旅と酒とバッグに文庫本

人生3分の2が過ぎた。気持ちだけは若い...

カブの旅~四国へ1000キロ~ その5

2010年08月26日 | 

8月6日 晴れ。
朝5時起床。身支度をしてすぐにホテルのロビーというほどでもないロビーに出て、四国の情報誌を見る。
讃岐はうどん屋だらけだ。溜池も多い。
うどんと溜池の相関関係はわからないが、地図をみると一目でそれらが多いのがわかる。

食堂は6時半からというので、受付のお姉さんとしばらく喋る。
この人、カミさんの妹にそっくりなので、なんとなく親近感を覚える。
時間になると狭い食堂はすぐに一杯になる。
ホテルに泊まるといつも思うことだが、朝食時になると、こんなホテルに、こんなにも大勢の人が泊まっていたんだと感心する。
全員が作業服を着た工事関係の連中である。
バイキングとは名ばかりの朝食で、選ぶ術がなく全員が同じものをトレーに乗せる。
すなわちご飯、味噌汁、海苔、漬物、マカロニサラダ、生卵あとはコーヒーとオレンジジュースがあるだけなのだ。
普段の旅行なら、文句の一つも言ってやるところだが、貧乏旅の私にとっては
大変貴重な和食なのである。
一通り全部のものを食し、コーヒーとジュースを飲みながら他の客を観察していると
年配の親父さんが、「お前ら、ちっとは食べんと身体がもたんぞ!今日も滅茶苦茶暑いからな。近頃の若いもんは朝は、まったく食わんなあ~」
とボヤいている。
若い工事のお兄ちゃんたちは、歳の頃20~23,4歳くらいだろうか
テレビを見ながらヘラヘラと笑って
「AKB48っていいよね~、俺久しぶりにCDを買ったよ、あの娘らの…」
「あっ、いいよね~俺も大好きだ。」
「ったく、てめえらテレビ見る暇があったら、飯をくえっつうの!」
と、相変わらず親父が言う。
そんなやりとりが何となく微笑ましくてついその親父に
「どこも一緒、家の息子なんかも、たまに帰ってきても全く食わないね~」
と応じると、「そうなんですよ、こいつら昼間いつも、座り込んでやがるんだから。」
「工場内のお仕事ですか?暑くて大変でしょう。」
「まあ、わたしら慣れてますからいいんだけど、大変ちゃ大変ですなあ~」
気のいい連中である。
しばらく会話し、みんなで一緒にごちそうさまをして食堂を出る。

受付のお姉さんに、讃岐で一番お勧めのうどん屋について尋ねるが
地元の人は案外知らないものである。
再度情報誌を見ながら、村上春樹が讃岐のうどん紀行文を書いたものを思い出し
そういえば確か「なかむら」という農家のうどん屋さんがあったはずだと
受付のお姉さんにネットで調べてもらうと確かにあった。
坂出の近くで、客がネギが無いというと店の親父が
「裏の畑に生えちょるから、自分で刻んでいれろ」と言ったという伝説のうどん屋「なかむら」である。
「よし、ここに決めた」もう1軒、高松方面にもテレビによく出る名物お婆ちゃんの店もあるみたいだが、なんとなく気骨のありそうな「なかむら」にした。
それに高松はちと遠すぎる。

7時半にホテルを出る。
カブの距離計は「17296」、500キロ以上走ったことになる。
出発して四国中央市に入ったところで道の駅があった。
「なんだ、こんなことなら昨日もう少し走ってみればよかった。」と思う。
道の駅といえども食べ物関係はたいてい5時過ぎると閉店してしまうところが多い。
それでもちょっとしたテントを張る場所は必ずあるのだ。
それにトイレはずっと開いているし、水道も使えるので助かる。
国道がすぐ横を走っているから五月蝿そうだが、目の前は海でもあった。
食べ物はパンを買っていたのだ。
まあ、ホテルの部屋でぐっすり眠って気力が回復したし、仕方あるまいと自分を慰める。

