因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『欲望という名の電車』

2007-11-18 | 舞台
*テネシー・ウィリアムズ作 小田島恒志翻訳 鈴木勝秀演出 東京グローブ座 公式サイトはこちら 25日まで
 はじめて『欲望という名の電車』の舞台をみたのはたしか1983年夏の青年座公演で、東恵美子のブランチに津嘉山正種のスタンリー、ステラは高畑淳子だった。自分もまだ子供といっていい年齢だった(でもないか)せいもあって、「何と暑苦しい芝居だろう」と思った。それから年月は一気に過ぎて、2002年蜷川幸雄演出、大竹しのぶ、堤真一、寺島しのぶの舞台になる(えびす組劇場見聞録の記事)。どの役にもそれぞれ一定の型があって、それは演じる俳優が相当に頑張ったり、斬新な演出を試みたりしても容易に崩せない印象がある。救いのない、やりきれない話。何度みても戯曲を読み返してもその思いは変らなかった。

 今回はこれが三演めで演じ納めとなる現代劇の女形篠井英介のブランチ、父親の北村和夫が当たり役にしていたスタンリーには、息子の北村有起哉が挑む。北村有起哉が登場して最初の台詞を言ったとき、それが北村和夫によく似ていてどきっとした。血の繋がった親子だから当然とはいえ。自分は文学座の『欲望~』をみていないので、どんなスタンリーであったかは想像しかできない。またこれまで有起哉をみていて父親の影を感じたことがほとんどなく、彼は父親とは資質が違うのだという既成概念があったのだろう。伝統芸能の世界なら父親の芸が息子に受け継がれることは当然であり、普通に受けとめられる。しかし現代劇となるといささか違った感慨がみる側にも生じる。今回の配役も有起哉がこれまで体験した数々の作品があって行き着いたのであって、「お父さんの当たり役だから」という理由だからではないだろうし、継承する義務も責任もない。偶然であり、同時に必然でもある。だからこそ、『欲望という名の電車』という作品が持つ不思議な導きの力を強く感じるのである。

 いいスタンリーだった。観劇後にまっさきに思ったのはそのことだ。スタンリーは粗野で下品で妻に暴力はふるうし、ブランチに対して何もそこまでしなくてもいいくらいに徹底的な仕打ちをする。あまり好きになれないタイプの男性というイメージがあった。有起哉もこれまでみたスタンリーに負けず劣らずよく暴れる。だが前半、ステラと激しい夫婦喧嘩をしたあとに、打ちしおれてそれでも虚勢を張りながら妻にすがりつく様子や、終幕ブランチを病院に送り込んだあと、悲しみに暮れてふらふらと歩いていく妻を見やる表情に惹きつけられた。彼のしたことは確かに少々乱暴だったが、あなたは家族を守ろうとしたのですね。これまでアタマで理解していたことが、スタンリーの体温とともに実感として受けとめることができた。

 実は『欲望という名の電車』には、因幡屋個人にも家族にまつわる思い出があるのだが、それはまた別の機会に。

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 稽古場拝見 劇団桃唄309『三... | トップ | メジャーリーグ+庭劇団ペニノ... »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
因幡屋さま、いつもご感想を楽しく拝読させており... (ふう)
2007-11-20 21:58:47
因幡屋さま、いつもご感想を楽しく拝読させております。「欲望~」はわたしも好きなお芝居のひとつで、篠井さんブランチでは2003年に青山円形で古田新太さんのスタンリーで観劇しました。今回の「欲望~」は長塚圭史さんもご自身のブログで「マジでお薦め」と書かれていて、是非観たかったのですが、今月は諸々の事情で劇場へ足を運べず、こうして因幡屋さまのブログを読ませていただき観劇気分を味わわせていただいております。「情熱大陸」も見ました。ますます「カリギュラ」も観たくなりましたが、やはり行けそうにないので、因幡屋さまのご感想を楽しみにしております! 「欲望~」とご家族にまつわる思い出、なんだか気になりますね~^^
長々と失礼いたしました。
返信する
初めまして。実は昨日このお芝居を観て参りました。 (ねこくぼ)
2007-11-21 20:36:22
初めまして。実は昨日このお芝居を観て参りました。
私は高一の時に文学座の公演を観たことがあります。初めて観た本格的なお芝居の迫力に打ちのめされた記憶があります。後にこの日に杉村春子さんのご主人が亡くなられていたのを知りショックを受けた覚えがあります。昨日の篠井さんは本当に美しく可憐で可哀想で抱き締めてあげたくなりました。前から二列目のど真ん中迫力ありましたよ。
故・北村和夫さんは母が大ファンで私も好きでした。
昔、私の地元が舞台の「氷点」に主演なさって嬉しかった思い出が。
でも息子さんは・・・
まるっきり容姿も演技も魅力を感じませんでした。
ただの粗暴なチンピラにしか見えませんでした。体格も貧弱でただ暴れ回るばかりで「一種の哀しみ」というか観客を納得させる何かを感じませんでした。
途中からなるべく顔を見ない様にしていたので少し外れたかもしれません。
古田新太さんならぴったりのイメージですけど。
返信する
ふうさま、コメントありがとうございます。当ぶろ... (因幡屋)
2007-11-23 01:21:05
ふうさま、コメントありがとうございます。当ぶろぐをお楽しみいただいている御由、わたしも嬉しく改めて御礼申し上げます。今回東京グローブ座の公演が自分にとってはじめての篠井英介による『欲望~』だったのですが、円形劇場で古田新太のスタンリーを見逃したのは残念です。『カリギュラ』もこうなりますと記事を書かないわけにはまいりませんね(笑)。よいプレッシャーにして見るのも書くのも頑張ります。これからもどうかお運びくださいませ。
返信する
 ねこくぼさま、コメントをありがとうございます... (因幡屋)
2007-11-23 01:24:57
 ねこくぼさま、コメントをありがとうございます。北村有起哉のスタンレーはダメでしたか・・・。自分には蜷川演出では妹のステラ、今回はスタンレーという具合に、みるたびに心を寄せられる人物との出会いがありました。ブランチはまだまだ課題の多い存在で、次なる上演(新しい女優さんの挑戦)を楽しみにしています。また当ぶろぐにもお越し下さいね。
返信する
私は地元で見ました。 (nagochan)
2007-12-01 21:20:06
私は地元で見ました。
篠井英介さんの出身地とのことでとても力が入っていたと思います。はじめての篠井英介でしたがとても素敵でした。女性以上に女性らしい素敵なうなじから背中で思わずうっとりです。なぜブランチがここまでになってしまったかが丁寧に描かれていてどんな舞台なのかほとんど知らずに見に行った私にも理解できて物語にしっかり入りこんで感動でうるうるでした。スタンレーは思ったよりワルではなかったのでほっとしました。私はこのスタンレーには好感が持てました。

この数日前に「ワールドトレードセンター」も当地で観ることができて、このところとても幸せな地方になっています。
返信する
 nagochanさま、コメント感謝です。俳優が作品と... (因幡屋)
2007-12-02 00:04:51
 nagochanさま、コメント感謝です。俳優が作品と出会い、役に惚れ込み、演じたいと強く願う。それが実際の上演に結びつくのは、自分が想像するよりも難しく、奇跡に近いものかもしれません。その奇跡に立ち会えたことをとても幸福に思っております。いろいろな舞台を楽しんでいらっしゃる御由、これから年末にかけてもどうかよい舞台に出会えますように。
返信する

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事