野宿労働者運動。「寄せ場」

2005-06-17 19:02:52 | 社会
私の加わっているメーリングリスト(もっぱら読ませていただいている参加者ですが)で、いわゆるホームレスについての論議がありました。以下は山谷労働者福祉会館活動委員会の「なすび」さんの提起です。前後のメールはつけてありませんが、とても共感できる内容です。あわせて、「日本寄せ場学会」で発行している「寄せ場」の紹介も。
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私はまさに「ホームレス支援運動」…私たちなりに言えば、野宿労働者運動お
よびその支援運動をやっております。

 「拉致被害者とその家族は窮極の社会的弱者です」云々については、よくまあ
こんなこと書けるなあ、という程度の話です。僕は野宿者が「市民社会」から排
除された社会的弱者であることは強調しますが、どんな比較の中で「弱者」に
「究極の」などという形容詞をつけられるのか、またそれに意味があるのか、
さっぱり理解できませんので、そんな形容詞はつけません。
 ただ、このかんのメールで気になった点があるので、自分の運動に即して、い
くつか書いておきます。

 まず、具体的な話から。
 生活保護を受けない野宿者がいることについてですが、確かに「尊厳」のた
め、という人もいないわけではありません。生活保護を受けることは、憲法25条
生存権と、生活保護法に規定された権利なのですが、これを「行政の世話にな
る」「他人の世話になる」と思いこまされている人が非常に多く、野宿者も例外
ではありません。
 しかし、野宿者が生活保護を受けないのは、自分の意志よりも「受けられな
い」ことの方が多いです。「65歳未満は仕事をしろ」「居所がないと保護できな
い」などという全く違法な対応を行っている福祉事務所は今も多く、野宿者は窓
口で追い帰されています。名古屋の林訴訟、大阪の佐藤訴訟などは、そのような
野宿者の保護申請を却下したことの違法性を訴えた裁判です。
 また、受給の申請に行けば分かりますが、野宿に至った経過や生活状態、様々
なプライベートなことを根掘り葉掘り聞かれます。さらに、本人が親族と関わり
たくなくても、扶養する親族がないかを調べるために勝手に身内に連絡を取られ
ます。そして運良く保護を受けることができると、今度は住民票を移すことにな
り、サラ金から逃げている人も、サラ金業者に居所が分かってしまいます。
 これらの問題に親身になってくれるケースワーカーなどごく稀で、結果とし
て、野宿者は生活保護を断念せざるを得ない状況にあります。野宿者が頑固に生
活保護を拒否しているというのは、「独特の価値観をお持ち」と言った知事時代
の青島氏と同じで、現実を知らない勝手な思いこみです。

 また、韓国の野宿者についてですが、先日ソウル駅で2名の野宿者が亡くなっ
た際、駅員や鉄道警察の対応のひどさに野宿者たちが怒り、暴動のような状態に
なりました。この間関わってきた韓国の運動体に経緯を聞いたところ、まだ息の
ある野宿者を職員が台車の上に乗せて屋外に放置し、1時間後に救急車が来た時
にはその野宿者が亡くなっていたのだそうです。ソウル駅の野宿者はそのような
扱いを日常的に受けているからこそ、怒ったのです。こんな状態でも、韓国の野
宿者が好きなようにやっていると思いますか?
 ソウルの件でも隅田川の件でもそうですが、マスメディアによるわずかの断片
情報で、全体像が分かったと思わないでいただきたいです。もちろん、私たちの
発する情報が少ないという問題も自覚しています。

 それから、それ以前のメールでやりとりされていた、どんな課題に関わるか、
という点です。
 私にとって、野宿者支援運動をやっているのは、野宿者問題が最も重要な運動
だから、ではありません。自分が問題に出会った経緯や、生育歴も含めた極めて
個人的な理由、さらに人との出会いや関わり、などなど様々な要素が働いている
わけで、それらの中で持ってしまった「こだわり」で動いていると言った方がい
いと思います。
 私はたまたま映画「山谷 やられたらやりかえせ」を見たことがきっかけで、
山谷に行きました。そしてこれまで、医療従事者でなければ直面することがない
くらい、多くの野宿者の死に直面し、立ち会ってきました。その中で、日雇労働
者や野宿者が「都合のいいように使われ、不要になったら捨てられ、死に追いや
られる(殺される)」理不尽を強烈に感じ、山谷での運動にかかわり続けて18年
になります。でも、理不尽な状況におかれているのが(日本の)野宿者だけか、
と問われれば、そうではないと答えるでしょう。
 どんな課題に関わるかなど、それぞれの内的な根拠と経緯があります。それは
自分でも整理できない、あるいは自分でも気がついていない理由である可能性も
あります。だから、他者が四の五の言う筋合いのものじゃありません。

