朝鮮学校がたどった苦難/半月城

2010-03-13 12:14:29 | 社会
 半月城です。
 北朝鮮による日本人拉致問題などにからめて、「高校無償化」問題で朝鮮学校をは
ずそうとする動きには、私も納得できません。
 これまで朝鮮学校などに対する差別は、多くの人の努力によって相当改善され、日
本政府も国連人権委員会でやっとある程度の申し開きが出来るまでになりましたが、
今回の動きはそうした改善の流れに逆行するものです。

 かつて、日本で外国人学校に対する深刻な差別として大学受験資格問題がありまし
た。長い間、朝鮮学校やアメリカンスクールなどの高校卒業生は、日本の大学への受
験資格すら与えられませんでした。理由は外国人学校は、洋裁学校などと同じ資格の
各種学校であり正規の高校(一条校)ではないとの理由でした。
 こう書くと、それなら大学受験資格が得られる大検(大学入学資格検定試験)をと
れば問題ないと思われる方がおられるかも知れませんが、昔はそれすら日本の中学校
(一条校)卒業生でないと受験できませんでした。信じがたい話です。
 そのため、中・高一貫教育の外国人学校卒業生が日本の大学を受験するためには、
昼間は民族高校に通いながら、夜間は日本の通信制高校で学んで受験資格を得るしか
道はありませんでした。そうまでして日本の大学へ進学した努力家もいましたが、遊
び盛りの高校生にとっては試練の日々がつづいたことでしょう。

 ただし、大学の中にはまれに温情で受験を認めた私立大学もありました。そうした
大学を一校でも増やすべく、外国人学校は長年にわたって地道な努力を根気強く積み
重ねました。
 その甲斐あって、私立大学のみか、やがて公立大学も受験を認め始めるようになり
ました。この段階に到達するのにざっと数十年はかかったでしょうか。実に長い道の
りでした。

 しかし、国立大学は文部省の指導のもと、頑として外国人学校生の受験を認めませ
んでした。認めないのは、受験生が文部省の定めた高校のカリキュラムを受けていな
いという理由のためではありません。
 というのも、そうしたカリキュラムを受けていない外国の高校卒業生には国立大学
の受験資格があったので、カリキュラムが理由でないことは明らかです。理由は朝鮮
学校いじめと言っても過言ではありません。文部省は徹頭徹尾、朝鮮学校を敵視して
きたのでした。その歴史は古く、GHQ占領軍の時代にまで遡ります。

 終戦直後、在日朝鮮・韓国人は解放された祖国への帰国をも視野に入れ、子どもに
自国の言葉や歴史を教えるための寺子屋、ないしはささやかな学校を全国に設立しま
した。その数は小学校541校、中学校7校に達しました。
 ところが、それらの母体である朝連(在日本朝鮮人連盟)が左傾化するにつれ、冷
戦で反共政策に固まったGHQから敵視されるようになりました。
 1947年7月、GHQは朝鮮学校に対し、朝鮮語を正規教科の追加科目としてのみ認
め、それ以外は文部省指示に従えとの命令を出しました。これは同化教育の復活であ
り、朝鮮学校としては受け入れがたい内容でした。
 それでも民族教育を何とか守りたいという一心で、朝鮮学校の1/4にあたる12
8校は文部省の認可を得るべく苦労して許可申請を提出しました。結果は、わずかに
1校(白頭学院)が認められたのみで、他は翌年すべて強制的に閉鎖させられまし
た。そのため、私もやむなく日本の小学校へ転校を余儀なくされました。

 以後、朝連や韓国系の民団は、次善の策として政府の認可が不要で、各都道府県知
事の認可で済む各種学校として民族学校を母国の援助も得て設立するようになりまし
た。これは先に述べたように、例外を除いて大学受験資格は認められませんでした。
 やがてこの問題に転機が訪れました。関係者がこの問題を国連へ訴えたところ、
「子どもの権利条約委員会」がその訴えを認め、1998年6月「コリアン出身の児童の
高等教育施設へのアクセスについて特に懸念する」との勧告を日本政府へ出しまし
た。

 外圧を受けた文部省は、翌年やっと外国人学校生にも大検の受検を認めるようにな
りました。これは大きな前進した。そこへさらに日本の国際化が追い風になりまし
た。といっても、追い風は単純な追い風ではありませんでしたが。日本政府はそれほ
ど甘くはありません。
 追い風というのは外的な要因であり、経済大国になった日本に対する外国からの投
資の増加でした。これにともなって、中長期的に日本に滞在する外国人が増え、その
子どもの教育が重視されるようになりました。その対応として政府は2002年に総合規
制改革会議の答申を受け、国立大学への大学受験資格を認める方向で「インターナ
ショナルスクール(IS)卒業生の進学機会の拡大」を閣議決定しました。

