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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

パラドックス定数『怪人21面相』

2008-11-22 | 舞台
*パラドックス定数第17項 野木萠葱作・演出 公式サイトはこちら 渋谷SPACE EDGE 24日まで
 渋谷ルデコに向かう通りを途中で右折し、それから左折して線路沿いにしばらく歩くと渋谷SPACE EDGEがある。人通りもぱったり途絶え、駅前の喧騒が嘘のようだ。倉庫風の建物の中に入ると、舞台部分を通って奥が客席なので、遅刻すると入場はほぼ不可能な作りになっている。


 ずっと以前NHKの歴史番組だったが、作家の有吉佐和子が自著の『和宮様御留』について、「歴史の資料というのは点でございます。それを繋ぐのはわたくしの想像力でございます」ときっぱりとした口調で語っていたのを思い出す。先月みたばかりの『三億円事件』、今回の『怪人21面相』いずれも、実際に起こって迷宮入りした事件そのものを扱っており、多くの資料をあたって事実関係を綿密に調べたのちの、作者の創作である。どこまでが事実でどこからが創作なのかがわからないのだが、事件そのものが持つ底知れぬ力が作者に乗り移り、登場する男たちを生み出して、激しい劇世界を構築しているかのでようである。

 公演チラシには「少しは想像しろよ。興奮する話だろう。」と書かれている通り、これは人間の想像力についての話だと思う。

 開演前は携帯電話の電源を切ることと、上演中に退出したくなったときの注意事項であり、終演後は物販の案内や劇団員が客演している別の公演のお知らせなのだが、挨拶をする野木の口調や雰囲気はとても柔らかくて温かい。特に終演後の挨拶に拍手が起こるのは、この硬質でほっと息をつけるところが一カ所もない舞台が好意を持って受け入れられたことの証左であると思う。

 パラドックス定数はこれがやっと2回めの観劇だが、野木萠葱をみていて、「学校の先生のような人だな」という印象を持った。国語か社会科だ。きちんと準備されて行き届いた授業。ゆったりと優しい雰囲気だが、厳しくて怖い時もある。ときどき生徒がどきっとするような大胆で色っぽい話もしてくれる…実際そのような先生に出会ったことはないが、勝手に妄想が大きくなっていく。次回も必見の劇団がまたひとつ増えた。舞台そのものも楽しみだが、パラドックス定数初級の生徒である自分は、優しそうな野木先生がどうやってこの舞台を作り出しているのか、その心の中を知りたいのである。
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