転載【 PUBLICITY 】 1692 :山口二郎・佐藤優「なぜ安倍政権はメルトダウンしたか」1

2007-12-12 06:47:28 | 社会
■■メールマガジン「PUBLICITY」No.1692 2007/12/12水■■


▼11月にやり残していたり忘れていたりしたことが多い。そ
れまでも多いんだけどさ。

しかもさっき気づいたんだが、Eマガジンのバックナンバーが
1678号から全部空欄になってやんの。がーん。勘弁してく
ださいよぉ。「わかってくださいよぉ」(by「ブレードランナ
ー」)。「2つで充分ですよぉ」(それはわかんねえよっ!)。


▼月刊誌「世界」11月号に載っていた、山口二郎と佐藤優の
対談「なぜ安倍政権はメルトダウンしたか 露呈した権力中枢
の空白」(聞き手=岡本厚編集長)を、三者の快諾を得て転載
する。4回に分けます。今回はその1。目次でいうと、

■国家に破れた安倍首相
■小泉政治はリフォーム詐欺
■失われゆく「国土」「国民」
■権力集中のハコモノづくり
■有識者は地獄絵を示せ
■新自由主義は過渡的な理念
■「戦後レジームからの脱却」が行き着いた先

のうち、上の2つ。

もう、ずいぶんと昔の話になりましたねえ。


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■国家に破れた安倍首相

──安倍首相が施政方針演説をしながら、代表質問を受ける直
前に突然退陣を表明しました。なぜこのような前代未聞の事態
が起きたのか。また、今後日本の政治、あるいは統治のシステ
ムそのものがどうなっていくのか。

安倍政権を語るには、それに先立つ五年半の小泉政権の評価も
必要だと思うのですが、安倍首相はこの一年間で一体何をしよ
うとしてきたのか。どのように評価されますか?

山口:「したいことがなかった」というのがまず初めから安倍
さんの躓きの原因だったと思います。彼は岸信介元首相の孫、
安倍晋太郎元外相の息子で、特に父が総理の座を目前に死んで
しまったという無念があり、安倍さんは早い段階から「総理に
なるべき人」という決めつけをされていた。

自民党の中でも若くして総理候補になりましたが、閣僚経験は
官房長官だけで、具体的な社会経済問題を解決する実体的な政
策を、責任をもってなしとげた経験はほとんどない。政治的リ
ーダーとしての実体験がほとんどないまま、総理になってしま
ったのです。

しかも三世のお坊ちゃん代議士で、選挙区は山口県でも地方は
ほとんど知りません。小泉時代に日本社会がどのように荒れて
いったかについてもわからない。でも、とりあえず総理大臣に
ならなければいけないという課題が先に来てしまったから、後
で政策をとってつけるという形になった。

それで「美しい国」やナショナリズム、「戦後レジームからの
脱却」、あるいは憲法改正という、非常に空虚なシンボルを乱
発する結果になったのです。どれについても彼自身の内発的な
動機はそれほど感じられません。

「美しい」とか、形容詞をやたらと遣いたがるのも実体のなさ
のあらわれでしょう。はっきりしたテーマを持って総理大臣に
ならなかったというところから、彼の不幸が始まったと感じま
す。

佐藤:私は、安倍さんは国家に敗れたと思うのです。別の言い
方で言うと、国家を実体として担っている官僚に敗れた。彼は
国家主義者になりたい、国家を動かしたいと思ったけれど、官
僚の文法を掴むことができなかった。

官僚は「美しい国」「戦後レジームからの脱却」といった観念
論を嫌います。しかもノンキャリアの官僚をもってきてキャリ
アの全官僚を統括するという、霞が関の完全な掟破りをやった
。完全に官僚の文法を読み違えたと思います。

小泉さんの秘書だった飯島勲さんの『小泉官邸秘録』の中に、
官僚をおさえる方法は一つ、人事だ、とあります。それもトッ
プの人事で、事務次官人事を官邸がどうおさえるかにかかって
いる。

私は今回の安倍さんの終わりの始まりは、防衛事務次官をめぐ
る小池─守屋戦争だと思うのです。閣僚も事務次官も統率でき
ないことがはっきりして、霞が関の全官僚が官邸を軽く見出し
た。

ただし、唯一部分的に成功したのは、中国と韓国との外交で、
官僚と安倍総理との関係が、谷内内閣官房副長官補という特殊
なファクターがあったためにうまく絡み合いました。それ以外
は、すべて官僚を使いこなせず足払いをかけられたということ
ではないでしょうか

山口:実は私はイギリスで安倍退陣の報を聞いたのですが、ゴ
ードン・ブラウンと安倍晋三はとても似た位置にありながら、
非常に対照的だなと思っていた矢先のニュースでした。

