(1)トランプ大統領を知るのにもうひとつ重要なのが、クリスチャン・シオニズムだ。
<クリスチャン・シオニズムは、神がアブラハムと結んだ「アブラハム契約」に基づき、シオン・エルサレムがアブラハムの子孫に永久の所有として与えられたとするキリスト教の教理の一つ。全教派で認められている・信じられている訳ではなく、むしろ信じている者は一部であり、アメリカのキリスト教プロテスタントの福音派の一部や、ドイツルーテル教会のマリア福音姉妹会、末日聖徒イエス・キリスト教会などで信じられている教理である。この教理を信じる人をクリスチャン・シオニストと呼ぶ。近代シオニズムは、19世紀後半頃からアメリカのディスペンセーション主義の神学者達が主張するようになった。
この立場では、イスラエル(パレスチナ)を神がユダヤ人に与えた土地と認める。さらに、イスラエル国家の建設は聖書に預言された「イスラエルの回復」であるとし、ユダヤ人のイスラエルへの帰還を支援する。キリストの再臨と世界の終末が起こる前に、イスラエルの回復がなされている必要があると考え、イスラエルの建国と存続を支持する。>【注1】
(2)トランプ自身も大統領就任演説で、次のように言っている。
<私たちの政治の根幹をなすものは、アメリカ合衆国への全面的な忠誠です。そして国に対する忠誠を通して、国民同士の忠誠も再発見することになるのです。皆さんが心を開いて愛国心を抱く時、偏見が入り込む余地はなくなるでしょう。聖書は教えてくれます。「見よ。ともに団結して生きる。なんという恵み、なんという喜び」であると。私たちは率直に考えを述べ、意見が合わないことについては率直に議論しなければなりません。>【注2】
じつは、この前の部分で、
<私たちは古くからの同盟を強化し、新しい同盟を築きます。文明的な世界を結束させてイスラム過激派のテロに対抗し、彼らを地球上から完全に撲滅します。>【注3】
と、演説している。それから聖書を読み上げるわけだが、この聖書は新約聖書ではない。旧約聖書なのだ。詩編133に、
<見よ、兄弟がともに座っている。なんという恵み、なんという喜び。かぐわしい油が頭に注がれ、ひげにしたたり、衣の襟に垂れるアロンのひげに滴りヘルモン山におく露のように、シオンの山々に滴り落ちる。シオンで、主は布告された。祝福と、永遠の命を。>
とある。この詩の意味は、この世の秩序、すべての支配は、イスラエルから始まる、ということだ。そういう詩を読み上げているわけだ。すると、これはなにか。犬笛なのだ。
(3)犬笛をピーッと吹くと、犬のほうが人間より可聴帯域が広いから、犬にだけ聞こえる。つまり、本当の意味がわかる人にはわかる、ということだ。ふつうに演説しているから、ほとんどの人にはわからない。ところが、ユダヤ人たち、ユダヤ教についてよく知っている人たち、あるいはクリスチャン・シオニズムについてよく知っている人たちには、演説の真の意味がわかる。それは、自分はイスラエル中心主義者だ、ということだ。トランプのイスラエル中心主義は戦略的な発想とか、娘婿のクシュナーがユダヤ人だ、とかいうレベルじゃない。トランプの信念であり、根っこなのだ。
だから、パレスチナとイスラエルの2ヵ国制度を前提にしなくていいんじゃないか、イスラエル一国だけでいいんじゃないか、となる。あるいは、米国大使館をエルサレムに移転しよう、なんて言い出したのも、根っこには信念があったわけだ。イスラエルは特別な国である、と。
中国について、ふたつの中国でいいんじゃないか、とトランプは言った。これはいい加減。よく知らないで発言した。でも、イスラエルについては知ったうえで、信念を持って発言していた。確信を持っている。
【注1】ウィキペディア「クリスチャン・シオニズム」
「クリスチャン・シオニズム」
【注2】「トランプ米大統領就任演説(全文)」(毎日新聞デジタル版 2017年1月22日)
「トランプ米大統領就任演説(全文)」
【注3】前掲記事。
□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第1章 地政学から読み解く米国の戦略」の「わかる人だけにはわかる、トランプ大統領の“犬笛” ~もうひとつの信念は「イスラエル中心主義」~」
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【参考】
「【佐藤優】トランプを理解するカギ ~彼の信仰、カルヴァン派~」
