ドイツ連邦行政裁判所、イラク戦争を国際法違反と判決

2005-10-03 08:10:28 | 世界
ドイツ連邦行政裁判所は米国とその同盟国によるイラク攻撃は侵略戦争であり、国際法に違反しているという判決を下した。同時に、慎重にではあるが、ドイツ連邦政府は公式にはイラク戦争に対して反対の意を示しているが、一方では、なんら法的な根拠なしに、イラク侵略に協力していると、判決文の中で述べた。
この判決はすでに3ヵ月前に書かれたものだが、文書として公表されたのは、9月に
入ってのことであった。判決文は130ページに及ぶものであった。
この法廷は、1人のドイツ軍将校の訴えによるものであった。彼は、48歳で、軍の
コンピューターのプログラム開発に携わっていた。イラク戦争が始まると、違法な戦
争に加担するとして、上官の命令に従うことを拒否した。最初彼は、従軍牧師と軍医
に面会を求め、イラク戦争が国際法に違反していることを訴えた。しかし、軍医は彼
を軍の精神病院に送った。しかし、精神科医は何の病名も見出すことができなかっ
た。これはまさにフランツ・カフカの小説の世界であり、スターリン時代のソ連の反
政府分子に対する扱いを思い起こさせるものである。
次に、彼の上官は、彼を軍の法律顧問の下に送った。その法律顧問は「このケースは
不名誉除隊か、または降格になる」と脅かした。しかし彼が法律顧問に対して、戦争
の違法性を主張したので、このケースを国防省に送った。
国防省は文書でもって、「ドイツ政府はイラク戦争に反対したが、ドイツがNATOの一
員である以上、また国連安保理決議1441号に基づき、米国と英国に対してドイツ
の空域と米軍基地の使用を認めざるを得ない」と述べた。しかし、同時に国防省は、
この安保理決議1441号は、「イラクに対して大量破壊兵器を廃棄したことを証明
しなければ重大な結果をもたらす」と脅したものであって、この「重大な結果」の意
味は、イラクに対して軍事力を行使するには、「もう1つの安保理決議を必要とす
る」というのが、同省の解釈であると、述べている。
この将校は国防省の解釈を認めず、命令に従うことを拒否し続けたので、彼は少佐の
位から大尉に降格された上、軍は彼を軍規律に対する不服従の罪で起訴したのであっ
た。
そして、ついに、ドイツ連邦行政裁判所は、軍と政府の主張を退け、却下の判決を下
したのであった。
第2次大戦後、ドイツの再軍備に対するヨーロッパの世論が厳しかったことと、さら
に1950年代のドイツ軍には旧ナチ党員が多くいたことから、ドイツ軍にはさまざ
まな民主的な縛りがかけられた。その中には、人間の尊厳、ドイツ憲法、国際法など
に違反するときは軍の命令に従わない権利が兵隊に与えられている。
 ドイツ憲法裁判所はしばしばこのようなケースについて、明確な判決を下すのを避
けてきた。しかし、今回のケースはイラク戦争の国際法違反性とドイツ政府の協力と
いう重大な問題であったので避けて通ることが出来なかった。
 連邦行政裁判所の判決文の中には、「国連憲章第4条第2項により、他国に対する
重大な脅威、並びに軍事力の行使は侵略行為である」とし、これに対する例外は、
「国連安保理の決議と自衛のため」の2つである。イラク戦争はこのいずれにも該当
しない、述べた。
 しかも、判決文には、1990年、米国自身が提案した安保理決議678号はイラ
クのクエートからの撤退を要求したもので、1991年の決議687号も撤退が完了
したことを認めたものであったとし、さらにこの決議には、イラクが毒ガス、生物兵
器を使用した場合、「重大な結果をもたらす」と書いてあった、という。さらに国際
テロからも明確な距離をおくことを要求したのであった。イラクはこの決議を認めた
と、書かれてあった。
また判決文は1991年の安保理決議707号は、イラクに対する湾岸戦争の休戦が
破られているとも、破棄されたとも書いていない、と言っている。それ以後のいかな
る国連決議にもイラクに対する軍事作戦を容認するものでない、とも書かれている。
次に米国と英国のイラク戦争の正当化に使われている2002年11月8日の安保理決議
1441号であるが、判決には、国連兵器査察官ハンズ・ブリックスとモハメッド・
エルバラダイに対して、イラクが協力を欠いた場合、国連に報告するように求めたも
のであり、それを受けて国連がどのような措置をとるかについては、オープンになっ
ており、間違いなくこれは安保理にかかっていた、と述べている。国連憲章に基づい
て、いかなる軍事行為を容認するものではなかった、そして、「重大な結果」とは一
般的な警告であると解釈すると判決文は書いている。
一方、判決文には、米国と英国がこの決議をどのように解釈するかについては関知す
るものでない、と述べている。
判決文でとくに重要な点は、しばしばドイツの戦争協力が国際法違反である述べてい
るところにある。ドイツ連邦議会の特別委員会が2003年1月2日に発表した報告
書に、「国連決議はイラクにたいする軍事攻撃を合法化するものではない」とある点
である。これをドイツ連邦政府の閣僚、とくにシュレーダー首相が読んでいないはず
はない、さらに米国と英国が国連安保理に送った書簡には、自衛権を行使しなければ
ならない理由がどこにも書いていない、と判決文にはあった。
とくに判決文は、詳しくドイツの基地提供行為について言及している。「不法な軍事
行動にたいする協力は、戦闘行為に参加することだけにとどまらない。それは他の手
段によってもある。攻撃に対する支持行為も、国際法上では攻撃と見なされる。これ
は不法な戦争の準備行為を禁じているドイツ憲法第26条に違反する。判決文には、
ドイツが尊重しなければならない国際法として、1974年12月14日の国連総会
決議3314号、国連国際法委員会の諸決議、1907年ハーグ条約以来の国際諸条
約を挙げている。
最後にドイツがその領土を軍隊や軍事物資の移動に使用を許している点について、
ハーグ条約には空陸海のすべての領土を侵略の軍隊の移動に使用させることを禁じて
おり、さらにこれはドイツ憲法第25条に違反している、と述べている。
ドイツ政府がNATOの一員としての義務をあげていることに対して、NATO条約には、加
盟国の侵略行為に協力することを強制していないこと、さらに国際法に違反した加盟
国を援助することを強制していない、と述べている。NATO条約は国連憲章の枠の中に
ある。
さらに判決文は、NATOの加盟国が支援できるのは、NATO加盟国の領土内の武力紛争の
時に限定されると述べている。しかも1949年に米国の要請で追加された条項に
は、NATO協定の義務は加盟国の憲法に違反する場合は当てはまらないことになってい
る、と述べている。ドイツ政府はドイツ憲法第20条第3項により政治的な理由で戦
争を支援する権利がない、と判決文は述べている。

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2 コメント

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上記記事について (renqing)
2005-10-08 12:45:45
今日は。上記記事ですが、判決全文は、ネット上で入手可能でしょうか。言語はドイツ語でもかまいません。ご教示戴ければ幸いです。
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わかりましたー! (renqing)
2005-10-10 03:25:07
どーも、お騒がせしました。知人が、ドイツ連邦行政裁判所のサイトを見つけてくれて、そこに判決全文のPDFファイルがあることがわかりました。今後とも貴重な情報よろしくお願いします。
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