因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

The Choice of しむじゃっくより 岸田國士 『村で一番の栗の木』

2016-07-03 | 舞台

しむじゃっくは、2008年、「観劇経験のない方でも楽しめる老若男女向けの娯楽作品を提供することを目的として杉山純じ作・演出作品を上演する演劇ユニットとして旗揚げ」した(公式サイトより)。今回のThe Choice of しむじゃっくは、「新進気鋭の若手団体をシャッフルし発展のきっかけを掴んでもらいます。親和性の高い団体を組み合わせお互いの良いところを吸収してもらい、お客様へは低価格チケットを用意し気軽に新たなお気に入りを見つけてもらいたいと思います」との目的で開催された。劇団肋骨蜜柑同好会の『村で一番の栗の木』と、KAMAYANの鎌田邦昭の作品を、しむじゃっくの杉山純じが演出する『間違ったチョイスの仕方』が十条の商店街にあるスタジオトルクで、7月3日まで12日間交互上演される。各1,900円、2演目セット券3,500円の良心的価格である。

 寡聞にてしむじゃっく、杉山純じ、スタジオトルクのいずれも今回はじめて知ることになった。昨年秋の出会いから一押しの劇団肋骨蜜柑同好会『村で一番の栗の木』(岸田國士作)を観劇した。出演予定だった杉浦雄介が体調不良で降板したため、演出のフジタタイセイ(1,2)が演出とともに出演も担うことになった。スタジオトルクは小さな空間だ。しかし演技エリアには中央に栗の木らしきオブジェ、周辺に多少の小道具、上手に長椅子があるくらい、客席に置かれた椅子も20脚置ほど。スペースからすれば、もっと詰め込むこともできそうに見えるが、後方には音響設備などが置かれていることもあり、ゆとりのある作りである。時間になると客席中央の通路からフジタタイセイ演じる亮太郎と、堀江麗奈演じる妻あや子が登場し、開演となる。

 東京で暮らす若夫婦が、夫の実家のある地方へ向かう場面にはじまる。実家の屋敷には大きな栗の木があるという。実家に逗留するうち、夫の両親や弟との軋轢が少しずつあらわになる。何が原因なのか、兄と弟にはどんな意見の食い違いがあるのか、詳しいことは描かれない。一箇所だけ弟が登場する場面があるが、兄役のフジタが兼ねる。兄弟が諍いをする場面がないので、不自然な感じはしない。

 岸田國士による若夫婦の会話劇といってまっさきに思い浮かぶのは『紙風船』、つぎに『ぶらんこ』であろうか。日常のひとこまを淡々と描きながら、どこか幻想的で浮遊しているかのような雰囲気が漂う。今回の作品について言えば、フジタタイセイの演出は端正で、舞台には静かな時間が流れている。しかし夫婦の心は台詞として表出していない部分で千々に乱れていることが感じられる。それを想像すると恐ろしくもあり、見終わったあと、しみじみとした悲しい味わいが湧いてくるのであった。

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