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中国、「ピンチ」IMFが2800億ドルの銀行資本増強「警告」

2017-12-18 17:36:10 | 日記

勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。

2017-12-15 05:00:00

中国、「ピンチ」IMFが2800億ドルの銀行資本増強「警告」

習氏が金融重大リスク認識

金融界に的絞り腐敗を摘発

IMF痺れ切らし立上がる

 中国政府は、バブルの火が燃えさかっていたとき、水をかけるのでなくガソリンを撒いていた。

そんな形容がぴったりする経済政策である。

来年度は、この総決算を迫られる事態になっている。

12月8日、中央政治局は習氏を議長にし、経済政策の分析・研究会議を開催した。

その結論の第一順位に、ようやく金融リスク防止が上がった。

IMFも2800億ドルもの銀行資本増強を迫っている。四面楚歌だ。

世界中が、中国の金融崩壊を懸念している。

政策当局はこれまで、口先でいろいろ言うものの、なんら実行策を取らずにきた。

先の19回党大会前は、経済減速状態が政争の具になることを嫌い、従来通りの野放図な政策を続けた。無責任きわまりない。独裁政権ゆえの行動と言える。

 習氏が金融重大リスク認識

『人民網』(12月9日付)は、「中央政治局による2018年度経済政策の分析・研究会議」と題する、地味なタイトルの記事を掲載した。

 この記事を読むと18年度の経済運営では、インフラ投資によるGDP押上げ策が消えるようだ。

従来のインフラ投資は、財政資金を主体にするのでなく、国有企業の債務行為による巧妙な形を取ってきた。

それも債務急増で限界にぶつかった。もはや、GDPだけに目がくらんだ経済政策が不可能になったことを自覚してきた。

 (1)「中共中央政治局は、2018年度の経済政策を分析・研究する会議を開き、習近平総書記が議長を務めた。

同会議では安定を維持しながら前進する政策を基調とした国家統治の重要原則を強調し、長期にわたり堅持していくとした。

また、高い品質の発展を推し進める現在と将来の一定期間における発展のアプローチを決め、経済政策を制定し、マクロコントロールの根本的な要求を実施。

しっかりとした認識と、全面的な理解、真の意味での徹底を図らなければならないとした」

 今回の決定は、「長期にわたり堅持していく」としている。

具体的な政策目標は、次のパラグラフで指摘されている。

この政策目標は、「高い品質の発展を推し進める」「マクロコントロールの根本的な要求を実施」「しっかりとした認識と全面的な理解」と言っている。

この「中国共産党語」を翻訳すると次のようになろう。

 高い経済成長率目標を掲げず、安定した経済成長を目指す。

地方政府にこの方針をしっかりと理解させ、水増しのGDP統計を出させない。

マクロコントロールとして、通貨発行を安易なものにせず、しっかりと手綱を締めてゆく。

こういう「殊勝な」ことを言っているのだ。まさに、総懺悔の感じである。

 (2)「統一的な計画と秩序ある推進を行い、

①金融の重大リスク、

②貧困対策、

③環境改善という三大難関の突破に確実に勝利しなければならない。

重大リスクの予防と解消には、マクロレバレッジ比率の有効なコントロールを行う必要があり、金融サービスの実体経済の能力を増強させ、リスク予防の活動において、積極的な効果を得なければならない」

 

三大難関として次のテーマが上がっている。

①  金融の重大リスク

②  貧困対策

③  環境改善

 

