語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】中国には北朝鮮核問題に係るビジョンがない ~北朝鮮への対応がフラフラしている理由~

2017年09月07日 | ●佐藤優
 (1)中国の北朝鮮政策には、ビジョンがない。北朝鮮をどうしたい、などということは考えていなくて、ただ、いうことを聞かないヤツをどうするかと困っていた。そうしたら米国に、お前の責任でなんとかしろ、といわれたってことだろう。場当たり的対応だったのだ。

 (2)中国には、北朝鮮をなんとかする手段、つまり制裁する手段はある。パイプラインで送っている石油、それをとめればいいだけだ。本当の制裁になる。しかし、それをやると北朝鮮は暴発する。それは避けたいわけだ。
 暴発されるとなにが困るのか。まず、難民だ。それから、宝探しだ。
 宝とは何か? 北朝鮮の核弾頭と弾道ミサイルだ。北朝鮮が暴発したあと、崩壊したら、韓国、中国、米国の三者でこの宝を探し始めることになる。で、いちばん最初に見つけた者のものになる。そんなとき、北朝鮮人は自分たちの核を、同胞の韓国人に渡す。
 つまり、北朝鮮が暴発したら、結局は韓国が北朝鮮を併合するのは目に見えている。そのとき、韓国は核保有国になる。朝鮮半島に核保有国ができるのを、中国は望んでいないはずだ。
 日本だって大変だ。竹島問題、慰安婦問題、歴史認識問題。それらの問題について日韓でもめたとき、韓国は核兵器で圧力をかけてくる。
 しかも、そうなると米国は何もできない。南北分断が終わったら、韓国にとって、もう米軍は必要なくなる。出ていけ、って話になるだけだ。
 すごく嫌な時代が来る。

 (3)今、中国は米国にいわれて北朝鮮を説得しているわけだが、難しい。完全に説得することはできないだろう。そうなると、問題は中国が北朝鮮に対して、外科療法を取れるかどうかだ。金王朝を、なんらかの形で転覆させられるかどうか。
 しかし、中国にそこまでする腹はない。だから、あの国の北朝鮮への対応はフラフラしている。
 そうなると、今度は米国がしびれを切らして軍事介入するかもしれない。それによって混乱が生じることも考えられる。

 (4)中国は北朝鮮に困っているわけだが、北朝鮮のほうも中国とロシアの、どっちも信頼していない。中露については、自分たちの生き残りのために利用するだけだ。それは彼らが主体(チュチュ)思想というイデオロギーを持っているからだ。
 主体思想とは何か。それは、中国やロシアから主体性を持つ、ということだ。
 中国と北朝鮮の間には、中朝友好協力相互援助条約がある。だから、条約の上では、中国は北朝鮮が攻撃を受けたら自動的に参戦する義務を負っている。しかし、中国は参戦しないだろう。その意味で北朝鮮の対中不信は正しい。
 しかし、それは中朝間に限ったことではない。日本にも、日米安保条約で本当に米国は日本を守ってくれるか、と疑問を持つ人はいる。これと一緒だ。 

□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第3章 地政学から読み解く北朝鮮の戦略」の「中国には北朝鮮核問題について、なんのビジョンもなかった だから北朝鮮への対応は、フラフラしている」
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