 しかし、翌年、文部省はISをアメリカンスクールなど欧米系の高校に限定し、中
華学校などアジア系などを除くとする方針を発表しました。これは、まさか文部省は
露骨な人種差別をするはずはないだろうという大方の予想に反するものでした。
 アジア系に対する露骨な人種差別には自民党からも批判がでるほど悪評でした。ま
た、京都大学は文部省の方針に抗し、朝鮮高校卒業生に受験資格をいち早く認めまし
た。中央の権威に是々非々で臨む精神はなおも健在なようでした。
 こうした批判に押され、文部省はしぶしぶ全ての外国人学校卒業生に国立大学受験
資格を認めざるを得ませんでした。こうして外国人学校の長年の悲願がやっと達成さ
れたのでした。ここまで来るのに実に半世紀もの時間がかかりました。

 以上のような朝鮮学校を狙い打ちにした文部省の差別政策は依然として続いている
のが現状です。そのあおりで日本の友好国である韓国やアメリカが設立した各種学校
ももちろん朝鮮学校と同様の扱いにされ、数々の制約を受けています。たとえば、校
舎を改築する際に寄付金を拠出しても免税扱いにならないとか、こまかい点をあげれ
ばきりがありません。
 文部省の政策の根底には、日本国内でのマイノリティー教育を積極的に認めようと
しないスタンスがあります。日本はアメリカの日本人学校など、世界中で日本語によ
る民族教育を実施していますが、日本国内では朝鮮学校の民族教育を抑圧してきたの
が実状です。その悪しき伝統が今回、高校無償化問題で頭をもたげてきたようです。

 先日、テレビ朝日であるコメンテーターが、朝鮮高校に対する授業料実質無償化の
問題は「国民の税金」を使うだけに慎重にすべきであると、産経新聞ばりの発言をし
ていました。「国民の税金」で非納税者の外国人に恩恵をほどこすのなら、それもた
しかに一理はありましょう。
 そのコメンテーターは無知なのか、あるいは意図的なのか、朝鮮学校生徒の親も納
税者であることを無視しているようです。こうした発想がこれまで政府の外国人政策
を支えてきたといえましょう。

 在日外国人の義務は日本人と同等に、権利は外国人を理由に最小限にとどめるとい
うというのが政府の基本方針ですが、これに異議を唱えた人は少数であり、そのた
め、教育問題に限らず、在日外国人に数々の制度的差別が露骨におこなわれてきまし
た。
 それは「差別問題」と一括りされるような次元ではないかも知れません。1960年
代、在日外国人というと大半が韓国・朝鮮人でしたが、その対応を法務省の池上努検
事は在日韓国・朝鮮人へのガイドブック『法的地位200の質問』(1965)でこのよ
うに述べました。
       --------------------
 外国人は自国以外の他国に住む「権利」はないのである。だからどんな理由をつけ
ても(国際法上はその理由すらいらないとされている)追い出すことはでき
る。・・・・
 国際法上の原則からいうと「煮て食おうが焼いて食おうが自由」なのである。
       --------------------

 日本による植民地支配などの歴史的経緯はともかくとして、日本で生まれ育った子
孫すら外国人なので日本に住む権利はないというのが当局の公式な主張でした。
 しかも、その「外国人」のほとんどは、私のように法務府の一局長通達(注)に
よって、ある日突然に日本人から外国人にされてしまった人たちでした。

 一方、池上発言からすると、私などはこれまで日本で焼かれずに生きてこられたの
ですからありがたいことで、民族差別などは序の口です。なんとか民族差別には馴
れっこになってしまった私ですが、欲をいえば願いがひとつあります。
 江戸っ子とは、江戸に三代つづけて住んではじめて江戸っ子といえるそうですが、
私の孫は四世になります。その孫が4,5年後には高校生になりますが、その子が民
族的に何ら制度的・構造的な差別を受けることなく、日本国の住民として高校生活や
その後の人生をエンジョイできるような世の中になることを願ってやみません。

(注)半月城通信<朝鮮分断と国籍選択>
http://www.han.org/a/half-moon/hm060.html#No.388

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「朝鮮学校、総連と一線を」橋下知事 学校側は検討約束/朝日
 高校無償化制度の対象に朝鮮学校を含めるかどうか議論になっている問題で、大阪府の橋下徹知事は12日、同府東大阪市の大阪朝鮮高級学校など朝鮮学校2校を視察し、学校を運営する法人理事長や学校長らと会談した。知事は法人側に対し、府独自の補助金を出す条件として、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)との関係を絶つことや、北朝鮮の指導者を崇拝するような教育をしないことなどを要望。法人側は対応を検討すると約束した。