いずれも手遅れのものばかりである。

崖っぷちに立たされているが、なぜここまで放置してきたのか。

中国人社会は、物事の本質を理解することが苦手である。

これは、論理的な思考能力が欠如している結果であろう。

マックス・ベーバー流に言えば、「合理的な経済計算」ができない民族と言える。

市場経済には、もっとも不向きな国家だ。統制経済しか通用しないという大きな制約がかかっている。

金融の重大リスクの解決策として、デレバレッジ(債務削減)の厳格化に力を入れる。

その手始めに、後で取り上げるように、金融業界の監視を強める。

金融サービスも、現在は野放図である。

インターネットを通じた資金貸借が広く普及しているが、返済が困難になる事故も起こっている。

正規の金融ルートか外れたヤミ金融が、大手を振っている現実は異常というほかない。当局の監視が甘い結果だ。

 (3)「ターゲットを絞った貧困脱却は、特殊な貧困層にターゲットを絞り、支援を行う必要があり、深度貧困地区への集中的な支援をさらに進めなければならない。

貧困支援を志気向上支援や教育支援と結び付け、貧困層の内からの貧困脱却へのエネルギーを刺激することで、貧困支援の成果を強固にし、貧困脱却の質を向上させる」

 貧困対策の根本は、都市戸籍と農民戸籍の二分割にある。

この面の解決=撤廃がなければ、貧困対策は進むはずがない。

中国は実質的に、「二つの国家」から成っている。

都市住民と農民である。

農村に生まれたばかりに生涯、中国人としての受けるべき教育や社会福祉のサービスが受けられない。

このように、阻害されている事実を解消しない限り、貧困対策は空振りに終わるだろう。

だが、農民戸籍を撤廃して一本化すれば、中国経済が破綻する。

毛沢東による戸籍分割の便法が、ここまで中国の宿痾としてのしかかっている。

GDPだけを追求して、農民戸籍を解消せずに利用してきた。

これが、貧困問題の根っこにある。

 (4)「汚染の予防と抑制は主に汚染物質の排出総量を引き続きしっかりと減少させていくことで、生態環境の質を全体的に改善していく。

さらに、それぞれの活動を協力して推進していくのと同時に、重要な活動をしっかりととらえて進め、はっきりとした成果を得なければならないとした」

 汚染の予防も、「今さら何を言っているのか」というのが実感だ。

数年前、北京の駐中米大使館が、北京の大気汚染濃度を発表した。

これに対して中国政府は、「内政干渉」だと言って猛反発したほど。

中国は、この程度の環境への認識であった。

米大使館の反論は、「駐米中国大使館も米国の大気汚染濃度を測定した発表する権利がある」と言われてギャフン。

大恥をかかされた。中国が、大気汚染に真面目に対応し始めたのはこの後である。

 中国政府の上層部は、常食に無農薬の食材を使用している。

彼らは、大気汚染でも有害物質を除外する設備の整った場所で、執務し生活しているのだろう。

こういう特別待遇が、環境破棄への対策の出足を鈍らせたにちがいない。共産党幹部は特権階級である。庶民の苦しみとは無縁の存在である。

 金融界に的絞り腐敗摘発

『ロイター』(12月7日付)は、「中国金融界に緊張走る、腐敗追及の急先鋒が当局幹部に」と題する記事を掲載した。

 銀監会とは、2003年に発足した中国銀行業監督管理委員会である。

中国国内の銀行、金融資産管理会社、投資信託会社など金融機関の統一的な監督・管理を行う。中国人民銀行は、金融政策の責任を担う。

銀監会は、銀行業全般の管理監督が任務だ。日本で言えば、金融庁と言える。

 この銀監会では、8月に元高官が反金融腐敗で逮捕されている。

銀行業の管理監督だけに、業界側が何かと便宜を受けたくて賄賂攻勢をかけられるポジションだ。

そこへ、反腐敗運動で活躍していた周亮氏の起用である。

王岐山氏の秘書を20年も務めてきた人物とされる。金融界のもたれ合いを一掃すると期待がかかる。

 (5)「中国銀行業監督管理委員会(銀監会)は12月7日、周亮氏を11月に副主席に指名していたことを明らかにした。

反腐敗運動で活躍していた周氏の起用で、銀監会や他の当局による金融機関への締め付けが一層強まる公算が大きい。

経歴を見ると周氏は、習近平指導部が進める反腐敗運動を指揮する中央規律検査委員会(CCDI)の出身だ。

だが、恐らく単にそれだけの存在ではない。

報道によると周氏は、習国家主席の腹心で反腐敗運動の先頭に立った王岐山前書記の秘書を、中国南部の広東省に始まり海南省、北京、規律検査委員会まで約20年間にわたって務めていた」

