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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ピープルシアター第58回公演『蝦夷地別件』

2013-10-15 | 舞台

*船戸与一原作 森井睦脚本・演出 公式サイトはこちら 2時間30分途中休憩なし 東京芸術劇場シアターウェスト 16日まで
 今年の6月にNHK「未解決事件ファイル File.3 尼崎殺人死体遺棄事件」の再現ドラマ部分の脚本執筆者として、はじめて森井睦氏のお名前を知った。まことに不勉強にて、お恥ずかしいかぎりである。角田美代子容疑者を演じる烏丸せつ子が夢に出てきそうなほど恐ろしく、ドキュメンタリー部分よりも強烈な印象であった。

 その森井睦が文庫にして全3巻の大著「蝦夷地別件」を舞台化する。同劇団による船戸作品の舞台化は、クルド人の民族紛争を描いた『砂のクロニクル』につづく。原作者からは全作品の舞台化を許されているというから、今回の『蝦夷地別件』は原作者から全幅の信頼を得て、劇団が総力を結集した舞台といえよう。筆者は遅ればせながら、これがはじめての観劇となった。

 劇場入り口の広場は開場を待つ人でいっぱい、期待の高いことが伺われる。整理番号順に入場すると、スタッフにまじり、舞台衣装をつけた俳優さんたちもチケットのもぎりや案内など、てきぱきと動いておられる。全席自由席なので、どこに座るか迷う観客を的確に案内するのはとても重要な業務だ。ほかにも手荷持あずかりの声がけや補助椅子の設置など、気持ちのよいお働きぶりである。
 客席の年齢層もどちらかというと高めである。1981年に創立した劇団であるから業界にも広く知られ、長年にわたって応援しておられる方々の層が厚いことがわかる。
 
 はじめてみにいく劇団の公演というのは、なかなかに緊張するものであるが、前述のように劇場は賑々しく熱気に満ち、劇団のスタッフ、俳優のみなさんもとても感じよく、「この舞台を届けたい」という心意気が強く伝わってくる。
 しかしなぜだろう、自分はなじめなかった。そしてまことに残念ながらこの違和感は、舞台に対しても同様に感じることになったのである。

 舞台には蝦夷の森林を象徴するかのような細い棒状のものが何本も立てられており、上手と下手はそれぞれ家屋の一室らしきつくりになっている。舞台奥には数段の階段がある。港の周辺、森のなか、町の飯屋など、物語のながれによってさまざまな場所に変化する。非常にシンプルな舞台美術であるが、場面の設定や人物の動きをより自然にみせることに成功しており、まさに舞台ならではの魅力であろう。

 アイヌの青年ハルナフリを演じるいしだ壱成は同劇団客演の常連であるそうで、実に堂々たる主演ぶりである。俳優は老若男女の層あつく、主軸の人物には実に適材適所の配役がなされて粒立っている。ひとりが複数役を演じる群像劇でもあり、舞台から発せられる熱気、気合いにはすさまじいものがある。

 最大のつまづきは、開幕した直後の台詞の第一声が聴きとりにくかったためである。困惑したのは、台詞の聴きづらさがこの場面だけでなく、複数の場面に散見していたことである。もう少しゆっくりと発語すればよいのか、もっと根本的な発声、滑舌の問題なのか。
 つぎは舞台にクラシック音楽が使われていたことである。当日リーフレット掲載の脚本・演出の森井睦の文章には、原作において重要なポーランド人の武器商人をカットしたこと、「その人物を想い、アイヌを舞台にしていますが音楽は西洋音楽にしました」とあるが、これがよくわからない。ピアノやオーケストラなど、実にさまざまな曲が使われているのだが、作曲家や曲目の構成などに一貫性があるようには思われず、とくにフォーレの「レクイエム」が何度も流れるのには違和感を禁じえなかった。多くのアイヌが命を落とす物語であるから、その鎮魂の意図があるのだろうが、よく知られた名曲は強いイメージを持っており、逆効果ではなかろうか。
 また劇の後半において、若い女優に肌をさらす演技をさせていたことは理解に苦しむ。はじめての観劇ながら、ホームページやネットに掲載の観客の期待のメッセージを読み、重苦しく難解な題材を臆せず大胆に取り上げ、地道な活動を誠実に積み重ねている劇団とのイメージをもった。映像ではない舞台において女性のからだをみせるというのは、よほどの必然性や効果がなければできないのではないか。これをリアルであるとか体当たりの熱演であるとは、少なくとも筆者には思えないのである。

 12月の次回公演『幻しの王』は、「森井睦、久しぶりの少人数でのオリジナル脚本」(公演チラシより)とのことで、今回の『蝦夷地別件』とは大きく異なる作品のようである。長時間の大作を終えて、いくら少人数とはいえ早くも次回作の公演を行うのは、驚嘆すべき「劇団力」である。終演後のロビーで歓談するたくさんの方々の喜びを共有できていれば、迷うことなく観劇を決めるのだが・・・。

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