★ムンバイテロの背景/田中宇の国際ニュース解説 2008年12月2日

2008-12-03 13:22:19 | 世界
11月27日に起きた、200人近くが殺されるインド現代史上最悪のテロ
事件となったムンバイでのテロは、襲撃対象の中に欧米や日本からの外国人客
や多く滞在する最高級ホテルや高級レストランが含まれていたことから、国際
的な大ニュースとなった。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/asia/article5251166.ece

 犯行に及んだテロリストは、パキスタンから船でやってきた、アルカイダ系
のイスラム原理主義者たちであると、インド政府が発表した。インドのヒンド
ゥ語のテレビ局は、反イスラム・反パキスタンの感情を扇動する放送を展開し
た。ヒンドゥ・ナショナリズムの野党・インド人民党(BJP)は、中道左派
の与党・国民会議派がイスラム教徒に対して寛容な政策を採ったのが間違いだ
ったと非難を展開し、インド軍をパキスタンに越境侵攻させ、パキスタンのテ
ロ組織を掃討せよと主張している。この事件は「インドの911事件」であり、
インドはパキスタンを相手に「テロ戦争」を開始する権利がある、という論調だ。
http://www.thenews.com.pk/daily_detail.asp?id=149923

 この事件について、これまで全く無名だった「デカン聖戦団」と名乗る組織
が犯行声明を出した。デカン高原はインド中央の地域名で、この名称からはイ
ンド国内の組織による犯行という感じがするが、国内のイスラム組織が犯人と
いうことになると、インドの人口の13%を占めるイスラム教徒と、80%を
占めるヒンドゥ教徒との対立が扇動されるうえ、政府による事前の予防策も不
十分だという批判が出る。インド政府は、矛先を外国に向けるため、パキスタ
ン犯人説を出さざるを得なかった。
http://www.stratfor.com/analysis/20081126_red_alert

 イスラム過激派の犯行だとすると、可能性があるのは、実体不明のアルカイ
ダではなく、ムンバイのイスラム系のマフィアを牛耳ってきたビジネスマン、
イブラヒム・ダウドが絡んだ犯行だ。ムンバイの裏社会では、90年代までヒ
ンドゥ系とイスラム系のマフィアが融和していたが、90年代半ばにヒンドゥ
系の内部でイスラム敵視を扇動する人民党の勢力が台頭し、裏社会の内部対立
がひどくなった。イスラム系勢力の親玉だったダウドはインドから逃げてドバ
イやパキスタンに潜伏するようになった。ダウドは80年代、ソ連によるアフ
ガニスタン占領と戦うイスラムゲリラ(ムジャヘディン)を支援した関係で、
米諜報機関CIAと、その傘下にあったパキスタンの諜報機関ISIとつなが
りが深い。
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/dec/01/comment-and-debate-misha
-glenny

 米軍は最近「タリバン掃討」の名目で、アフガニスタンからパキスタン国境
を越えて侵攻してくるため、パキスタン国内の反米感情が扇動され、パキスタ
ン政府は米国に頼れない状況になっている。このためパキスタン政府はインド
との関係改善を模索するようになり、パキスタン国内に匿っていたダウドを、
インド政府に引き渡すことを検討している。米CIAも、それを黙認しそうに
なっている。危機感を募らせたダウドは、配下の勢力を動かしてムンバイでテ
ロを挙行し、印パ間の関係を悪化させることで、自らの身柄がインドに引き渡
されることを防ごうとしている、という分析がある。
http://onlinejournal.com/artman/publish/article_4068.shtml

 テロの標的にされた場所の一つに、イスラエル系のユダヤセンター「チャバ
ドハウス」(ナリマンハウス)がある。チャバドハウスは、世界の71カ国に
拠点を持つユダヤ人旅行者のための休息施設のネットワークだが、イスラエル
の諜報機関による麻薬販売や資金洗浄の拠点としても使われ、80年代末には
米国でチャバドハウスの関係者が検挙されている。
http://www.centurychina.com/plaboard/posts/3827466.shtml

 ムンバイのチャバドハウスは資金洗浄ばかりでなく、カシミールのヒンドゥ
系民兵を軍事訓練してイスラム勢力と戦わせるイスラエル軍の諜報作戦を進め
る際の拠点にもなってきた。今回のテロがイスラム過激派による犯行なら、チ
ャバドハウスが攻撃されたのは、ここがカシミールに反イスラムの立場で介入
するイスラエルの拠点になっていたからとも考えられる。
http://onlinejournal.com/artman/publish/article_4075.shtml

