WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ファイアー・ワルツが耳から離れない

2009年01月10日 | 今日の一枚(M-N)

◎今日の一枚 214◎

Mal Waldron

The Quest

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 今日は休日であるが、HCを務める高校女子バスケットボール部の練習につきあった。出かける前にたまたま聴いたマル・ウォルドロン『ザ・クエスト』の最後の曲「ファイアー・ワルツ」が耳から離れず、練習を見ていてもずっとあの独特のリズムと節回しが頭の中で鳴り響いている有様だった。

 1961年録音の『ザ・クエスト』。好きなアルバムである。1週間後にファイブスポットであの歴史的な録音を残すことになるマル・ウォルドロンとエリック・ドルフィーが、それに先駆けて行ったセッションである。マルについては、ずっと以前に書いたように、その晩年の演奏を至近距離で体験したことがある。本当にかっこよかった。以来、マルの作品を聴くと、そのときの情景が頭に浮かんでどうしようもない。恐らくは、一生そのイメージを背負って生きていくことになりそうだ。実際、若い時代のこの作品においても、そのソロパートにおいてマルのピアノの個性は十分に表れており、目をつぶると、私が見たライブの情景が今でもありありと浮かんでくる。

 ところで、何といってもドルフィーである。この作品においても彼の存在感はとてつもなく大きい。彼のヘンテコな音楽の何が私を惹きつけるのか、うまく説明できないのだが、とにかく私はなんとなく好きなのである。しいて言えば、そのヘンテコな雰囲気に惹きつけられるとでもいおうか。難しい理論上のことや彼がjazz史にもたらした革新的なことがらなどは書物で読んだこと以外は正直よくわからないのだが、彼が創り出す音楽世界の雰囲気がすごく好きなのだ。ドルフィーの音楽の何が自分を惹きつけるのか。少々理屈っぽい私は、それをきちんと説明したいという欲望を抑えきれない。しかし、今は「説明できない」ということに耐え続けよう。人は心をゆすぶられるような不安定な状態を抜け出すべく、言葉によって説明し、心を安定させようとするのだから……。ドルフィーの音楽を言葉で説明した時、その音楽がもたらす「感動」ももしかしたら消え去ってしまうのかも知れない。

 ドルフィーを熱狂的に聴いたことはない。しかし、どんな時でもずっと好きだった。なんとなく好きなのだが、それは確かなものだ。

 


ディフェンス・リバウンド・ルーズボール

2009年01月10日 | 籠球

 約1年間更新できなかった理由の1つは、HCを務める女子バスケットボール部に入れ込んだことだ。

 ずっと以前にも記したことがあるが、我々のチームは2年生8人しかいない弱小チームだ。しかも、そのうち1人はマネージャーで、1年生はひとりもいない。昨年の夏に1年生がひとり入部してくれたのだが、結局4日間しかもたなかった。我々のチームの選手の多くは、中学時代いわゆる"弱いチーム"の出身で、補欠で試合にほとんど出たことのない者も約半数を占める。けれども、誠実で、教わったスキルを一生懸命実行しようとする人間性にはとても好感が持てる。何より、全員がバスケットボールが大好きであり、運動能力や技術的には劣っても、もっとうまくなりたいという気持ちに溢れている。私は、素直さやひたむきさというものも、身体能力や身長と同様重要な資質であり、才能なのだと考えている。我々のチームの合言葉は、《 ディフェンス・リバウンド・ルーズボール 》だ。不恰好でもとにかくボールに飛びつき、それを奪い取る泥臭いバスケットボールがモットーだ。走ることやシュートすることは誰でもできるが、ディフェンス・リバウンド・ルーズボールのようなプレーはそうはいかない。苦しい練習を地道に続けることが必要なのだ。そして、そこには選手たちの人間性が反映されるのだと考えている。

 春の高校総体地区予選ではそれまで勝てなかったチームをいくつか破る大健闘だったが、S高校に僅か3点差で破れ、惜しくも県大会への出場権を得ることができなかった。たったひとりの3年生を、部員不足で大会に出場できなかった時代にひとりで黙々と練習を続けた3年生を、県大会に連れて行くことができなかったのだ。チーム全員が顔の形が変わるほど大声で泣いた。しかも不運なことに、中心選手のひとりが、最後の試合中に膝半月板を痛め、チームとしては大打撃をこうむった。その時点では最も有望なプレーヤーだったのだ。それでも選手たちは向上心失わずに練習に取り組み、故障した選手もマネージャーの仕事を手伝うなどチームをサポートしながら懸命にリハビリを続けた。その姿を見て、何とかしないわけにはいかなかった。きれい事ではなく、彼女たちのために何かをしないわけにはいかなかったのだ。そんなわけで、何とか彼女たちにいい結果を残させてやれぬものかと、チームに多くの時間を捧げることになったのである。以来、多くのバスケットボール関係書や論文を読み、練習メニューを考え、戦術を練った。熱くなりやすい青二才のようにバスケットボールに入れ込んだ日々だった。こんなにバスケットボールを真剣に考えたのは何年ぶりだろうか。

 11月の新人大会地区予選、我々のチームはシード校を1点差で破り、3位で県大会出場権を獲得した。またしても、全員が大声で泣いた。しかし、2位を決めるS高校との最後の試合中、またしても中心選手が膝を痛めた。前十字じん帯断絶である。ディフェンスの要である彼女を失ったチームは結局その試合に僅差で破れ、3位にとどまった。彼女のケガは手術を必要とするもので、リハビリも含めて約10ヶ月かかるとのことで、事実上今年の春の高校総体出場も絶望的だ。あまりのショックで、彼女は学校を数日間休む始末だった。その彼女も現在は気を取り直し、マネージャーの補助をしてチームを助けている。

 来週は県大会だ。相手は県ベスト4・ベスト8常連の強豪だ。冬休み中の練習で、キャプテンが膝を故障し、また、もうひとりの中心選手も持病が悪化して、良い練習ができていない。本当に何かに取り付かれたように不運なことが続いている。キャプテンの膝の故障は幸い軽傷で済んだが、本調子ではない。持病をもつ選手は薬を服用しながらがんばっている。春に半月板を痛めた選手も復帰はしているが、まだまだ膝は本調子ではなく、なにより半年間のブランクで体力やボールに対する感覚に不安が残る。実際のところ、HCとしての私は、最悪の場合、棄権することも念頭においており、出場できた場合でも、勝ち負けよりいかに40分間無事にゲームを終えるかを考えている程だ。

 我々のチームは、試合の前、円陣を組んでこのように叫ぶ。

《 ディフェンス! リバウンド! ルーズボール! 》

 彼女たちのバスケットボールにかける思いを考えると、県大会に出場させ、県大会のコートで円陣を組んでこの言葉を言わせてやりたい。しかし、だからこそ、彼女たちのこれからを考え、鬼になって棄権という道を選択することも必要かも知れない。悩み多き一週間になりそうである。