語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】大使館が引っ越すと第三次世界大戦の引き金になる ~地獄の釜の蓋が開く~

2017年08月15日 | ●佐藤優
 (1)トランプ大統領がめざしているのだが、シリアやイラクにある「イスラム国」の掃討に成功する可能性はある。その代わり、「イスラム国」の脅威は中央アジアに移転する。
 掃討するといっても、それは対症療法でしかない。実際には、シリアやイラクから追い出すだけだ、ということだ。追い出された者は、ほかの土地に行く。それはアフガン、パキスタン、キルギス。そういうところに散らすだけだ。なぜか。「イスラム国」は原因ではなく、結果だからだ。サイクス・ピコ協定以来の20世紀の中東の秩序が、もう機能不全を起こしている。それが原因で、いろんなところに問題が噴き出しているわけだ。
 〈例〉アルカイダ。「イスラム国」。
 だから、そう簡単には問題は解決せず、中東は落ち着かない。

 (2)そんななかで、トランプのイランに対する強硬姿勢は、とりあえずサウジアラビアを安心させている。そのために中東は今、少し落ち着いている、という見方はある。ただ、強硬姿勢は、イランが核開発、核実験を再開する、というリスクを負っている。そうなった場合に、米国にイランを止められるかというと、止められない。対イラン戦争は起こせない。
 となれば、イランが核を持った、ということで、パキスタンの核がサウジに移転する。で、アラブ首長国連邦やクウェートが核兵器を買う。エジプトが核開発を始める・・・・。
 こういうシナリオが出てくるわけだ。中東の秩序はますます混沌としてくる。
 そんななか、トランプはとにかく“イスラエル一本”を方針にして、中東を突っつく。突き方によって、中東にどんな影響を与えるか、ということをあんまり考えていない。

 (3)あんまり考えてない例が、米国大使館移転問題だ。トランプは現在テルアビブにある米国大使館をエルサレムに移転する、と言っている。
 これは大変なことだ。
 移転などしたら、パレスチナ人が怒って暴れて、イスラエル国内で内戦が起きる。内戦は隣のヨルダンに飛び火するだろう。
 今、ヨルダンの人口の7割はパレスチナ人だ。王様は人気があるし、米国の同盟国なのだが、軍事力はそんなになくて、防空をイスラエルに委ねている状態だ。それは、ヨルダンもイスラエルも公式には認めていない。でも、実態はそうで、そんなヨルダンの王制が内戦で崩壊したら、そこに「イスラム国」が入ってくる。ヨルダンが「イスラム国」化する可能性が、出てくるのだ。

 (4)だから、トランプの移転発言については、イスラエルは内心、迷惑しているだろう。ありがた迷惑だ。ただ、イスラエルの立場としては、1967年の第三次中東戦争でエルサレムを占領。イスラエルに併合して、東西エルサレムは一体となったものであって、不可分だ、といってしまっているから、その建前を降ろすことはできない。移転は困るのだが、だからと言ってやめてくれ、とはいえない。
 しかも、米国の議会でも、1995年に法律を作っているわけだ。エルサレムに大使館を置く、という。それを大統領令を出して、半年ずつ先延ばしにしてきたわけだ。移転は半年待ってくれ、と。これを22年間、繰り返してきた。トランプはそれを、やらなければいいだけの話だ。議会の意向を尊重する、といえばいいだけ。イスラエルの右派勢力は、これを喜んでいる。
 でも、大戦争のきっかけになる可能性がある。
 イスラエルでも、外交当局者、インテリジェンス関係者は迷惑がっていることだろう。でも、イスラエルの建前があるから、移転反対で動くことはできない。
 米国議会もそうだ。法律を作ったのは議会だから。トランプにいわせれば、じゃあ、お前たち、法律を引っ込めろという話なんだけれど、議会は引っ込めはしない。欺瞞そのもの。トランプは今までのなれ合いをやめて、そのままでやればいいじゃないか、という。
 でも、すると大変なことになるわけだ。しかし、それを誰も止められない。面倒くさいし、不思議だ。誰ひとり、理性を働かせようとしない。世界戦争になるとわかっているのに、止められない。
 イスラエルの為政者にも止められない。止めようとすると、権力基盤の喪失につながるからだ。政治家だったらできない。だから、地獄の釜の蓋が、いま開こうとしているわけだ。

□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第1章 地政学から読み解く米国の戦略」の「大使館が引っ越しをすると、第三次世界大戦の引き金になる! ~地獄の釜の蓋が、開こうとしている~」

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 【参考】
【佐藤優】トランプを理解する二つ目のカギ ~「イスラエル中心主義」~
【佐藤優】トランプを理解するカギ ~彼の信仰、カルヴァン派~
【佐藤優】×宮家邦彦/北朝鮮の核問題、ICBM問題にどう向き合うか


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