 橋下知事は、国が朝鮮学校を無償化制度から除外した場合でも、法人側の回答次第では府独自に助成する方針だ。

 大阪府は各種学校にあたる朝鮮高級学校の生徒についても、国が無償化法案に盛り込んだ1人あたり年約12万~約24万円の私立高校生助成に府独自の支援を上乗せし、年収350万円未満の世帯の授業料を無償化。さらに年収500万円未満の世帯にまで授業料の一部を助成することを決め、2010年度当初予算案に7600万円を計上した。

 しかし、その後、橋下知事は「拉致問題を引き起こした不法国家の北朝鮮と付き合いのある学校に府の公金は入れられない」として、無償化の対象外にすることや、府内の朝鮮学校11校に対する既存の「外国人学校振興補助金」の打ち切りを示唆した。

 橋下知事は、これらの助成の是非を判断するため、12日、初めて大阪朝鮮高級学校(高校)と生野朝鮮初級学校(小学校、大阪市生野区)を訪問。学校法人・大阪朝鮮学園の辛正学(シン・ジョンハク)理事長、金淳●(吉へんに吉)(キム・スンチョル)・高級学校長らと約1時間会談した。知事は会談で、主に(1)朝鮮総連との金銭的、人的な関係を絶つ(2)北朝鮮の指導者の個人崇拝を促すような教育をしない、の2点を求めた。


 (1)については、総連から寄付を受けない▽総連の行事に学校幹部が参加しない▽児童・生徒が参加する総連主催のコンクールを保護者主催などに変更――を挙げた。(2)については、大阪朝鮮高級学校の教室の黒板の上に掲げられた故・金日成(キム・イルソン)主席らの肖像画を外すこと▽個人崇拝につながる教科書の記述の削除――を求めた。

 学校幹部らは肖像画について、「肖像画を掲げて民族教育をもり立ててきた1世らの心情は重い。外すのはプレッシャー」、教科書については「(朝鮮大学校の教授らでつくる)編纂(へんさん)会議に伝えたい」と話した。会談終盤に、辛理事長は「法人の評議会や理事会で検討する」と約束。李英敏(リ・ヨンミン)・副理事長は「大事な問題なので学校内の対立を避けたい。論議する時間をいただきたい」と述べた。

 橋下知事は視察後、報道陣に対し、「民族に誇りをもって一生懸命やっているのはわかった。いい方向で解決したい」と言明。授業料助成と振興補助金については、法人側の回答を待って執行の是非を判断する考えを示し、「秋ごろまでに学校サイドに方向性を出してもらえれば」と語った。
http://www.asahi.com/kansai/sumai/news/OSK201003130011.html



 [高校無償化]朝鮮学校除外は筋違い/沖縄タイムス・社説 ほか
国連の人種差別撤廃委員会、日本の人権状況を審査/NHK ほか
 【緊急賛同要請】「高校無償化」制度の朝鮮学校( 高級部)への適用を求める要請書/北海道から
朝鮮学校の無償化求める京都の文化人と、相変わらずの産経新聞
すべての高校生に授業料減免を実現することを求める要望書/京都ゆかりの文化人ら
橋下徹知事「高校無償化、拉致と切り離すことできない」/朝日新聞 ほか
東京都小金井市議会が「高校無償化制度の朝鮮学校への適用を求める意見書」を可決
 【高校無償化】朝鮮学校を視察 衆院文科委と社民党
高校無償化からの朝鮮学校除外に反対する要請書/ヒューマンライツ・ナウ
日本の在日朝鮮人差別政策が明らかになった/韓国・京郷新聞
朝鮮学校を『高校無償化』制度の対象とすることを求めます/NGOと市民の共同要請
 「高校無償化」からの朝鮮学校外しを許さない緊急集会/韓国強制『併合』100年・静岡共同行動
高校無償化、韓国の50団体「朝鮮学校の高校無償化」を求める声明を発表/サーチナニュース他
「高校授業料無償化」制度の朝鮮高級学校への適用を求める要請書/子どもと教育を守る愛知の会
橋下徹知事「北朝鮮はナチスと同じ」 朝鮮学校無償化問題で/産経 ほか
朝鮮学校、一転無償化へ・・・・?/産経新聞
朝鮮学校の驚くべき実体・元統一戦線部幹部が公開/救う会全国協議会ニュース
李英和教授ら「朝鮮学校無償化見送るべき」/TBSnews ほか
朝鮮学校、無償化除外へ 文科省「教育内容の確認困難」/朝日新聞
ファシストの本領発揮?橋下大阪府知事/「初老のトクさん」ブログ から
高校無償化:朝鮮学校問題 「人種差別」と日本に勧告へ--国際監視機関/毎日新聞 ほか


