今日の一貫

韓国農業は起業家精神を涵養しているという記事

このところ、朝日新聞の農業へのスタンスがいい。
18日、韓国の農業の特集をしている。
米韓EPAや欧韓EPAの加速が韓国国民に受け入れられている。韓国は貿易依存度の高い国だけに、貿易の大切さはわかっていても、韓国の農業といえば、常に機動隊がでる過激派と一体メージもある。しかし、社会状況の変化で、「政府に頼るだけでは農業には何も生まれない」という農家も増えているのだろう。「韓国ベンチャー農業大学」の話。
しかし、前向きでも落第する農家もいるというが、だからといって、「いくら頑張っても駄目だから」などとはいわないのだろう。
そんな記事を朝日が書いている。

内容は、
①市場開放反対を叫び過激なデモばかりするイメージの韓国農民の足元で、「ベンチャー精神」の農村への浸透いう新たな息吹がみられる。
②「韓国ベンチャー農業大学」がそれで、卒業・入学式には約700人が集まった。
③大学の応募倍率は4倍の難関。
④「子供がかわいいと小遣いだけ与えたら、どうなるだろうか。政府は農民をそういう状態にして、農民はなんとなく生産し、農協に出せば売れると思ってきた。FTA時代はそうはいかない」。

以下全文をあげておこう。
 

(けいざい一話 ひと・組織・思想)韓国農業、起業の息吹 市場開放、足元では2007/05/18, 朝日新聞 朝刊, 14ページ, 有, 2590文字

 韓国の農民というと、まず何を思い浮かべますか? 市場開放反対を叫び海外の国際会議まで出向いて行う過激なデモでしょうか。確かに牛肉などの関税撤廃で4月初めに合意した米国との自由貿易協定(FTA)では激しい反対が繰り広げられましたが、足元では新たな息吹もみられます。情報技術(IT)産業の専売特許だった「ベンチャー精神」の農村への浸透です。(神谷毅)


 「自強不息」(一瞬たりとも気を緩めず励むべし)。4月下旬、韓国中部、忠清南道の錦山郡で「韓国ベンチャー農業大学」の卒業・入学式に集まった農民たちの誓いの言葉だ。
 政府認可の正式な大学ではない。01年、サムスン経済研究所の閔勝奎・首席研究員が中心となり廃校で開校した。政府支援は受けず事務局や講師はボランティア。
講師料はリンゴやコメなどの農産物だ。
 全国各地から集まる「学生」たちは、食費など実費90万ウォン(約11万5千円)を授業料として払い交通費は自腹。1年間、1カ月に1度、1泊2日の講義を受ける。
 卒業・入学式には約700人が集まったが韓国メディアの報道ぶりが面白い。「全国から農民が集まったのに警察官は1人もいなかった」(朝鮮日報)。農民といえば「FTA撤回」の鉢巻きで道路を占拠、交通渋滞を引き起こすという存在になっている。しかし彼らは違う姿を見せた。
 初講義では「弁護士や医者、一流企業会社員が楽な仕事かって? 皆生き残るため差別化に必死だ」というマーケティング専門家の言葉に、熱心にメモを取る。
 閔研究員は「子供がかわいいと小遣いだけ与えたら、どうなるだろうか。政府は農民をそういう状態にして、農民はなんとなく生産し、農協に出せば売れると思ってきた。FTA時代はそうはいかない」。
 大学の応募倍率は4倍の難関。農民に「企業家であれ」という姿勢を求めるため、電子メールアドレスと名刺がないと入学資格がない。卒業には自分の農産物をいかに販売増に結びつけるかを分析した「事業計画書」が必要。500人余りが卒業したが、3割余りが「落第」した期があるほど審査は厳しい。卒業生の半分以上の年収が1億ウォン(約1300万円)以上という。