イギリスの場合、政権を担う人間にはいい意味での権力欲があ
る。ブレアは野党時代に自分が労働党の救世主になって政権を
とるのだと、「第三の道」という言葉を掲げ政策の体系を準備
していました。そして政権をとったら、10年かけて教育と医
療と中心に、実際に予算の配分を変えた。

そのブレアが退いてブラウンが首相になったわけですが、彼は
ブレアのようなカリスマ性やテレビ映りの能力はないけれど、
彼自身それをよく自覚していて、自分の特徴はパフォーマンス
ではなくて、着実地道に政策を実現していくことだ、としてい
る。それがいまのところ世論の支持を得ているという状況です。

一方安倍さんは、小泉政治のメディア手法を引き継ごうとして
、うまくいかなかった。自分の弱点がわかっていませんし、ブ
ラウンは、10年間財務大臣を務めて予算編成を一手に仕切っ
て、ブレア政権を支えてきた実績があるわけです。政治家のリ
ーダーシップとは、実体的な仕事を積み重ねることで培われる
という点で、日英の大きな落差を感じました。

佐藤:安倍さんの周辺でも、マスメディアでは悪いことばかり
書かれ、「安倍レンジャー」と揶揄された総理補佐官の山谷え
り子さんや世耕弘成さんなど、実は品性もよく、情報もきちん
ともっている人たちでした。

現下日本の保守政治家の陣営で、安倍さんが優秀な人々を集め
たことは間違いありません。安倍内閣が自壊した原因は、安倍
さん自身や側近の個人的資質に帰すことのできない構造問題だ
と私は思うのです。

自民党だけでなく民主党の国会議員についても指摘できること
ですが、世界観型の思想をもっていない。世界観や「大きな物
語」が政治にとって必要と感じていないのです。状況対応型で
、その時与えられるイシューによって自分の立ち位置を決めて
しまう。

従って、個別の局面においては非常にフットワークもよく、マ
ネージメントもうまいけれど、合成の誤謬が起こる。なぜかと
いうと、「大きな物語」が欠落しているからです。日本はどう
いう国家方針をとるのか。新自由主義でいくのか、保守主義か
、あるいは社会民主主義の要素を入れるのか、について根本的
に考えていない。


■小泉政治はリフォーム詐欺

──小泉政治は徹底した新自由主義でしたね。

佐藤:ただし、イメージ操作がうまかった。新自由主義政策に
ついても、日本経済を牽引する機関車として強い者をより強く
しますので、格差の拡大を是認します。

一応、セーフティーネットをつくりますが、そこでは救済でき
ないくらいの格差が生じるので、痛みを感じる国民が、特に低
所得層を中心に数多く発生しますが、そういう方たちは「運が
悪かった」と思って諦めてください、という説明をした上で、
国民の同意を得て新自由主義への舵切りをすることが、民主主
義的手続きとしては必要とされたのです。

しかし、ポピュリズムを権力基盤とする小泉さんに、国民の支
持を失う危険がある真実を述べることはできなかった。そこで
イメージ操作を行った。

一例として、鈴木宗男バッシングがあげられます。「鈴木宗男
というとんでもない政治家がいる。これが国是である領土問題
をねじ曲げたり、利権のために熊しかこないようなところに高
速道路を引いている。こんなやつは叩き潰してしまえ!」と。
それで圧倒的大多数の国民の喝采を受けて、結果として新自由
主義的な転換が成功してしまう。

そして、新自由主義的な政策で何かトラブルが出てくると保守
主義を使う。私は最近「新保守主義」とは言わないようにして
いるのですが、それはネオコンと混同すると同時に、小泉さん
にせよ安倍さんにせよ、日本の伝統的な保守・右翼が取り上げ
た表象を使っているだけなので、「新」をつける必然性がない
と思うからです。

ナショナリズムを掻き立てるモチーフとして、アメリカを相手
に、東京裁判あるいは広島・長崎の原爆を正面から取り上げて
もいいわけです。ところが、新自由主義を推進していく上での
最強国であるアメリカとは絶対にぶつからないようなイシュー
として、靖国参拝を取り上げる。

小泉さんには、もともと靖国神社に対してそれほど強い思いな
どないし、日本遺族会が橋本派の牙城だから、切り崩さないと
いけないということで、2001年の自民党総裁選挙で公約に
したまでのことです。

総理靖国参拝というカードを使ってみたら思ったよりも効果が
ある。同時に「心の問題だ」というパフォーマンスをしたら、
アメリカは政教分離が激しいから、多少、歴史認識でいろいろ
な不愉快なことがあっても、「これは私の信仰だ」と小泉さん
が言っている以上は、干渉してこないのです。これはいいとこ
ろに目をつけたと、必要最小限の保守主義的なシンボル操作を
した。

