因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

東京デスロック『LOVE 2010 Yokohama ver. 』

2010-03-05 | 舞台

*多田淳之介演出(1,2,3) 公式サイトはこちら STスポット 7日まで
 当日チラシ記載の多田淳之介の挨拶文によれば、本作は2007年に原宿のギャラリーで初演され、その後昨年から韓国、埼玉、淵野辺、青森、神戸、鳥取と各地の劇場に合わせたバージョンで上演されてきたとのこと。今夜は「横浜バージョン」であり、ほかの劇場ではみられないここだけの舞台ということになる。三面を白い壁に囲まれ、床も白いSTスポット。正面の壁に「LOVE」の字幕が映しだされ、YMOの音楽がからだに響くほどの音量で流れ始める。
 考えてみると多田淳之介が演出した舞台はいくつかみたことがあるものの、オリジナルはこれが初めてだ。俳優たちがひとり、ふたりとゆっくりした歩みで舞台にやってくる。「LOVE」とは何なのだろう?

 どうやら台詞やストーリーのあるストレートプレイではないらしい。男女あわせて7人の俳優たちは最初はお互いの様子を探りつつ立ったり座ったり、走り回ったり踊ったり、何かのきっかけで激しい叩き合いを始めたりする。コミュニケーションを取ろうとし、交わりが生れ、しかし何かのはずみで諍いがはじまる。男女のあいだだけでなく、人間が集まるところに生まれては壊れ、消えていくLOVEを描こうとしているのだろうか。ところで夏目慎也はいつ登場するのかしら。

 彼は最後15分くらい前に現れた。ここでやっと彼らは言葉を発する。しかし一方的に夏目に向かって次々と問いかけるだけで、彼が答えもしないうちに「ああ、いいですよねー」と返し、会話は成立しない。どこから来たのか、年齢は、血液型はという質問が、だんだんと好きな家族は、好きな友達は、好きな恋人はという奇妙ななものになり、好きな慰めは、好きな憐れみは、好きな死は?と痛いものになっていく。夏目は客席に背を向けたまま、暴力的といってもいい突き刺さるような問いをただ受け止める。

 本公演は毎回アフタートークがある。ゲストはなくて多田淳之介が作品について語り、客席からの質問も受けるという形らしい。「LOVE」について他の劇場ではどのような上演だったか、どのようなことを考えているのかなど、興味深く聞いた。終盤の問いかけ場面では、俳優が客席に向かって発するバージョンもあるそうで、さすがにSTスポットのスペースでは難しく、夏目が問いかけから「お客さんを守る」という形になったそう。東京デスロックは2009年で東京での劇団としての活動を休止し、埼玉県富士見市に拠点を移した。多田は4月からキラリ☆ふじみの芸術監督に就任する。電車でたった1時間ちょっとであっても、東京の下北沢や渋谷と、横浜で芝居をみるときは明らかに気分が異なり、何となく「アウェー」な感覚になることは確かだ。

 1時間15分の上演時間は長くはないが、困惑と正直なところ「これ以上は無理」という我慢の感覚があって、多田淳之介がやろうとしていることをはっきりと感じ取ることは出来なかった。多田淳之介の話し方は親しみやすくて好ましい。小さな劇場とはいえ、たった一人で話し、客席に問いかけたり、質問を受けたりは大変だろうと思うに、とても自然に話していて、単に「トークが巧い」という技術的なことではなく、多田の重要な個性であり、演劇関わる姿勢の表れだと思う。しかしながら舞台によっては上演前に作品の解説がされるときもあるし、アフタートークがあってようやく作品の概要がわかるというのも、少しもったいないというか、違うのではないかと思うのである。

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