10時半近くになって、「なかむら」に到着。
ホテルのお姉さんがプリントアウトしてくれた地図はわかりやすかった。
丸亀大橋の土器川沿いに南にしばらく走ると、「なかむら」の看板が突然現れる。
朝飯を食ったばかりだし、まだ昼前なのでちょっと躊躇ったが
私は「なかむら」の暖簾をくぐった。
朝10時過ぎだというのに駐車場は車で一杯で、客がひっきりなしである。
半分以上が観光客のようで、みんな写真を撮ってからの入店である。
機械的に「なんにしますか?」との声。流れ作業なのだ。
ちょっと考えて、暑いので冷たいぶっかけうどん玉子入りにする。
普段なら麺好きなので迷わず大盛りだが、時間的、経済的理由で「小」にする。
店は村上春樹が書いたような田んぼの1軒家でおんぼろではなく
きれいに改築され、店もエアコンが入り、殆どの人が外ではなく、冷房の効いた店内で食べていた。
ずいぶん儲かっているようだ。
そうだ、このうどん屋の伝説を書いたのは、村上春樹ではなく椎名誠ではなかったか?
春樹が讃岐のうどんを食べて廻ったのは、そんなに前ではなく
椎名が訪れたのがかなり以前のことだったかもしれない。
確かに春樹も暑いのにみな外で大汗かきながら食していたと書いたのを読んだ記憶はあったが…。
私は冷たいうどんをエアコンの効いた屋内で大汗掻くこともなく食べた。
確かに麺は美味い。
讃岐独特の麺の異常な硬さがそれほどでもなく、腰があって喉越しも良い。
「うむっ、さすがだな~」と感心はしたものの、いまひとつの感じが否めない。
私は冷たいうどんを頼んだのに、麺はそれほど冷えていない。
出汁も熱くはないが、冷えてはいない。
それに味がなんとなく薄い。
まるで昔、田舎のお婆ちゃんがソーメンを食べる時に作ってくれた出がらしのようにパンチのない出汁にそっくりなのだ。
生卵も熱くない薄い出汁のなかでは、ちょっと手持ち無沙汰気味である。
「うむっ、注文を間違えたようだ。熱いうどん天婦羅入りか生醤油ぶっかけ玉子入りというやつにすれば良かったか?」
もう1回注文してみようと思ったが、これから先、まだうどん屋は腐るほどありそうなので、他のうどん屋も試してみることにして
伝説のうどん屋「なかむら」を跡にした。

国道11号線を少しばかり戻り、319号線に出て琴平町を目指す。
吉野川を次のキャンプ地にするべく、その途中にかなり俗っぽい「こんぴらさん」があるので、ひとつ旅の思い出に寄ってみようと思った次第である。
「こんぴらさん」の参道に入ると、途端に観光ホテルが乱立し、例によって土産物屋の呼び込みが激しくなる。

そんな声を無視して、車は通行禁止なのだがバイクは入れるとかで
私はズンズンとかの有名な心臓破りの階段近くまでバイクで入る。
「バイク停めていいですよ~、お蕎麦でも食べてください~」とお店の方の呼び込み。
さっきうどんを食ったばかりである。
「うむっ、なんか食わねばバイクは停められんなあ~」
と、とある老舗風の店先で「灸饅とお抹茶のセット¥400」。
灸饅とはなんじゃらほいとの好奇心と久しぶりの抹茶の魅力に惹かれ
店先にバイクを停め、「灸饅と抹茶セット」を注文をする。
何のことはない、博多の「千鳥饅頭」とまったく同じ味の饅頭である。
ただその形が「お灸」のモグサの形にそっくりなのである。
他に冷たい羊羹が付いていたが、こちらのほうが美味く、お抹茶との相性もぴったしで、ちょっとしたティータイムになった。
店内は扇風機のみなのだが、旧家風の店舗内は涼しく、居心地が良くて、つい長居してしまった。
時折入ってくる参拝帰りの客は一様に大汗を掻き、夏に来るんじゃなかったと反省の弁を述べるのを聞いているうちに
「そうか、ほんなら私も涼しい秋に来ることにしよう」といとも簡単に「こんぴらさん」参拝を諦めてしまった。
まあ、初めからどうでもよかったんで…。


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2 コメント

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超楽しそう!! (ななまま)
2010-08-27 21:10:37
私はカブ派ではないので、車で回りたいと思うけど、いい!!実に素敵な旅で楽しさが文章から伝わってくるし、いしやんさんの笑顔がずっと浮かんでます。留守番している奥さんのゆ~~~っくりとテレビを見ている姿を想像しちゃいますね
私もいつかこんな日が来るように!!今 がんばります。夏休みももうすぐ終わって子供たちは運動会の練習!!元気な体作りがいまの私の仕事!!
最近めっきり涼しくなって過ごしやすいですね。今年はせみの鳴き声も少なくて、猛暑とは感じなかった私です。
またブログのぞきにきますね。

アメリカのななさんは、毎日充実してるようです。すっごくアメリカ生活を楽しんでいました。さすがななさん。 2年後が楽しみです
ななままさんへ (いしやん)
2010-08-28 14:04:05
そちらも元気そうで、子供3人連れて鳥取まで里帰りするのは、大変じゃろうに…。
本当はそちら方面に行って、立ち寄ろうと思っとたんじゃが…
行くならカニのシーズンの方が良いかと…サンキュウ。
アメリカのななも元気かいな?
少なくとも僕の廻りには4人の「なな」が居る。
姪っ子のなな、そちらのなな、アメリカのなな、そして御大のなな。
御大の方はとんと連絡がないが元気なんじゃろうか?

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