ただ、これは小泉さんの天才的な能力であり、自民党にとって
は、山口さんの言葉を借りれば、「覚醒剤」のようなものだと
思います。

山口:政治展開の段階区分について、第一の道、第二の道、第
三の道という三段階の議論で日本とイギリスを対比するという
議論を私自身もしていますが、第一の道というのは戦後の福祉
国家で、ヨーロッパでは社会民主主義、日本では田中派、竹下
派の利益配分政治を指します。どちらも「平等」を指向してき
た。第二の段階がサッチャリズムであり、小泉新自由主義とい
うことになりますが、やはり違いがあります。

日本の場合は、第一の段階である程度総中流社会といわれるも
のをつくっていたのですが、イギリスはやはり階級社会であっ
て、サッチャリズムによった公営住宅の払い下げや、水道、ガ
スその他の公営事業を民営化して株を一般に売却したことで、
新しい中間層をつくり出したという面があるのです。

それを保守党が支持基盤に組み込んで総選挙四連勝という大成
功をおさめ、労働党は衰えていく労働者階級を基盤とする政党
として周辺化されていく、という構図だったわけです。小泉新
自由主義はすでにあった中流社会を解体して、むしろ階級格差
を広げた。そこが明確に違う点です。

佐藤さんが言われたように、小泉時代の政治は徹底して思考停
止あるいは議論なしで、政策の結果やコストについて、国民に
インフォームド・コンセントを得るようなことはまったくあり
ませんでした。

あくまで族議員と官僚が支配してきた不透明な裁量型の政策に
風穴をあけ、透明化する、あるいは効率化するという非常にプ
ラスのイメージを描いて、小さな政府路線を正当化していった
わけですから、羊頭狗肉というか、リフォーム詐欺のようなも
のです。

ただ、小泉という人は偉い人で、彼がセールスをやっている間
はみんな詐欺の被害に気がつかなかった、あるいは気がつこう
としなかった、そういう特異なリーダーだったのでしょうね。

佐藤:サッチャーさんの場合、戦争の要素もあると思います。
私は86年9月から87年8月まで、ロシア語を勉強するため
にイギリスの陸軍語学学校に留学していたのですが、82年の
フォークランド紛争がそれまで弛緩していたイギリス人の国民
意識を組み立てる上で大きな影響があったと非常に強い印象を
受けたのです。

アメリカの戦争に加わるのではなく、単独でイギリス自身の帝
国主義的な野心のために戦争に踏み切った。そのとき「われわ
れはイギリス人だ」という感覚をもう一回つくり直したのでは
ないかと思うのです。

山口:たしかにフォークランド紛争はサッチャー政権を長期化
させる非常に重要な契機で、83年の選挙で大勝し、労働党は
壊滅的な打撃を受け、分裂にまで追い込まれるという展開にな
った。戦争という手法がいかに有効かについて、久しぶりに先
進国で彼女が実験したという面はありますね。

佐藤:たとえば王子の一人が空母に乗って出撃し、ケンブリッ
ジ、オックスフォードの連中が手を挙げて前線に赴き死ぬこと
で、エリートに対する信頼感が上がる。

徴兵制ではないから、一般国民は戦争に行きたくなければ行か
なくていいのです。「わが国のエリート層には国のために命ま
でかけるような人たちがいるのだから、我々に悪いことはしな
いのではないか」という印象を国民全体につくり出すことに成
功したのだと思います。

──日本の場合、北朝鮮の拉致問題でつくり出せたかどうか。

山口:安倍政権にとって最大の得意分野は北朝鮮外交でした。
拉致事件が発覚して以来、安倍政権はそれを国民の対外的な恐
怖心を煽ることに利用したわけですが、安倍さんが権力をとる
過程では有効ではあり得ても、あまり長続きしなかったという
印象ですね。

新自由主義は国民を統合していくというベクトルを持っていな
いわけだから、拉致被害者に対してほんとうに手を差し延べ、
国民の物語をつくるという認識は、実は十分持っていなかった
という佐藤さんの説に私も同感です。
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▼そうか、官僚との関係が決定的なんだね。対中国・韓国外交
の成功も、そりゃ官僚との関係がうまくいかなきゃ、うまくい
くはずがないわナ。最初のうちにやっておいてよかった。


freespeech21@yahoo.co.jp
http://www.emaga.com/info/7777.html
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1 コメント

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佐藤優には極右が立派に見えるらしいが (下利便じゃ決断出来んワ)
2007-12-12 21:07:03
何が目的無しに理念オンリーだ!

目的は右傾化で海兵隊グアム移転と郵政民営化で米国に貢ぐこった!

殆どやり遂げてんじゃねーか!

是正なんて、されてないじゃん!

思い遣り予算も微減だってよ。

売国は両政権でより一層盛んになったぞ。

外交力は可能な限り殺がれたし。

ついでに、北朝鮮発麻薬利権も、何故か進捗したな。

で、何でよ?
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