WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

土曜日の夜

2009年01月19日 | 今日の一枚(S-T)

◎今日の一枚 220◎

Tom Waits

The heart Of Saturday Night

Scan10009

 妻は仕事で泊りがけの出張だ。介護中の妻の母も今夜はショート・ステイ。子どもたちもどういう訳か今日ははやく眠りについた。そんなわけで、今日は家でひとりじっくり飲む酒だ。そんな酒は、妙に回りが速い。まるで、「土曜日の夜」だ。

 頭の中は、先週の土曜日にあった、HCを務める高校女子バスケットボールチームの県大会の試合のことだ。少人数の弱小チームで故障者を抱え、棄権も考えたが、結局何とか出場することができた。最後の一週間、選手たちの動きはしだいに良くなり、調子を上げていったのだ。とはいっても、客観的にみれば、最悪の状態から、調子が上向いたといった程度なのだが……。結果は、相手チームに111点を献上する惨敗だった。相手は都会の強豪チームなので敗戦は仕方ないとしても、問題はチームの持ち味のディフェンスが機能しなかったことだ。相手がうまい以上に我々のディフェンスがだめだった。故障者の起用方法を考えすぎるあまり受身にまわってしまった私の態度を選手たちが敏感に感じ取り、本来の積極的なディフェンスができなかったのだ。スポーツの指導とは難しいものだ。言葉でどういおうとも、選手たちはそのニュアンスを敏感に感じ取り、微妙にプレーに影響するのだ。4Qのはじまる前、選手たちに私の戦術の失敗を謝り、初心に返って「ディフェンス・リバウンド・ルーズボール」のバスケットボールをしよう。我々はそれで勝ちあがってきたのだから……」と語りかけた。勝敗はすでに決し、相手は控えの選手を投入した時間帯だったが、最後の10分間、私のチームの選手たちは、コートいっぱい走り回り、懸命にボールを追いかけ、自分たちのバスケットボールを示してくれた。

    ※   ※    ※

 酔いどれ詩人トム・ウェイツの人気を決定付けたセカンドアルバム『土曜日の夜』、1974年作品だ。私のような単純な男が、ひとり酔っ払って聴くにはぴったりのアルバムである。本当に酔っ払っているようなしゃがれた声で歌われるメロディーたちには、人生のさみしさやせつなさが漂い、それでいてどこかやさしい温かさがある。全編に流れるスウィング感、印象的なピアノの響き、哀愁の管楽器、そしてトム・ウェイツの味のある歌声。よくできた作品である。私はこういうのが結構好きだ。今日はもう2回もとおして聴いている。どれも素晴らしい佳曲ぞろいだが、やはりミーハーな私は、⑧ Please Call Me Baby に涙だ。説明不能な何かが心にグッと迫ってくる。身体はリズムと同化し、心はメロディーと解け合う。このようなことを「感動」と呼ぶのかも知れないが、私はそんな言葉では表現したくない。そう表現することによって、それは「感動」でしかなくなるからだ。

 ひとり酒を飲みながらトム・ウェイツを聴くなんて、いわば「クサい」話だ。ステレオタイプでありきたりの、できの悪い絵に描いたような情景である。けれど、人間はそういった「物語」を必要とすることもあるのだ。壊れそうな自分自身を支えるために……。