▼ヒンドゥ過激派による「なりすまし」テロ

 世界のマスコミの報道傾向は、インド国内の組織にせよ、パキスタンの組織
にせよ、いずれにしてもイスラム過激派が犯人だというものだ。しかしその一
方で、これらとは全く異なる疑惑も浮上している。インド国内のヒンドゥ過激
派の組織が、インド軍の諜報機関など治安当局の一部とぐるになって、イスラ
ム教徒のふりをしてテロを挙行したのではないかという疑惑である。

 ムンバイから300キロほど離れた、マハラシュトラ州マレガウンというイ
スラム教徒が多い町で今年9月、爆弾テロ事件があったが、捜査当局の調べで、
この事件は実はヒンドゥ過激派組織が犯人であり、彼らはイスラム過激派がや
ったようにみせかけて爆破テロを挙行したことがわかっている。昨年には、イ
ンドとパキスタンを結ぶ友好列車が爆弾テロに襲われて68人が殺されたが、
この事件も同様に、イスラム過激派を装ったヒンドゥ過激派の犯行だったこと
がわかった。
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/world-news/india-uncovers-hindu-terro
r-group-that-carried-out-bombings-blamed-on-islamists-14076306.html

 これらの「なりすましテロ事件」に関し、捜査当局はヒンドゥ過激派の関係
者を逮捕したが、その中にはインド軍の軍人も混じっていた。ヒンドゥ過激派
の多くは、ヒンドゥ・ナショナリズムを掲げるインド人民党とつながっている。
人民党は、今は野党だが90年代中ごろには政権をとっており、国民会議派と
並ぶ政界の大勢力で、軍やマスコミにも大きな影響力を持っている。ヒンドゥ
・ナショナリズムを支持する人々は、インドの軍や警察、諜報機関、政財界、
マスコミなどに網の目のように入り込み、ここ10年ほど、インドの世論を反
イスラム・反パキスタンの方向に誘導している。

 インド当局内で、ヒンドゥ過激派がイスラム教組織のふりをしてテロをやっ
ている件についての捜査を指揮していたのは、捜査当局内のテロ対策担当組織
のトップをつとめていたヘマント・カルカレ(Hemant Karkare)だったが、彼
は今回のムンバイでのテロ事件の際、現場指揮をしている最中に狙撃され、死
亡した。公式には、カルカレを狙撃したのはテロ実行犯ということになってい
るが、当局内には、カルカレを殺すべきだと思っていたヒンドゥ・ナショナリ
ズム勢力がいたはずだから、内部犯行の可能性もある。
http://www.ahmedquraishi.com/latest_col.php?id=78

 当局とテロリストの結託を疑わせる証言もある。今回の事件では、ムンバイ
のターミナル駅も襲撃された。駅の前に会社がある新聞社ムンバイ・ミラー紙
のカメラマンが、襲撃直後に駅に潜り込み、テロ実行犯の写真を撮った。その
際、カメラマンは、駅の構内のあちこちに武装警官が隠れているのを見つけた
が、警官たちは誰も犯人たちに向かって発砲しなかった。犯人は武装していた
が警戒感が薄く、カメラマンは近くにいた警官たちに「今なら犯人を射殺でき
る。撃つべきだ」と言ったが、警官たちは撃たなかった。その間に犯人たちは、
駅に居合わせた一般市民たちを次々に射殺した。(カメラマンに話を聞いた英
インディペンデント紙の報道)
http://www.independent.co.uk/news/world/asia/armed-police-would-not-fire-bac
k-ndash-i-wish-id-had-a-gun-not-a-camera-1040238.html

 ターミナル駅で撮影されたテロ実行犯の写真が公開されているが、写真では、
犯人が右腕の手首にオレンジ色のリストバンド(布製の腕輪)をつけている。
このリストバンドは、ヒンドゥ・ナショナリストの若者たちが強運を祈ってつ
けているものと同じだという指摘がある。犯人はイスラム過激派ではなく、イ
スラム過激派のふりをしたヒンドゥ・ナショナリストだという主張が、イスラ
ム教徒の側から出ている。
http://zeemax-contrariancomment.blogspot.com/2008/11/orange-wristband-questi
on-ii-amar-singh.html