 周亮氏は、11月に銀監会の副主席に指名されていたことを明らかになった。

後のパラグラフにあるとおり、現首席の郭樹清氏が来年春に人民銀行総裁へ就任すれば、その後任に周氏が就くと見られている。

要するに、周氏は次期銀監会の主席含みである。王岐山前書記の秘書を20年も務めたやり手の人物だ。銀行業に巣くう不明朗な動きを一掃する気構えが見られる。

 (6)「今回の人事の裏には王氏の影響力があることは間違いなさそうだ。

現在の銀監会の郭樹清主席が大方の予想通りに次期中国人民銀行(中央銀行)総裁に就任すれば、周氏が銀監会の主席の座に就く可能性もある。

王氏の腹心の1人が金融監督当局の職に就くのは驚くことではない。

反腐敗運動は王氏の任期終盤において、金融セクターを集中的に叩いていたからだ。

周氏はそうした取り組みの総仕上げにかかり、いずれは規制当局内で反腐敗運動を組織化しようともくろむだろう。

王氏は特に広東省時代の経験から、有力銀行やその擁護者となっている当局を積極的に狙い撃ちにする姿勢を示しているからだ」

 王岐山氏は反腐敗運動の任期終盤において、金融セクターを集中的に摘発していた。

その後を受けての銀監会主席へ昇格するだろう周氏が、有力銀行やその擁護者となっている当局を積極的に狙い撃ちにする可能性があるという。

これが現実となれば、中国の金融界は大掃除が行なわれる。

これを機に、金融界の正常化が進めば、「バブルマネー」の蛇口が閉められる。

 (7)「周氏の就任で、金融セクターの緊張がさらに高まりそうだ。

人民銀は金融詐欺根絶を主導的に進めており、銀監会は制度や執行面でそれを支えている。12月6日には、リスクの高い短期融資を避けるよう銀行に求める規制の草案を公表。

今年1~10月で1500近くの金融機関に対し、計6億6700万人民元(1億0100万ドル)もの罰金を課した。

王氏は、表向きは(中央政治局常務委の)身を引いたかもしれない。だが、銀行や投資家は彼の影響力は依然強いままだと覚悟すべきだろう」

 人民銀行総裁の周小川氏は、かつて不動産バブルがこれだけ広がった理由として、共産党幹部がバブルで利益を受けていたので金融引締め策を発動させなかった、と述懐していた。

中国という国は、自己の利益のために金融政策を曲げさせる。

そういう権力の濫用を行なう非常識な国なのだ。

そこへメスを入れるわけだが、これでデレバレッジが進むのかどうかだ。

「百年河清を俟(ま)つ」との諺もあるとおり、賄賂・汚職・不正が中国の「文化」である。

この悪弊が、一人の銀監会主席の交代で改まると思う方が甘いかも知れない。

中国の銀行には相当の不良債権という「膿」がたまっている。IMFから、これが銀行資本の毀損を招いていると指摘された。

 

IMF痺れを切らし立上がる

『ブルームバーグ』(12月8日付)は、「IMF、中国の銀行に資本増強勧告、2800億ドル不足の可能性」と題する記事を掲載した。

 中国発の金融ショックが懸念される現在、「火元」になりかねない中国の金融界が倒産という事態になれば、世界経済への影響は大きくなる。

IMFが今や、ここまで神経を使い始めた点に注目すべきであろう。

資本不足は2800億ドルにも及ぶというのだ。

仮に、こういう事態が起これば、中国政府が財政資金を投入してでも、信用不安の連鎖を絶たなければならない。

こういう不気味なデータが出てくると、周氏もデレバレッジに邁進せざるを得まい。

 (8)「国際通貨基金(IMF)は7日、中国の銀行は与信拡大ブーム後の景気の落ち込みに備えて資本バッファーを充実させるべきだと指摘した。

IMFは2011年以来となる中国の金融システムに関する包括的な評価で、『段階的かつ的を絞った銀行の資本増強』を勧告した。

最悪シナリオでは不良債権が膨らむとともに、中国の16年のGDPの2.5%に相当する約2800億ドル(約31兆4830億円)の資本が不足する可能性をストレステストが示唆した」

 銀行のストレステストとは、金融市場の不測の事態が生じた場合に備え、損失の回避策を予め準備するリスク管理手法である。

2008年のリーマン・ショック級の事態に備えて、銀行資本を手厚くするもの。

そのストレステストによれば、2800億ドルもの資本不足が浮上した。

これは、中国経済にとって重荷である。過去の放漫な経済運営のツケが一挙に押し寄せている。

 (9)「IMFがストレステストの対象とし、中国の銀行システム資産の約4分の3を占める33行のうち、27行が少なくとも1つの指標で資本不足とされた。

資産規模で世界最大手の中国工商銀行を筆頭とした4大銀行の資本は十分だと指摘したが、個別の都市に軸足を置いた銀行など規模が小さめの金融機関は『脆弱に見える』と分析した。

IMFは資本増強が必要な具体的な銀行名には言及していない」。

 資本不足が懸念されるのは、地方に経営基盤を置く銀行である。

地方政府と密接な関係を持っており、不動産バブルに関係する融資が多額を占めているにちがいない。

インフラ投資で、地方政府の負担した資金が、地方銀行融資であった可能性が大きい。

ともかく、バブル経済の総決算が迫ってきたのだ。習氏は、腹をくくってこの難関に立ち向かうしかない。

 (2017年12月15日)



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