アンドルー・ゴードン『日本労使関係史1853-2010』を読む/東部労組機関紙5月号コラム<二言三言>

2013-05-10 17:16:41 | 労働運動
東部労組の石川さんから
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東部労組機関紙2013年5月号のコラム<二言三言>に下記の文章を掲載しました。

アンドルー・ゴードン『日本労使関係史1853-2010』を読む

 アンドルー・ゴードン著『日本労使関係史1853-2010』が昨年8月に二村一夫の翻訳で岩波書店から刊行されていたことは知っていたが、500ページを超える大部なこともあってなかなか手が出なかった。
覚悟を決めてこの連休中に取り組み、やっと読了した。

 この本は、石川島造船や日本鋼管など京浜工業地帯のブルーカラー労働者(当時でいう「職工」)と会社との関係を、幕末開港から2010年まで150年にわたる過程を実証的かつダイナミックに分析し総括したものである。

 期待した以上に刺激的で、目から鱗だった。勉強になった何点かを記しておきたい。

 第一は、労働者と資本家の闘い、階級闘争が150年の日本の労使関係を形成してきたということ。
雇用制度は経営側が一方的につくり、労働者はそれに従うだけという現在支配的な思想は事実によって否定され、「終身雇用」「年功序列型賃金制」「企業福祉」「企業別労働組合」などは階級闘争の所産であることがくりかえし実証される。

 第二は、150年を通した労働者の闘いの原動力は差別反対、人間として扱えという、職場でも社会でも「正規の構成員」(フルメンバー)としての処遇を求めてきたところにあったという。
これは、現在の非正規雇用労働者、中小零細労働者の問題につながる。

 第三は、労働者の直接闘争が目を引く。労働者が集合して職制をつるし上げ、みんなで歌をうたい、機械を止め、要求をかちとるという1926年ころ席巻した「集団攻撃」行動、また組合本部の専従オルグが直接職場の闘いを指導し、職場集会(年数百回にもなった)を開き、職場交渉で、作業現場での不満を結集し、要員の増加、長時間労働の削減、入浴時間の延長などをかちとった1950年代の「職場闘争」。

 第四は、現在にも続く「闘争など想像もつかぬほど」協調的な労使関係へと変化させた要因として、インフォーマル組織、労使協議制、QCサークル運動、さらには解雇に代わる配置転換や出向、希望退職募集など経営側の予防反革命的な措置や活動をあげている。
資本家は労働者支配に失敗を繰り返しながら、その有効な方法を学んできた。

 そのほか、労働運動の自然な出発点は工場と作業場である、第二次大戦下労使関係への官僚の介入、「経営協議会」の役割などが印象に残った。(石)

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石川 源嗣 Ishikawa Genji
website: http://www.rodosodan.org/
e-mail: ishikawaあっとjca.apc.org
twitter http://twitter.com/#!/ishikawagenji

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高価なので図書館で借りましょう

『日本労使関係史1853-2010』

■体裁=A5判・上製・カバー・556頁
■定価 8,400円(本体 8,000円 + 税5%)
■2012年8月7日
■ISBN978-4-00-024293-6 C3021
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1980年代に「日本型雇用システム」として世界的に喧伝された雇用形態(「終身雇用」「年功序列型賃金制」「企業福祉」「企業別労働組合」……)はいかに形成され,そして変容し現在に至ったのか.
労働者・経営者・官僚の相互関係に注目し,彼らが目的・利害をめぐって争い妥協してきた150年に亘る日本労使関係を描いた決定版

目  次
日本語版への序文/謝辞
凡 例
序 章┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥  1
第Ⅰ部 産業革命期の労働者と経営者

第1 章 工業労働者の組織化‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 19
新たな労働者と古くからの慣行‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 19
明治の労働社会‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 26
明治の労使関係ИЙ間接管理のジレンマ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 39
労働運動と労働者階級‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 48

第2 章 温情主義と直接的管理┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 55
変化の動因┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 55
新たな労務管理へ┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 58
「職工┝ の反応‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 74

第3 章 労務管理改革と労働運動ИЙ1917~1921 ┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 87
労働力問題ИЙ規律,労働移動,賃金┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 88
労働者階級の挑戦┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 110

第Ⅱ部 労働者と経営者ИЙ戦間期における雇用制度

第4 章 渡り職工の消滅?ИЙ採用と長期雇用‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 127
職工生活のはじまり┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 127
定 着ИЙ雇用保障と労働運動┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 134
不況からの脱却‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 157

第5 章 賃金制度の複雑化‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 163
賃金の設計┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 164
労働運動の影響‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 173
賞与,退職金,共済給付┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 197

第6 章 企業共同体ИЙ会社,組合,労働者階級‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 209
政府の役割┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 211
会社と組合┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 214
雰囲気と態度‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 240
労働者階級,1921~1932 年‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 255

第Ⅲ部 戦時の労使関係と政府

第7 章 長期雇用と統制賃金‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 267
官僚主導へ┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 268
労働移動の規制‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 274
賃金統制‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 286

第8 章 産 報ИЙ労働組合不在の労働者組織┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 311
職場における産報組織‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 312
社内の地位と勤労意欲,そして産報‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 322

第Ⅳ部 戦後の決着

第9 章 組合主導の労使関係‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 341
企業共同体の再構築┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 350
年功賃金を超えてИЙ労働組合と賃金‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 360
終身雇用の要求ИЙかなわぬ夢┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 372

第10 章 経営主導の労使関係‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 377
経営権の復活┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 378
賃金体系の再編‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 384
雇用保障問題の決着┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 396

第Ⅴ部 労使関係ИЙ高度成長期とその後

第11 章 日本型労使関係のヘゲモニー┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 427
職場活動家の挑戦┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 427
闘争など想像もつかぬ時代┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 434

第12 章 日本型労使関係の終焉? ┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 455
世紀末,世紀初頭の労使関係ИЙ評価の激変‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 456
世紀転換期の労使関係ИЙ制度の再編┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 465
継続と変化ИЙ正社員の世界‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 468
変化する非正規雇用の世界┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 474

結 論┄‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 489

訳者あとがき‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 509

インタビュー対象者一覧/主要参考文献一覧‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 517

索 引‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 525


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