 それと関連しますが、一つの課題にこだわること自体に意味があるのか、とい
う点です。
 私は、野宿者問題を「労務支配と棄民政策」(産業と国家が一体となった、労
働を通した人間の支配と、使えなくなった人間を捨てるシステム)の問題だと
思っています。これは、野宿者と関わる中で見えてきた社会観であり歴史観で
す。だから、野宿者問題への取り組みは、野宿者になにがしかをカンパするこ
と、あるいはその金額が高くなることで完結するとは思っていません。それは野
宿当事者が運動を起こす際のお手伝いでしかありません。それをベースとして、
この理不尽なシステムにどれだけ切り込んで、どれだけ変えられるのか、が野宿
者支援運動だと思っています。
 つまり、野宿者問題というシングル・イシューから、その背景にもっと普遍的
な問題を感じているわけで、それへの取り組みこそが重要だと思っています。私
は、野宿者運動に長く関わっていること自体にそれほど意味があるとは思ってい
ません。その関わりの中で、様々な課題の共通背景を見いだして取り組むことに
むしろ意味があると思っています。そして、その人が新たな別の課題へと展開し
ていくことも、不思議ではないと思います。「どの課題が最も重要か」などとい
うのは、関わる課題・問題の背景が見えていないということではないでしょうか。

 また、一つの課題では運動は勝てない、ということも言っておきたいと思います。
 先述のように、野宿者問題は現在の日本社会が本質的に持つ「労務支配と棄民
政策」の一断面だと思っています。逆に言えば、野宿者問題は、野宿者だけが頑
張れば何とかなるような話ではなく、人間を使い捨てるシステム自体を変えなけ
れば、野宿者は生まれ続け、路上で野垂れ死にをしていくだろうと思います。お
にぎりを渡せば、あるいは野宿者を自宅に引き取って共同生活をすれば、路上死
がなくなる、というわけではないです。
 だから、私たちは問題の本質を共有する様々な運動とともに行動していこうと
思っています。その一つの表現が、「[aml 41671] 11・3「持たざる者」の国
際連帯行動」です。移住労働者、フリーター、失業者、障害者など、「社会的排
除」を受ける者たちがこの社会にNO!を突きつける共同行動です。まだ観点の提
起という範疇を出ませんが、それぞれの現場運動を共有することができたら、大
きく飛躍できると思っています。

 私は野宿者問題に携わり、「市民社会」や「市民運動」の欺瞞性は常々感じて
います。しかし、野宿者に関わるかどうかでその人の「本気度」をはかるという
のは、私はおかしいと思います。それどころか、野宿者が特殊な存在として扱わ
れている違和感を難じます(特殊な問題だと強調して行政施策を要求する運動体
もありますが…)。

 なすび /山谷労働者福祉会館 活動委員会
 〒111 東京都台東区日本堤 1-25-11 電話・FAX:03-3876-7073
山谷労働者福祉会館 http://www.jca.apc.org/nojukusha/san-ya
レイバーネット日本 http://www.labornetjp.org/
戦争と治安管理に反対するPINCH! http://www.iya-ten.net/pinch/
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寄せ場―日本寄せ場学会年報〈第17‐18合併号〉特集・流〓から問う「家郷」と「国家」
ISBN:4846202992
247p 21cm(A5)
日本寄せ場学会;れんが書房新社〔発売〕 (2005-05-28出版)
[A5 判] 販売価:2,625(税込) (本体価:2,500)
寄せ場―それは日本の下層社会である。
そこでは人間が無慈悲に奪われる。
だからこそ人間への激しい希求がある。
熾烈な闘いがある。
いま―寄せ場研究は、寄せ場の現実に切り込み、これを再構成し、そして寄せ場に投げ返さなければならない。

特集 流〓(ぼう)から問う「家郷」と「国家」
活動の現場から―日本と世界
現地調査
日本寄せ場学会・二〇〇四年秋季シンポジウム報告
資料紹介
ヨセバ・クリティーク



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