おはようヘミングウェイ

インターネット時代の暗夜行路。一灯の前に道はない。足音の後に道ができる。

Once More At Tiffany's  ティファニーでもう一度

2024-05-07 | Weblog

DVDで観たのか、ビデオで観たのか、それともテレビの洋画劇場で観たのか、かつての記憶は定かではないが、1度か2度ほどは観たことがある「ティファニーで朝食を」に映画館の大画面でまみえることになった。スクリーン画面の迫力と音響の良さで、映画鑑賞をするには映画館が一番である。それ故、オードリー・ヘップバーン出演の名作の1つである、この作品をスクリーンで観たいと常々想っていた。その機会がコロナ禍が過ぎて巡ってきた。

デジタルで甦る永遠の名作の誘い文句がある「午前十時の映画祭14」の作品の中に選ばれ上映されていた。午前十時としているが、上映時間は全国の各映画館が自由に決めることができ、平日の夕方に鑑賞することができた。手の指10本に納まるぐらいの少数の観客のため、広々とした環境でゆったりとした気分となる。灯りが落ちて映画の世界へ。

冒頭の場面が印象的である。と言うより、全場面の中で最高の場面である。ニューヨーク5番街の早朝、大きなイエローキャブが広い通りを走って来て、ティファニーの前で停車する。黒いロングドレスに黒いサングラス姿のオードリーが降りてきて、ティファニーの飾り窓を眺めながら、手にした紙袋からクロワッサンを取り出してひとかじり。オードリーをはじめ、画面のすべてが絵になる。

ティファニーの画像に重なるようにムーンリバーの音楽が流れて、大都会ニューヨークで暮らす粋でおしゃれな姿が描かれる。しかしながら、華麗な姿は虚飾に彩られ、偽りの暮らしから抜け出すために金持ちの男との結婚を夢みるのがオードリーである。同じアパートの真上の階に引っ越してきた小説家を目指す男性と恋人未満の何でも話し合える仲となる。その男性も金持ちの有閑婦人に囲われる身という不本意な日々を過ごす境遇。大都会の仲で虚飾の女と不本意な男が出会い、自らの気持ちに正直に生きることに気づく。犬猫好きの身としては、オードリーが飼う名もなき猫が2人を取り持つのも作品への好感度を高めてくれる。

舞台の1つとなるティファニーを訪れたことがある。1階のフロア―で贈り物用にハートのペンダントを買った。学校を出て入社したてという感じの若い女性が店員として応対してくれた。高級宝石店といういかめしさを感じさせない店内の雰囲気と、初々しさと笑顔が美しかった店員の好印象が今でも心の中に刻み込まれている。映画の原作となる小説を書いたのがトルーマン・カポーティ。ティファニーと朝食を結び付けた風変りな題名。この卓越した感性、感覚の妙―誰もそんな発想をしないことをあえて発想する―に感心する。題名だけでも映画1本分に相当する作品になっている。生きているうちに1度は観ておくべき作品である。できれば大画面の映画館で。

YouTubeで冒頭の場面とムーンリバーを味わうことができる。あまたの映画作品の中で、これほどしゃれて粋で、優美な場面はないのでは。この役柄はマリリン・モンローでもエリザベス・テイラーでも似合わない。オードリーならではの作品とのマリアージュだ。

 

作品を見終えて映画館を後にする観客たち。後味の良さを感じながら、閑散とした空間を歩いて帰るのもなかなかいいもんだ。

 

ティファニーの新聞広告。卓越した職人技と感性豊かな芸術家の発想。そんな香りを感じさせる宝飾品であることが紙面から伝わって来る。

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