▼イスラエルの影

 誰が犯人であるにせよ、このテロ事件の犯人についてもう一つ感じられるの
は、米英イスラエルが被害者だという構図を意図的に作っていることである。
チャバドハウスが襲撃され、イスラエル人が殺された。また犯人たちは高級ホ
テルを襲撃し、ロビーに居合わせた外国人客に対して旅券を見せるよう求め、
英米国籍の外国人を探して人質にしようとしたとも報じられている。
http://www.prisonplanet.com/mumbai-attacks-blamed-on-al-qaeda-as-pretext-for
-us-military-response.html

 実際には、200人近い死者のほとんどはインド人であり、外国人は20人
程度である。米英マスコミは「犯人はアルカイダ」「パキスタンから船で乗り
つけた」と、犯人像を確定した上で「英米イスラエル人を狙った犯行」という
雰囲気を醸し出している。イラク戦争の失敗によって落ち目になった「テロ戦
争」(テロ対策を口実に、米英イスラエルが世界支配を再強化する「第2冷戦」
的な長期戦略)を立て直す意図を、軍産複合体の一部である米英マスコミが持
っているかのようである。

 今回のテロの結果、インドとパキスタンが再び戦争になった場合、インド国
内で最も得をするのはヒンドゥ・ナショナリズムの政党インド人民党であるが、
反イスラムの人民党は「テロ戦争」の構図にぴったり当てはまる。インド有権
者の反イスラム感情を煽って政権を狙う戦略は、イスラエル有権者の反アラブ
感情を煽って政権を狙ってきたイスラエルの右派政党リクードのやり方に似て
いる。右派の若者に軍事訓練を施してイスラム教徒と喧嘩させる手法や、政財
官界や軍、マスコミの中に入り込んで影響力を拡大するやり方も、人民党とリ
クードで同じだ。

 イスラエル軍の諜報機関のリクード右派勢力が、インド軍の諜報機関の人民
党支持勢力から、イスラム教徒の敵意を扇動する技能や、政府内やマスコミで
の影響力を拡大する技能を吹き込まれても不思議ではない。両国の軍は、いず
れも英国系である。英国の諜報機関も、イスラム世界を相手とした恒久テロ戦
争によって米英中心の世界体制を維持する目的で、イスラエルやインドの諜報
機関内の右派勢力と組むことがプラスになる。米国の軍産複合体も、同様だ。

 2001年に911事件が起きる直前、インドとイスラエルの諜報機関が新
組織を作り、パキスタンに入り込んでテロ活動を行い、パキスタンを混乱させ
る作戦を開始したとも報じられている。
http://www.iraq-war.ru/article/182344

 人民党は、政権をとった直後の1998年に核実験を挙行し、その後、米政
府はインドを経済制裁したが、米中枢では国防総省やCIAが事前にインドの
核実験を察知せず、意図的に核実験を黙認したふしがある。当時はちょうど、
米国がアフガニスタンのタリバンへの敵視を強めるなど、テロ戦争の戦略的原
型が形成され出した時期だった。イスラエルは、インドと自国で、間にあるイ
スラム世界を挟み撃ちする戦略を持っており、人民党のような存在は便利だ。

 テロリストの襲撃を受けたチャバドハウスでは、運営者夫妻ら6人が死亡し
た。この点では、イスラエル人は被害者だ。しかし歴史を見ると、イスラエル
の諜報機関は、テロリストにユダヤ人の施設を襲撃させ、それによって「テロ
との戦い」や「シオニズムの強化推進」の口実を得る作戦をたびたび行ってきた。

 イスラエル建国時には、中東各地のシナゴーグなどが放火され、それが「イ
スラム教徒の仕業だ」とされて、中東各地に住むユダヤ人たちが不本意ながら
イスラエルに移住せざるを得ない状況が作られた。1976年にパレスチナの
テロリストがハイジャックした旅客機をイスラエル軍の特殊部隊が奪還した
「エンテベ空港事件」も、実はイスラエル諜報機関がパレスチナ人をけしかけ
てハイジャックを挙行させた「やらせ」だったと英BBC放送が昨年に指摘し
ている。
http://www.theyeshivaworld.com/article.php?p=7289

