3/11から半年、失言報道もあれば真に日本を心配する報道もあり /DIAMONDonline

2011-09-14 08:40:52 | 社会
英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は実にげんなりさせられた経産相辞任騒ぎと、実に厳粛な気持ちにさせられた英記者の渾身の力作についてです。揚げ足取りのような失言報道も報道なら、真に日本のことを思って書かれた外国人記者の力作も報道。玉石混交。人生色々。というかそもそも、前経産相が「人生いろいろ」で追及をかわせるような人だったら、こんな騒ぎにはならなかったのだろうなあとも思います(gooニュース 加藤祐子)

全ての閣僚失言は平等ならず
 福島第一原発を視察した鉢呂吉雄経済産業相(当時)が原発周辺地域について「残念ながら周辺市町村の市街地は人っ子一人いない『死の町』だった」と発言し、さらに夜回り囲み取材で(正確なやりとりは未だ不明ながら)防災服をすりつけ「放射能をうつす」というような意味の発言をしたらしい。鉢呂氏はこれで、大臣を辞任しました。鉢呂氏は大臣になる前から福島を訪れ、放射性物質の除染や子供たちの年間線量引き下げに取り組んでいた人なのですが。

 この展開を見ながら私は、政治家の失言を批判することと、その政治家を辞任に追い込むことは別次元の話ではないかと、げんなりしながら週末を過ごしました。まがりなりにも民主手続きで閣僚となった人について「閣僚としての資質に疑義」と一方的に審判を下す権限が、いつマスコミに信託されたのかと思いながら。まして、正確なやりとりが不明な発言が理由で……などとグルグル考えながら(報道の経緯については、13日付『朝日新聞』(東京本社版は37面)の「メディア・タイムズ」が検証)。

 本来なら、東日本大震災から半年、そして米同時多発テロから10年という重たい週末を、静かな追悼の中で過ごすつもりだったのに。

 辞任についてほとんどの英語メディアは、一部の日本人が(たとえば私がTwitterでフォローしている人たちが)いかにマスコミの揚げ足取りに辟易としているか知らないのでしょう。もっぱら日本メディアの論調を見ながら書いている様子の記事がほとんどでした。たとえば米紙『ニューヨーク・タイムズ』では、「放射能に関する冗談が、国民の間で大騒ぎとなり(caused a public uproar)」、経産相が辞任したとして、発言内容と野田首相の反応、そしてそもそも原発事故の責任の一端は経産省にあると批判されているのに、その役所の大臣がそんな発言をしたことが国民の怒りを買ったと書いています。

 米紙『ワシントン・ポスト』はこの件についてはAP通信を使うのみでしたが、同紙が掲載したAP通信記事は、「被災した人たち、野党政治家、そして与党・民主党の議員さえもが、(鉢呂氏の)発言を強く批判した」と書いています。また辞任記者会見で鉢呂氏が「死の町」発言については、「国民の皆さん、福島の皆さんに不信の念を抱かせた」ことを謝罪した上で、「これこそまさにそういう表現しか見つからない。人っ子一人通らない。しかし町並みはきちっとある。あんな地域は全国に一つもない。その事を表現するのに私の言葉では、あれしか浮かばなかった」と説明したことも伝えています。放射能云々については、「非公式の記者の皆さんとの懇談ということでございまして、その一つひとつに定かな記憶がありません」と言明を避けたことも記事は説明しています(それにしてもこういう大事な会見の全文掲載、大手新聞がサイト上でやった方がいいのではないでしょうか? フリージャーナリストの人たちにお株を奪われていないで)。

 鉢呂氏が記者に防護服をなすりつける仕草(本人はそんなことをしたか「私としては、否定的」と言う)をした際、果たして正確に何と言ったのか。本来なら各社とも録音しているはずのやりとりが、まるで伝言ゲームのように各社記事で実にバラバラに伝えられている。その文言を、英紙『フィナンシャル・タイムズ』は、「Watch it - radiation(気をつけて、放射能だ)」と英訳して、「この出来事を日本メディアが報道するや、国民的非難(public outcry)を引き起こした」と書いています。これに先立ち鉢呂氏はすでに原発周辺地域を「死の町」と呼んで、「一部の福島の住民を不快にさせていた(caused offence)」とも。そして「鉢呂氏はあまり目立たない有名でない閣僚だったが、相次ぐ短命政権の連鎖を断ち切ろうとしている政権にとっては、恥ずかしい事態 (an embarrassment)だ」と。

 これはFTではなく私の感想ですが、たとえば震災を「天罰」と呼ぶ(3月14日の石原慎太郎都知事)ほどの大失言ならともかく、今回の鉢呂氏の発言は、「また日本で大臣が辞めたよ」と海外から見下される「恥ずかしい事態」を作り出すに匹敵するほどのものだったか。「an embarrassment」と英語メディアに呼ばれる事態を、日本のマスコミが率先して作りだしたとも言えないでしょうか。

