因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団銅鑼 『父との旅』

2015-03-18 | 舞台

*青木豪作 磯村純演出 公式サイトはこちら 六本木/俳優座劇場 22日まで
 先日東京芸術劇場で、青木演出による『The River』をとてもおもしろくみたが、今度は劇作家・青木豪との再会が叶った。開演前の舞台に緞帳はなく、照明も明るめで、舞台のこしらえが細かいところまでよく見える。どこかの地方の町の温泉宿、上手に玄関とフロント、いや帳場というほうがふさわしいだろう。ロビーもまことにささやかで、ガラス戸をあけると中庭に出られる作りになっており、そこには桜が満開を迎えている。
 桜の名所らしく、壁にポスターが貼られていたり、名所めぐりのパンフレットなども置いてある。ものがたくさんあって、開演前の客席にさまざまな情報と、これからはじまる物語への期待を与える。青木豪らしい趣向が懐かしく、嬉しくなった。

 蕎麦屋を営んでいた父は、老いてがんを患っている。結婚して家を出ているふたりの娘は亡くなった先妻の子で、大学を中退した息子は再婚した妻とのあいだの子である。父は遺言状を書こうと家族を温泉旅行に誘った。と、次女の夫が近所の温泉で倒れ、居合わせた旅行者に助けられて病院に運ばれる騒ぎが起こり、長女は夫の浮気を確信している。次女の夫が倒れたのは、事業が行きづまっているためのストレスであり、末の息子は父の蕎麦屋を継ぐべく修業をしていたが、ある事情のためにそこを辞めた。

 1時間40分、一杯道具の舞台装置のなかで、親子、きょうだい、夫婦、友だち(末っ子は宿で偶然幼なじみに再会する)、恋人(次女の夫を温泉で助けた)などが、仕事や人生、家族の介護、結婚など小さな騒動が次々に起こる。

 青木豪が作・演出をつとめた演劇ユニットのグリングは、2009年の暮れにいったん活動を休止し、その後2014年に正式に解散した。グリングの公演は自分にとって予定からはずせないほど大切なもので、せっせと通ったものだ(1,2,3,4,5,6 7,8,9)。青木豪の戯曲もさることながら、グリングの魅力は、青木の戯曲を自然かつ的確に演じる俳優陣であろう。劇団員はもちろんのこと、常連の客演陣、はじめての客演であっても、息が合っていて安心して見ていられるのである。劇団員、常連の客演陣ともに芸域が広く、「前回はあの役だった俳優さんが、今回はこういう役を」と驚くことも少なくなかった。

 『父との旅』で戸惑ったのは、俳優の演技である。声の大きさ、台詞の強度、表情の変化や動作など、もう少し抑制されてもいいのではないか。これが劇団のカラーというか、基本的な演技の温度にしても、父の演技はやや大仰であるし、いらついているとはいえ、長女の台詞の調子はここまで高飛車にしなくてもよいのではないか。

 青木豪の作品には、しばしば戯画的な人物が登場する。その造形は一般人に比べると奇妙なところがあるが、それでも「こういう人はいるかも」と思わせる現実味をしっかり備えており、決してありえない設定にはみえない。
 今回の場合、美人でやりての薬剤師さんは、前述の長女とはべつの方向性で演技が少々きつ過ぎ、その彼氏である薬局のバイトくんは髪型や服装がややくだけ過ぎだ。そのいっぽうでおもしろかったのは、末っ子の幼なじみの若い女性の友だちである。ことばづかいもふるまいも実に礼儀正しいのだが、少々度を越して滑稽なところがある。それが無類の麺好きで、末っ子とラーメン二郎の話で盛り上がったり、いっそ結婚したらなどという話になって大照れしたり、本筋に強く関わってこないけれども、こう言ったポジションの人物とのやりとりが舞台を弾ませ、客席を和らげる役割をもつ。この女優さんの演技も、あとほんのひと息工夫したら、もっと自然に楽しめるのではないだろうか。

 さまざまに小さな騒動は起こる。しかもそれらが解決したわけでもないが、以前よりは少しお互いに歩み寄り、相手に対して優しくできそうな、そんな柔らかな余韻のある終幕であった。だがどうしても、「この作品がグリングで上演されたら」と想像してしまうのである。
 ひとりの劇作家の文体、ことばのもつ匂いや手ざわりが俳優の身に付くには、こちらが思うよりも年月、場数が必要なのかもしれない。だがさまざまな作品に取り組んできた劇団、俳優であれば、その経験値によって劇作家の個性を活かしつつ、自分たちの色も織り込んだ造形が可能になるとも考えられる。
 さてそうすると、劇団民藝に青木豪が書き下ろす『クリームの夜』がどんな舞台になるのか、どういう点に注意して観劇すればよいのか、楽しみと課題が与えられたことになる。

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