 チャバドハウスをめぐっては、テロ攻撃が始まる前夜、港に面するこのハウ
スに、海上から数隻のボートが接岸し、乗っていた10人が、たくさんの荷物
をハウスに運び込んだとか、前夜にハウスの運営者が肉屋から大量の肉を買い
付けたとかいう話も出ている。ムンバイの警察官の中には「武装勢力はテロリ
ストとしてではなく、客として迎え入れられたのではないか」と地元テレビ局
に話す者もいた。テロ犯人がヒンドゥ過激派なら、イスラエルの諜報機関との
つながりがあるのは自然だ。この事件にインド軍諜報機関も絡んでいるとした
ら、誰と誰が敵だったのか、実際とは違う話がマスコミに発表されても不思議
ではない。
http://www.mid-day.com/news/2008/nov/281108-Nariman-House-terror-hub.htm

▼BRIC台頭とムンバイテロ

 今回のムンバイでのテロ事件が起きた背景には、おそらく、米ブッシュ政権
の単独覇権主義のやりすぎによって米国の覇権が崩壊し、代わりに中露など
BRICが台頭して世界が多極化しつつあり、インドがBRICの一員だとい
う現状が存在する。

 インドは大国であり、1947年に英国から独立後、経済成長して南アジア
の地域覇権国になる可能性があった。しかし実際には「冷戦」を使って米英覇
権体制を維持する戦略をとった英国がインドの台頭を好まず、パキスタンや中
国との対立が扇動され、インドは貧困から脱せなかった。冷戦後、米英では、
インドを台頭させて投資効率の高い地域にしようとする多極派と、イスラムと
の「テロ戦争」を第2冷戦として扇動する米英中心派との暗闘が続いてきた。
金融危機の激化で米財政やドルの破綻懸念が拡大し、米英中心主義のG7が
「時代遅れ」と言われ、代わりにBRIC中心のG20が金融危機の解決に乗
り出すなど、しだいに多極派が優勢になっている。

 来月に就任するオバマ政権は、テロ戦争に「勝つ」ことを目標に、アフガニ
スタン重視の戦略を掲げており、この点では米英中心主義のように見えるが、
同時に「アフガンで成功するには、パキスタンの安定が不可欠で、それにはカ
シミール問題を解決してインドとの対立を解消する必要がある」という理屈か
ら、印パ間のカシミール和平を推進しようとしている。
http://economictimes.indiatimes.com/News/PoliticsNation/Mumbai_attacks_may_s
harpen_Obamas_Kashmir_focus/articleshow/3768042.cms
http://timesofindia.indiatimes.com/India/India_in_fix_over_how_to_handle_Pak
/articleshow/3777903.cms

 パキスタン政府は、数カ月前からインドとの関係改善を求め、印パ国境に3
カ所ある越境地点のすべてを開放したり、ザルダリ大統領が「インドは、パキ
スタンにとって脅威ではない」と宣言したりした。これは、米国に頼れなくな
りつつあるパキスタンが、インドと和解せざるを得なくなっていることを表し
ている。ムンバイのテロ事件は、印パ間の和解を妨害するかのようなタイミン
グで発生している。
http://www.nation.com.pk/pakistan-news-newspaper-daily-english-online/Opinio
ns/Columns/29-Nov-2008/IndiaPakistan-relations-and-Kashmir

 今回のテロ事件では、イスラエルの影もちらついているが、現在のイスラエ
ル政府は、もはやイスラム世界との対立激化を望む右派戦略を捨てている。唯
一の後ろ盾だった米国が衰退する一方、反イスラエルのイスラム主義が中東を
席巻する中で、右派戦略にこだわり続けると、イスラエルは滅びてしまう。右
派政党だったリクードでさえ、右派を切り捨てている。

 イスラエル政府は、入植地にこだわる右派を弾圧し、エルサレムを分割して
東半分をパレスチナ人に与えて和解する方向に進みたいと考え、先日訪米した
オルメルト首相は、オバマに「イスラエル政府が右派をつぶすのを手伝ってほ
しい」と求めたようだ。イスラエル右派は、米国ではAIPACやネオコンな
ど強い勢力を形成し、米政界を牛耳ってきた。米政界で「イスラエル」といえ
ば、右派のことである。イスラエル首相は、オバマに「イスラエルつぶし」を
頼んだのである。
http://www.iht.com/articles/2008/11/30/opinion/edcohen.php

