因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

二兎社『書く女』

2006-10-08 | 舞台
*永井愛作・演出 世田谷パブリックシアター 公式サイトはこちら
 樋口一葉が主人公の劇といえば、井上ひさしの『頭痛 肩こり 樋口一葉』がまっさきに思い浮かぶが、今回の永井愛による『書く女』は、寺島しのぶという伸び盛りの女優を得て、新しい一葉像を作り上げることに成功した。本作を一言で言えば作者の一葉に対するオマージュであるが、「この台詞を言わせたい」というより、「言わせてやりたい」という、作者の寺島しのぶに対するほとんど愛情に近いものが感じられた。寺島しのぶについて書くのは先の楽しみにとっておくとして。

 『頭痛 肩こり~』の中にこんな台詞がある。半井桃水がその場の話題になっていて、一葉の母が彼のことを「ばかばかしいほどの美男子らしいですよ」と言う。客席爆笑。「ばかばかしいほどの美男子」とは、阿部寛、谷原章介あたりかしらと思っていたが、この人がおりました。今回桃水を演じた筒井道隆である。

 舞台で彼をみるのは初めてである。すらりとした長身に整った顔立ちで、確かに美男子。さらに声がいいのに驚く。だがその立ち振る舞いがどうも変だ。和服の演技に慣れていないのか、歩く姿もぎくしゃくしているし、台詞の言い方も棒読みというか、いったいこれは彼の地そのままなのか、永井さんの演出の結果なのか、まったくわからない。無自覚、無造作、適当と筒井氏をみていて思い浮かぶ言葉は要するに「芝居っ気なし」。あんまりだと思うが正直な感想である。しかしそれが「何て下手な役者だ」ではなく、熱演型の寺島しのぶの一葉に対して、茫洋でつかみどころのない、まさに半井桃水その人の造形に結果的に成功しているのである。

 本作には当時の文壇で一葉とゆかりのあった人物が何人も登場しており、演じるのは燐光群所属の俳優など二兎社初参加の新鮮な顔ぶれが揃った。しかし彼らの台詞の言い方がいささか一本調子の大声風だったことが残念であった。もっと静かに語らせることで人物に深みがでて、劇ぜんたいにも奥行きが生まれ、後半のやや冗長な感じも変化していくのではないだろうか。その中で文学座若手の細貝弘二の演じた川上眉山が複雑な雰囲気を醸し出していて、印象に残った。東京での公演は15日までだが、それから全国ツアーが始まる。来月23日の山口情報芸術センターが千秋楽となるのは、この日が一葉の命日という計らいであろうか。

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2 コメント

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 一葉を演ずる寺島しのぶさんは、まさに適役って... (もみじ)
2006-10-10 00:31:54
 一葉を演ずる寺島しのぶさんは、まさに適役って感じでしたね。桃水を演じた筒井道隆さんは、口説いているようで、はぐらかすようなぬーぼーとした雰囲気がピッタリでした。
「芝居っ気なし」そんなことないと思いますよ。考えてやっていると思いますよ。それほど演技をしてないように見えて、いつも最終的にはそのキャラクターになっている不思議な俳優さんだと、有名な演出家の方がおっしゃていました。本人は、自然に見える演技を心がけていると以前言ってました。永井さんは嘘のない演技をする人とおしゃっていました。
私は彼の声というか、語感が好きなんです。
温かい独特の余韻があるんです。聞いただけですぐ分かります。
ある映画の中で彼女にテープで気持ちを伝えるシーンがあるんですが、あんな声で言われたらどうしようと思ってしまいました。監督さんも分かっていて、声だけのシーンを入れたのだと思います。彼に語らせる場面がある作品って結構ありますね。
以前「或る小倉日記伝」というドラマでは演技賞ももらっています。
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もみじさま、コメントありがとうございました。お... (因幡屋)
2006-10-15 18:19:12
もみじさま、コメントありがとうございました。お返事が遅くなりましてすみません。筒井氏の「芝居っ気なし」は最終的に半井桃水の造形に見事成功していると肯定的に書いたつもりでしたが、少し舌足らずの表現だったかもしれませんね。お気に障りましたら失礼いたしました(汗!)。東京公演は今日が千秋楽。これから全国のいろいろな劇場で多くの人が楽しんでくださるといいなと思える舞台でした。寺島しのぶさんについてももっと書き続けていきたいと思っておりますので、また是非当ぶろぐにお越し下さいませ!
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