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6 コメント

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転載 (hakhon)
2010-03-13 14:13:37
転載させていただきました。ご了承ください。
返信する
そもそも外国人はどの国にあっても制度的に差別されている。 (電灯)
2010-03-13 16:13:07
そして、権利の中でも自由権的な権利はできる限り認めるが、社会権、かんたんに言えば、国から給付を受ける権利は、そう簡単には認められない、というのが世界標準です。

税金を納めているのに、というのがそんなに気になるのなら、「外国人減税運動」をおこしたらどうでしょうか。私自身は、その国民と同じ社会的サービスが受けられないなら、その分減税しろ、という考え方そのものには、賛成です。議論をおこなう過程で、これまでの外国人への税制度や、現在の外国人への社会保障給付の実態などが一般国民に具体的に示されるのはいいことだとおもいます。

>>外国人は自国以外の他国に住む「権利」はないのである。だからどんな理由をつけ
ても(国際法上はその理由すらいらないとされている)追い出すことはでき
る。・・・・

これは、現時点でも、世界標準の考え方で、主権国家体制からの当然の帰結です。私も北朝鮮や韓国に住む権利はありません。日本の敗戦以前は、同じくにだったのだから、たぶん住む権利があったのだとおもいますが。しかし、そのことを不満に思ったことはありません。

>>国際法上の原則からいうと「煮て食おうが焼いて食おうが自由」なのである。

これは、当時の時点でも言いすぎだろうとおもいます。なにかの喩えで、文字通りの意味ではないとはおもいますが。
返信する
よくある誤解 (電灯)
2010-03-13 16:17:40
付け加えておきますが、

法務府の一局長通達(注)に
よって、ある日突然に日本人から外国人にされてしまった

というのは、よく聞く論理ですが、敗戦処理の過程で、大日本帝国人からそれぞれの国民になった、というのが真相です。現在韓国に住んでいる韓国人は、かれらの通う学校の無償化を日本に求めたりしませんし、日本人は、自らの学校の無償化を韓国に求めたりしません。それぞれでやっているのです。
返信する
Unknown ()
2010-03-14 18:01:22
>「国民の税金」で非納税者の外国人に恩恵をほどこすのなら、それもたしかに一理はありましょう。
>そのコメンテーターは無知なのか、あるいは意図的なのか、朝鮮学校生徒の親も納税者であることを無視しているようです。

 日本国(乃至それに属する地方自治体)に納税「さえ」していれば、日本において、日本国籍を持つ者と同等の権利を享受出来る等という誤解を招きかねない発言です。
 慎むべきだと思います。

 朝鮮学校が所謂「一条校」として認可されれば済む話です。
返信する
税金の、サービスの対価的意味は、さけてとおれない。 (電灯)
2010-03-14 21:30:24
本来の意味の税は、もちろん、国民が受けるサービスの対価ではありません。それは確認しておきます。

しかし、現在、実質的に、税をこのくらい払うのなら、サービスをこのくらいはしてもらわなきゃ、という意識は、ふつうの納税者国民に浸透しています。その国に属していない外国人からすれば、サービスを受けられない場合、払い損ではないか、という論理は、じゅうぶん納得できる日本国民も多いのではないでしょうか。

わたしは、在日外国人とくに朝鮮人から、日本国がどのくらいの税を集めており、逆にかれらに、どのくらいの支出がなされているのか、というハッキリとした数字を見たことがありません。その計算をした上で、もしも日本国側がプラスのようなら、朝鮮学校無償化のために日本人から余計にとる分の税金額だけは、なんらかのかたちで、彼らの負担を安くしてもいいのではないかと考えています。かれらは、日本国家の一員ではないのですから、等分の負担でなく、応分の負担でいいとおもいます。
むしろ、なんでかれらが、そういう運動をしないのか、不思議ですが、税金を安くされるよりも、権利を認められるほうが得だ、と考えていないかどうか、その点を、厳しく質す必要があるでしょう。払った以上のものは、得られないのが、世界標準ですから。
返信する
Unknown (えまのん)
2010-03-18 01:03:40
夜学とWスクールしなくても、大検受ければ済むのに。
日本人でも高校卒業せずに、大検受けて大学に進学する人もいますよ。
返信する

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