因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

『北緯43°のワーニャ』

2006-09-12 | 舞台
TPS第19回公演 アントン・チェーホフ作『ワーニャ伯父さん』より 神西清訳 斎藤歩演出・音楽 こまばアゴラ劇場
 札幌に拠点をもつTPS(シアタープロジェクト札幌)による、北海道演劇財団十周年・シアターZOO五周年記念公演。モスクワからやってくる夫婦を文学座の坂口芳貞、山崎美貴が客演している。演出の斎藤歩いわく「北海道独特の気候、植生、そこに暮らす人々の言葉で語られるチェーホフには東京で創るチェーホフと違うリアリティがあるに違いない」とのこと(公演チラシより)。TPSの舞台をみるのは一昨年の『アンダンテ・カンタービレ』に続いて二回めである。
正直に言うと前回も「北海道独特だ!」という印象が特別にあったわけではないのだが、今回途中カットなしで上演されたTPS版「ワーニャ伯父さん」からは、登場人物の肉声が切々と聞こえてくる感覚があった。あまりみる機会のない神西訳のチェーホフは、言い回しや表現に多少古びたところはあるが、不思議なくらいしっくりと耳に馴染む。特に終幕のソーニャの台詞、「ほっと息がつけるんだわ」には胸がしめつけられるようであった。夢や希望がすべてなくなっても生きていくしかない人間の悲しみと、そこに差す微かな光。気休めや諦めではなく、心からの慰めと安らぎが感じられるのである。

 登場人物の年齢設定が細かく、すべての役をずばりの配役にすることは難しいのだろう。今回も多少無理なところもあったが、俳優が年齢よりも役の内面をきちんとつかんだ演技をしていたので気にならなかった。よくわからなかったのは劇の冒頭と一幕の終わりに、出演俳優による楽器の生演奏があったところである。今回の舞台にことさら必要性があるとも思えず、失礼ながら演奏技術もあまり・・・。演出の斎藤歩はアーストロフ役で出演もしているが、彼とテレーギンの絡みでアドリブのような演技をしているところも気になった。劇の流れが大きく変わるほどではないが、前述の楽器演奏と同じく、今回の舞台には必要ないだろう。斎藤さんは照れ屋さんなのかな?カーテンコールの挨拶でいきなり素に戻ってしまったのが残念であった。舞台がとてもよかったのだから、その余韻を大切に、自信をもって堂々としていてください。

 なかなか夢がかなわないが、是非北海道でTPSの舞台をみたいと思う。北の地の風を感じながら、チェーホフをみたい。できればうんと寒い季節に。

 

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