WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

不遇の才人

2009年01月14日 | 今日の一枚(O-P)

◎今日の一枚 218◎

Phineas Newborn Jr.

The Great Jazz Piano

Scan10006

 「ニューボーンは、不遇の才人である。アート・テイタムに肉薄する技巧をもちながら神経障害、あるいは生活上の痛手から、何度となく入退院を繰り返し、ピアノを演奏しているよりも、姿を隠している期間の方が長い何とも不幸なピアニストだ。」(油井正一『ジャズ・ピアノ・ベスト・レコード・コレクション』新潮文庫:1989)

 可愛そうな人だったのですね。有名な人だが、フィニアス・ニューボーンJr. という人は聴いたことがなかった。「不遇の才人」、フィニアス・ニューボーン Jr. の1961年録音作品、『ザ・グレイト・ジャズ・ピアノ』。もう閉鎖されてしまったブログ『ジャズ喫茶道』で紹介されてから、その印象的なジャケットがずっと気になっていたのだ。購入したのはほんの数ヶ月前である。悪い作品ではない。それなりに楽しめる。ただし、《 アート・テイタムの生まれ変わり 》という評価があるのはどうだろう。アート・テイタムの死後、デビュー作を発表したことから、そういわれたらしいが、それほどだろうか。そもそも、アート・テイタムは私の大好きなピアニストのひとりなのだ。軽々しいことはいわないでもらいたい。

 確かにバップ期のピアニストとしてはテクニシャンだったのだろう。けれど、わかりやすいアルバムなのに、今ひとつ、心が躍らないのは何故だろうか。きっと、根本的には真面目で優秀な人だったのだろう。指使いは流麗で、テクニシャンであることはよくわかるのだが、音楽を奏でることの喜びが今ひとつ伝わってこない。何というか、迫力に欠けるのだ。躍動感がないのは、録音が悪いせいだろうか。あるいは、サイドメンがイマイチのせいだろうか。

 否定的なことばかり書いてしまったが、私は結構好きだ。事実、CDプレーヤーのトレイに乗ることも少なくはないのだ。ただ、尊敬あるいは崇拝するアート・テイタムと比べられることにはちょっと我慢ならない。まあ、アルバム・ジャケットはいいのだが……。

 自分の大切なものを卑しめられると、人間はちょっとヒステリックになってしまうものらしい。