 このような中で、イスラエル諜報機関がインドでのテロに関与したとしたら、
それはイスラエル政府の命令ではなく、諜報機関内部で強かった右派が、政府
の意向を無視して、イスラム世界との対立構造を復活させようとして動いてい
ると考えられる。米英イスラエルの諜報業界では昔から、政府の意向を無視し
て別のことをやる要員が多い。

 イスラエルの諜報機関は、ソマリア沖の海賊をこっそり支援していると、サ
ウジアラビアのメディアで指摘されている。イスラエルは、ソマリア沖の海賊
を跋扈させることで、紅海の安全保障を「国際化」することを狙っている。紅
海はサウジアラビア前面の海であるが、同時にイスラエルからインド洋に抜け
る唯一の海上ルートでもある。
http://www.middle-east-online.com/english/?id=28928

 紅海の「国際化」とはすなわち、米英イスラエルが紅海に自由に出入りする
権限を持つことで、サウジアラビアに対する威嚇となる。最近のイスラエル政
府自身は、中東和平の一環としてサウジとの和解を希望しており、諜報機関
(右派)によるサウジ威嚇戦略とは矛盾している。

▼中国はヒンドゥ犯人説

 米国内では、共和党系のランド研究所が、今回のムンバイテロに関してアル
カイダ犯人説を否定し、インド国内犯説を立てている。これは、米共和党が、
失敗した「テロ戦争」の大戦略を捨て、印パ間の和解やインドの台頭を許す多
極化容認の戦略を採り始めていることを示している。共和党では、米英中心主
義が弱まり、多極主義が強くなりつつある。
http://www.iht.com/articles/2008/11/27/asia/28group.php

 この流れは、オバマ政権に影響を与えるはずだ。オバマは民主党だが、ジョ
ーンズ補佐官、ゲイツ国防長官といった政権の安全保障担当者は共和党系であ
り、オバマ政権は事実上、共和党の中道派の政権だからだ。オバマ政権内のも
う一つの勢力となるクリントン一派も、ビル・クリントンの大統領任期末に、
印パ間のカシミール問題を何とか解決しようと走り回った過去があり、印パ和
解に異存はないはずである。

 ムンバイテロに対しては、中国とイランの反応も興味深い。中国の人民日報
は、テロ実行犯が手首にオレンジ色のリストバンドを巻いていたことなどを根
拠に、テロ犯人はムスリムではなくヒンドゥ過激派だろうと指摘している。こ
れに対してインドのマスコミは「中国は、自国と親密なパキスタンが犯人だと
いうことを隠すため、こんなことを書いている」と批判している。
http://www.indianexpress.com/news/china-official-daily-says-don%27t-rule-out
.../391937

 インド人民党は、2004年まで政権に就いていた時には、中国との関係改
善に積極的だった。ナショナリズムを重視する人民党は、多極化によってイン
ドが世界的に台頭することは歓迎だ。人民党は米単独覇権主義を嫌い、イラク
侵攻に反対した。しかし最近の人民党は、多極化によって中国が台頭してパキ
スタン・イスラム世界と結束することを警戒し、イスラエルや英米と組んで対
イスラムのテロ戦争を復活させる方に引かれているようだ。インド政界は、多
極化する世界の中で揺れている。

 米英イスラエルの諜報右派が、インドとパキスタン・イスラム世界を再び対
立させようとしているのを見て、イランは印パ双方に対して「テロや戦争を扇
動する米英イスラエルなんか無視して、イランと組んで、イランからパキスタ
ン経由でインドにガスを運ぶIPIパイプラインを早く建設しましょう」とす
り寄っている。イスラム世界からは、トルコも印パ双方の和解を仲裁する動き
を見せている。
http://www.tehrantimes.com/index_View.asp?code=181483
http://news.xinhuanet.com/english/2008-11/30/content_10435084.htm

 世界の多極化が進む中、アジアのあちこちで、地政学的な暗闘、テロや政権
転覆の画策、またはその逆に、和平の模索などが行われている。日本の新聞に
はほとんど載らないが、今後の長期的な世界情勢の方向性を示す重要な動きが
いくつもある。事態の展開が速く、私が書ききれないのが残念だ。


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/081202Mumbai.htm


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