 米誌『タイム』誌の記者ブログでは、中国支局長・東アジア特派員のハナ・ビーチ記者が、「日本は白黒はっきりしない微妙な色合いの言語表現に満ちあふれた国だが、その割には日本の閣僚たちはずいぶんと失言が多い」と切り出し、鉢呂氏の発言を「I will give you radiation(放射能あげる)」と訳し、そして「鉢呂氏は着任してわずか一週間余りだった。しかし日本の政治家がいかに、大変な思いをしている国民からかけはなれているかを示すには、十分だった」と書いています。

 鉢呂氏が大臣になる前から議員として福島入りしていたことを、ほとんどの記者同様、おそらくビーチ記者も知らないのだと思います。鉢呂氏は辞任会見で、そのことに少し触れているのですが。

 長く日本政治を取材してきたロイター通信のリンダ・シーグ記者はこれに対して、「日本において全ての閣僚失言は平等ではない(Not all ministerial gaffes are equal in Japan)」という、実に皮肉な見出しの解説記事を書いています。見出しは、米独立宣言のあまりに有名な「that all men are created equal(全ての人は平等に創られていると)」のもじりでしょうか。

記事でシーグ記者は、「閣僚の失言は日本では珍しくもない。マスコミ対応が上手な政治家はむしろ例外だ。しかし失言した閣僚がどういう代償を払わされるのかは、時の政府がどれくらい脆弱かによって違う。そして、失言で誰を不快にさせたかにもよる」と説明しています。たとえば原爆被爆者を傷つけたり、日本の戦争責任を否定した政治家たちが辞任する例もある一方で、女性を「産む機械」と呼んだ大臣や、強姦被害者の女性を批判するかのような発言をした大臣、金融市場をたびたび混乱させた大臣、アルツハイマー病患者を見下すような発言をした大臣、などなどなどは辞任することなく生き延びたと。

記事で中央大学総合政策学部のスティーブン・リード教授は、大臣が辞めなくてはならないかどうかは「おそらくその時の内閣の強さと、誰が怒ったかによる」とコメント。また上智大学国際教養学部の中野晃一准教授は、 鉢呂氏が辞任を決めたのは、野田首相が国会の膠着を恐れているからだと指摘し、失言そのものは辞任の原因にならなかったが、野党がそれに飛びつくことで国会審議が滞っては困ると総理が判断したからだと解説しています。

そうこうして後任の経産相となった枝野幸男前官房長官については、英語メディアの多くは「ああ、あの人か」と、日本の閣僚人事では珍しく「おなじみさん」感覚のようです。たとえばAFP通信は「日本の震災スポークスマン、経産相に」という見出しで、「3月の地震と福島原発危機の受けて日本政府の顔だった」と枝野氏を紹介しています。

3月11日以降にツイッターで飛び交った「#edano_nero」というハッシュタグが「イダーノ・ニーロ」とCNNで紹介されるほど、一時は世界的な「時の人」だった枝野氏だけのことはあります。

○福島から避難、妊娠中の29歳は

さて、実に後味の悪いこの経産相交代劇よりも遙かに大事な記事を、最後に紹介します。震災から半年たった今の日本の姿をじっくり描く、英紙『ガーディアン』のジョナサン・ワッツ記者による、渾身の力作です。「福島大災害 まだ終わっていない」という見出しのこの記事は、実に長さ5600単語(ワード)! (日本の社説記事が英語にするとだいたい600ワード前後、通常の英語記事も500ワードくらいです)。「福島第一原発で同時多発メルトダウンが起きてから半年。道路の瓦礫は撤去されたが、心理的な被害は続く」という内容で、権利関係で許されるなら全文を訳したいところですが、それは無理なので、残念ながらエッセンスのみをご紹介します。

『ガーディアン』でアジア環境を担当するワッツ記者は、震災直後から南三陸や石巻などの被災地に入り、しばらく現地から貴重な情報を世界に発信し続けた人です。そして前にもご紹介しましたが、原発報道にばかりかまける各国マスコミは早くも被災地を忘れていると、見事な批判記事を4月に発表。5月にも、瓦礫撤去の始まった岩手県釜石市の様子や、牛のために福島県浪江町に戻った農家の話を伝えています。

