,6,7
 今ごろになってお恥ずかしいのですが、ひと月前の観劇記録を記憶を頼りに(苦笑)書かせていただきます。
 前作夏の文学座アトリエ公演書き下ろし『終の楽園』も好評を経て、ホームグラウンドのてがみ座で最新作の上演となった。勢いのある劇作家の公演は、開演前から場内に熱気があってわくわくする。
 タイトルの「汽水域」は「きすいいき」と読み、海水と淡水がまじりあう場所を意味する。公演のDMには、「ウナギの稚魚がのる潮流を背景に、現代の日本と、かつて移民として渡った日系二世・三世たちの物語を編んで行こうと思っています」と記されている。
 フィリピンの河口、汽水域でウナギの密漁をしていた少年は、日系二世の父とフィリピン人の母を持つ。やがてみずからのルーツを求めて日本に密航する。2020年の東京オリンピックの準備がすすむウォーターフロントで不法労働者として働く。

 複雑に組まれた足場は、フィリピンの河口と少年が家族と暮らすスラムであり、コトブキと呼ばれる日本の労働現場にもなる。主軸の人物以外はフィリピンと日本の人物のりょうほうを演じる。まずこの舞台装置がすごい(杉山至+鴉屋)。劇作家の描こうとする世界を何としても具現化するのだという気迫が感じられる。水の匂いやそこで暮らす人々の生活臭までが漂ってきそうなのに、どこかこの世のものではないかのような静謐な雰囲気があって、物語がはじまる前から客席を圧倒する。

 舞台美術にこれだけの気迫があれば、あとは俳優である。てがみ座の舞台をみていつも感じるのは、劇作家に対する強い信頼と、皆が情熱を注いでよい舞台をつくろうという全力投球の姿勢である。劇団員はもちろんのこと、客演の俳優ふくめ、自分の力を最大限発揮せんとするエネルギーに満ちている。しかし今回は俳優の演技のバランスなのか、質のちがいなのか、物語のなかにすっと入っていけないぎくしゃく感があった。フィリピンの村と日本のコトブキが交錯するつくりはおもしろい。だが出演俳優はぜんいん日本人であり、フィリピンの場面で人々が日本語でやりとりしているのを聞きながら、「ここはフィリピンなんだ」と、ときどき自分に確認しなければならなかった。フィリピンから日本に密航した少年は、自分の村では普通に日本語の台詞を話すが、日本の工事現場では片言の日本語になる。日本人俳優が日本語を話しながら、ひとつの場が日本とフィリピンを行き来することを受けとめるのに、思いのほかエネルギーを要したのである。何だかものすごく単純な、入口のところでつまづいてしまったようなのだが。

 そのために物語ぜんたいをとらえて味わうところまでたどり着けなかったのが残念だ。どうすればよかったのか。

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