 韓国政府は、今回の韓米FTAでも所得補填(ほてん)や廃業支援金を支給するが、閔研究員は「政府に頼るだけでは農業には何も生まれない」と話す。
 ■パプリカで22億円 日本を調査、輸出に活路
 南西部・全羅北道の金堤市にある「農産貿易」は日本で流通するパプリカの約4分の1を供給する。80の農家・法人が参加、06年の売上高は170億ウォン(約22億円)に達した。代表の趙基心さん(48)は、ベンチャー精神を実践するひとりだ。農業を弟が継いだため、彼女はソウルで衣料関係の仕事についた。

 転機は95年。弟が最新の温室を建てたが利幅の薄いトマトなどしか作物がない。そんな時、趙さんがオランダで日本輸出用のパプリカ栽培を見て、すぐに日本の市場を調査。オランダから栽培施設を導入、1千万円以上の高給で技術者も招いた。温室は常に温度と湿度がコンピューターで一定に保たれ、室内の様子や栽培環境をインターネットでいつでも見られる。

 9割は日本向けで、韓国での価格が日本より高い時も「安定供給が信頼の根本」と国内市場には回さない。一つひとつの箱にバーコードを付けて流通過程を追跡しクレームに備える。趙さんは市場開放について「高付加価値の作物は富裕層が増える中国でも需要がある。デモも大事だが農民自身が対案を示さないといけない」と話す。

 ■トラジで8億円 研究員抱え、新製品開発
 南部・慶尚南道の晋州市で「長生トラジ」という会社を営む李栄春さん(49)はトラジ(キキョウ)で年間65億8千万ウォン(約8億4千万円、06年)を売り上げる。
 栄春さんはベンチャー農業大の1期生。現在は社内に5人の研究員を抱え薬効の科学的証明や新製品開発も行う。「農業も選択と集中を進め、政府は企業化農業を目指す人がやりやすいよう規制緩和など環境を整えるべきだ」との考え方だ。
 農家だった父親の聖鎬さん(75)が54年、トラジの薬効に注目し栽培を開始。ただトラジは普通、3年以内に枯れてしまう。薬効成分を高めるため寿命を延ばす必要があり、移植を繰り返して20年以上育つ品種を開発した。16年間かかった。
 「21年もの」をそのまま売っていたが、コスト面などうまくゆかず、膨らんだ負債は97年時点で約28億ウォン(3億6千万円)。サムスングループに勤めていた栄春さんが「帰農」し、販売先が限られる生のままの販売をやめエキスやお酒、お茶などの製品を作った。大学との共同研究で明らかになった抗がん作用や糖尿病の防止などが評判になり、05年からは日本に輸出も始めた。輸出は売上高のほぼ4割を占める。

 ◇成功例、積み上げを(視点)
 趙さんと李さんの成功はビジネス経験があればこそだ。農村ではメディアや政府広報に登場する2人のような「勝ち組」へのやっかみ、「高齢の農民に何ができるのか」とのあきらめを聞いた。政府はFTAを「外圧」に農業に改革を迫るが実際に変わるのは生半可ではない。
 痛みを受け入れながらの変化には抵抗をともなうが、「ベンチャー」たちのような成功例を積み上げ波及させていくしか方法はない。農業は価格だけで計れない安全や安心が付加価値になるからこそ機会もある。

 ◆韓国農業の希望メッセージ(韓国ベンチャー農業大学)
 一、我々農民は安全な食べ物を提供することで、消費者から愛情と信頼を受けることを最優先とするべし。
 一、我々農民は政府に依存する惰性から抜け出し、環境変化に能動的に対応できる体質に変わることを追求するべし。
 一、我々農民は農業が韓国の生命産業の軸として地位を固め、経済発展の成長エンジンになるよう努力するべし。
 一、我々農民は活力があり持続可能な農業・農村の新しい価値を創出することに寄与するべし。


 ◎経済ニュースを「ひと」「組織」「思想」に焦点をあてて読み解く日替わり特集です。ご意見や読みたいテーマをkeizai@asahi.comにお寄せ下さい。
 【写真説明】
 韓国ベンチャー農業大学の授業風景。作業着姿もいるが、スーツの男性やカジュアルな服装の女性たちが多い=忠清南道で
  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「農政 農業問題」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2023年
2022年
人気記事