記事は、東京特派員時代の旧友が4月になって久しぶりに連絡してきた、という述懐で始まります。東京在住のこの女性が、いかに不安と恐怖と政府への怒りを抱えながら日々を過ごしているかという内容です。そしてこの旧友に「日本に戻ってこのことを伝えて」と懇願されたのを機に、福島の原発周辺地区や岩手の沿岸部を歩き、東京で避難生活する人たちの話を聞いたと。「記事を書くにあたって、これほど責任感を感じることはめったにない」と記者は書きます。なぜなら話をした日本の人たちは「報道してほしいだけでなく、気になってならない大問題について、外部の人間の判断を求めている様子だったから。大問題とはつまり、日本は今でも安全な国なのかという問題だ」。

まさに、本当に、歴史的に、私たち日本人は自分たちの国の状態について外国の意見や判断を求めてやまない国民です。震災前から。だからこそ私のこんなコラムも成り立つわけです。その発端が明治維新と不平等条約なのかは分かりませんし、その欲求に軽々しく名前をつけることは避けますが、いずれにしても震災後はその欲求がピークに達していたのは事実です。震災から半年たった今でも。

ワッツ記者はこう書きます。「道路の瓦礫は撤去され、再建工事は始まり、避難者は避難所を出つつある。しかし何百万人もの人が、3月までは異常とされていたレベルの放射線と取り組まなくてはならない状態だ。これは一時の奇妙な出来事ではなく、『普通』という言葉の意味を変えてしまう日常でおきていることなのだ」と。つまり、震災後の日本では「異常=普通」になってしまったのだと。

しかも長期にわたる低レベル放射能がDNAにどういう影響をもたらすか、明らかになるには何年も何十年もかかる。ほとんどの人は何の影響も受けないが、一部の人はガンを発症するだけに、「誰が、いつ影響を受けるか分からないというのは、非常に不安で落ち着かないものだ」と記事は書きます。チェルノブイリ事故後の状態について「ロシアの医師たちは生存者たちが『情報に毒された』と語ったが、日本ではむしろ、人々は不安に汚染されていると言うほうが正確だろう」とも。

記事いわく、安全と衛生と生食で知られる日本において日本人は今や、小さいけれども長期にわたる健康リスクを継続的に受け入れるよう求められている。しかも政府は不安定で、学問の世界もマスコミも強力な原発産業に汚染されていると見なされている日本では今、「trust deficit(信頼の赤字)」がはびこっていると。そして、「ただでさえ全体に倣うことを良しとする国として悪名高い(a notoriously conformist nation)日本にあって、日本人はいきなり、何に倣うべきかわからなくなっている」とも。何が危険で何が安全か、個人が自分で判断するよう求められている。そしてそれゆえに、(地震そのものによるPTSDとは異なる)じわじわと押し寄せる目に見えない不安感にさいなまれ、自殺念慮が高まったり、アルコールに依存するようになったり、落ちつきを失ったりする恐れがあると。

記事は、南相馬市から東京へ避難してきて、こうした症状に苦しんでいる、妊娠中の29歳女性を紹介しています。彼女は、11月出産予定のお腹の赤ちゃんをエコーで見るたびに、手足の指を何度も何度も数えるのだと。

日本ではこの半年間、水滴がポトンポトンとしたたり落ちるように、心配なニュースが少しずつ、けれども絶え間なく報道されていると、記事は書きます。母乳から検出されたセシウム。市街地から検出されるストロンチウム。甲状腺被曝が確認される子供たち。被災者の自殺。農家の自殺。市場に出回ってしまう汚染牛肉……。

そうした状況の中で福島を離れる人たちがいる一方で、「東京に避難したいけど、行っても仕事がない。チェルノブイリの人たちがどうして逃げなかったのかずっと理解できなかったけど、今では同じ立場になってしまった」と話す女性もいる。被曝リスクより避難リスクの方が高いという人もいる。幼い子供たちをつれて福島を離れた女性たちは、「戻ってこい」と言う夫や義理の両親と言い争う日々に疲れ、そして一人で不安と戦っている。記事はこういう人たちをひとりひとり取材し、生々しく描き出します。

ワッツ記者は記事掲載前に原稿を、件の友人に送ったそうです。残念ながら友人の女性は「がっかりしたみたいだった」けれども、日本は安全なのかそうでないのか「はっきり断言して安心させることは、僕にはできない」とワッツ記者は正直に認めています。そしてこう結んでいます。

「原発事故は恐ろしいものだが、思っていたのとは違う。原子炉3基が同時にメルトダウンすると一年前に知らされていたら、僕はこの世の終わりだと思ったはずだ。けれども今の日本は、思っていたような終末の世界とはまったく違う。代わりに、じわじわとゆっくりした衰退がはびこっている。福島を3回訪れた今、僕は1年前ほど放射能を恐れていないけれども、前より日本のことが心配だ」。

http://news.goo.ne.jp/article/newsengw/politics/newsengw-20110913-01.html?pageIndex=1


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