「【佐藤優】×宮家邦彦/北朝鮮の核問題、ICBM問題にどう向き合うか」
<クリスチャン・シオニズムは、神がアブラハムと結んだ「アブラハム契約」に基づき、シオン・エルサレムがアブラハムの子孫に永久の所有として与えられたとするキリスト教の教理の一つ。全教派で認められている・信じられている訳ではなく、むしろ信じている者は一部であり、アメリカのキリスト教プロテスタントの福音派の一部や、ドイツルーテル教会のマリア福音姉妹会、末日聖徒イエス・キリスト教会などで信じられている教理である。この教理を信じる人をクリスチャン・シオニストと呼ぶ。近代シオニズムは、19世紀後半頃からアメリカのディスペンセーション主義の神学者達が主張するようになった。
この立場では、イスラエル(パレスチナ)を神がユダヤ人に与えた土地と認める。さらに、イスラエル国家の建設は聖書に預言された「イスラエルの回復」であるとし、ユダヤ人のイスラエルへの帰還を支援する。キリストの再臨と世界の終末が起こる前に、イスラエルの回復がなされている必要があると考え、イスラエルの建国と存続を支持する。>【注1】
(2)トランプ自身も大統領就任演説で、次のように言っている。
<私たちの政治の根幹をなすものは、アメリカ合衆国への全面的な忠誠です。そして国に対する忠誠を通して、国民同士の忠誠も再発見することになるのです。皆さんが心を開いて愛国心を抱く時、偏見が入り込む余地はなくなるでしょう。聖書は教えてくれます。「見よ。ともに団結して生きる。なんという恵み、なんという喜び」であると。私たちは率直に考えを述べ、意見が合わないことについては率直に議論しなければなりません。>【注2】
じつは、この前の部分で、
<私たちは古くからの同盟を強化し、新しい同盟を築きます。文明的な世界を結束させてイスラム過激派のテロに対抗し、彼らを地球上から完全に撲滅します。>【注3】
と、演説している。それから聖書を読み上げるわけだが、この聖書は新約聖書ではない。旧約聖書なのだ。詩編133に、
<見よ、兄弟がともに座っている。なんという恵み、なんという喜び。かぐわしい油が頭に注がれ、ひげにしたたり、衣の襟に垂れるアロンのひげに滴りヘルモン山におく露のように、シオンの山々に滴り落ちる。シオンで、主は布告された。祝福と、永遠の命を。>
とある。この詩の意味は、この世の秩序、すべての支配は、イスラエルから始まる、ということだ。そういう詩を読み上げているわけだ。すると、これはなにか。犬笛なのだ。
(3)犬笛をピーッと吹くと、犬のほうが人間より可聴帯域が広いから、犬にだけ聞こえる。つまり、本当の意味がわかる人にはわかる、ということだ。ふつうに演説しているから、ほとんどの人にはわからない。ところが、ユダヤ人たち、ユダヤ教についてよく知っている人たち、あるいはクリスチャン・シオニズムについてよく知っている人たちには、演説の真の意味がわかる。それは、自分はイスラエル中心主義者だ、ということだ。トランプのイスラエル中心主義は戦略的な発想とか、娘婿のクシュナーがユダヤ人だ、とかいうレベルじゃない。トランプの信念であり、根っこなのだ。
だから、パレスチナとイスラエルの2ヵ国制度を前提にしなくていいんじゃないか、イスラエル一国だけでいいんじゃないか、となる。あるいは、米国大使館をエルサレムに移転しよう、なんて言い出したのも、根っこには信念があったわけだ。イスラエルは特別な国である、と。
中国について、ふたつの中国でいいんじゃないか、とトランプは言った。これはいい加減。よく知らないで発言した。でも、イスラエルについては知ったうえで、信念を持って発言していた。確信を持っている。
【注1】ウィキペディア「クリスチャン・シオニズム」
「クリスチャン・シオニズム」
【注2】「トランプ米大統領就任演説(全文)」(毎日新聞デジタル版 2017年1月22日)
「トランプ米大統領就任演説(全文)」
【注3】前掲記事。
□佐藤優・監修『地政学から読み解く米中露の戦略』の「第1章 地政学から読み解く米国の戦略」の「わかる人だけにはわかる、トランプ大統領の“犬笛” ~もうひとつの信念は「イスラエル中心主義」~」
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【参考】
「【佐藤優】トランプを理解するカギ ~彼の信仰、カルヴァン派~」
「【佐藤優】×宮家邦彦/北朝鮮の核問題、ICBM問題にどう向き合うか」