日本みずからの戦争責任総括。小泉とナベツネの靖国/半月城

2006-01-09 21:36:16 | 社会
半月城です。北京放送BBS「中日友好関係」に書いた文を転載します。小泉首相は単純明快なので、日本ではほとんど小泉首相の参拝目的を疑う人はいないようです。朝日新聞の論説主幹である若宮啓文氏もこう見ているようです。

小泉さんは右翼じゃないと思うし、国会でA級戦犯は戦争犯罪人だと明言したく
らいですから、靖国神社に行くのはA級戦犯にお参りに行っているのではないと思
う。
  割合と単純に、特攻隊の青年に涙するというような心境の延長で、300万の日本
の兵隊の霊を弔って、未来の平和を祈っているんだというのは、そんなに疑っていな
い。
  問題はそうであっても首相の参拝が結果的に「A級戦犯がなぜ悪い」「A級戦犯
はぬれぎぬじゃないか」という遊就館につながる思想の人たちを喜ばせ、力をつけさ
せていることです。
  そのあたりは小泉さんという政治家がもう少し想像力をもってくれないと困る。
右が元気づけば元気づくほど、中国や韓国では「やっぱり日本は危ない国だ」という
ことで、観念的に非常に反日が燃えてしまう(注1)。
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  変人と揶揄される小泉首相ですが、靖国神社を参拝してA級戦犯をも慰霊すると
いう「個人的な行動」により、A級戦犯の名誉をたたえる右翼をまちがいなく元気づ
けているようです。そうした姿をみて中国や韓国の反日感情が燃えさかり、それに反
発して日本のショービニスティックな連中の嫌中、嫌韓感情が高揚する、昨年はそん
な連鎖の一年でした。
  そうした悪循環の中で、最近、靖国問題を主体的に考えようとする動きがあるよ
うで注目されます。右寄りとされる読売新聞主筆の渡辺恒雄氏はこう語りました。
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  A級戦犯がぬれぎぬだとか言っている宮司のいるところに、首相が行って、この
間は昇殿しなかったからまだいいけれども、(初回参拝のように)昇殿して、記帳し
て、おはらいを受けるなんてことをやっていると、「A級戦犯ぬれぎぬ論」が若い国
民の間に広がってしまう恐れがある。
  そして、遊就館を見れば「勝った戦争を指揮したのは東条だ」なんていう錯覚を
起こす危険がある。
  僕はそういう危険を感じ始めたので、この辺でマイナスの連鎖をどこかで断ち
切って、国際関係も正常化するために、日本がちゃんとした侵略の歴史というものを
検証して、「事実、あれは侵略戦争であった」という認識を確定し、国民の大多数が
それを共有するための作業を始めたわけだ(注1)。
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  渡辺氏の肩書きである主筆とは、本人によれば「主筆は社論を決定する権限があ
る。論説委員のチームは、主筆の決定に従わなきゃならない。そして論説委員のチー
ムに対しては、取締役会とか、株主、従業員、労働組合は介入できない(注1)」と
されるので、読売新聞社内では絶大な権限があるようです。
  渡辺氏は読売新聞の社長を経て、一昨年からグループ本社会長も兼ねるので、名
実ともに読売新聞の社論を最終的に決定する立場にあるようです。

  その渡辺氏が語る「首相の靖国神社参拝には反対である」「靖国神社の存在その
ものが問題である」という言葉は今や読売新聞の社論であるとみて差しつかえないよ
うです。また「国立追悼施設の建設を急げ」という社説(05.6.4)がうまれたのも当然
といえます。
  渡辺氏が靖国神社を問題視する理由は中国や韓国が反対するからではなく、つぎ
の点にあります。
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  中国や韓国が首相参拝に反対しているからやめるというのはよくないと思う。日
本人が外国人を殺したのは悪いけれども、日本国民自身も(戦犯に)何百万人も殺さ
れている。今、靖国神社に祀られている多くの人は被害者です。
  やはり、殺した人間と被害者とを区別しなければいかん。それから、加害者の方
の責任の軽重をきちんと問うべきだ。歴史的にそれをはっきり検証して、「我々はこ
う考える」と言ってから、中国や韓国にもどういう迷惑をかけていたのかという問題
が出てくるのだ。やっぱりかれらが納得するような我々の反省というものが絶対に必
要だ。
  読売新聞は読売新聞なりにやりますけれども、これを国の意思として、例えば国
会に歴史検証委員会のようなものをつくって、やらなければならないと思うんです。
  ジャーナリストとしては、自分の新聞でそういう考え方を明らかにする義務があ
る。まあ、ちょっと遅かったんですがね(注1)。
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  かつて日本は、みずからの手で戦争責任者を追求できなかったことから靖国問題
や歴史認識問題が派生しているだけに、遅まきながらでも国会に「歴史検証委員会」
をもうけて、日本人自身が侵略戦争を総括する作業はぜひともやってほしいもので
す。
  その作業を土台にしてこそ、ドイツのように近隣諸国との和解が初めて可能にな
るのではないでしょうか。渡辺さんの提言に若宮氏はこう返しました。
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  東条内閣で蔵相だった賀谷興宣はA級戦犯で終身刑となりました。10年間の服役
後、仮釈放されて政界に復帰し、法相や日本遺族会の会長も務めた。それで私は右派
政治家の代表だと思っていたんです。
  ところが彼は閣僚時代、外相だった東郷さんと二人で開戦に反対している。軍と
対立しながら、あの手この手を尽くしたが、最後はあきらめざるを得なかった。
  その賀谷さんは自伝の中で、自分は戦争に反対だったからといって責任を免れる
ことはできず、切腹ものだと書いている。
  東京裁判は勝者の裁判で自分は東京裁判に納得がいかないが、やはり開戦の責任
は重かったと。ましてや、東条英機をはじめ本当に戦争を主導した者たちの責任は、
万死に値すると言いたかったのでしょう。
  賀谷さんは、日本人の手で戦争責任者を追求できなかったことを残念がっていま
す。まさに今、渡辺さんがそれをおやりになろうと・・・(注1)。
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  私は、読売新聞が平和憲法の改定を積極的に主張したころから同紙を嫌いになっ
たのですが、うえの文を読んで読売新聞の主張を見直しました。同社の戦争責任シ
リーズは昨年8月13日から始められ1年間つづけられるとのことなので、朝日新聞の
お株を奪いかねない意気込みのようです。その決意を渡辺氏はこう語りました。
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  このシリーズは1年間やりますよ。1年間やって、2006年の8月15日をめどに、
軍、政府首脳らの責任の軽重度を記事にするつもりだ。もちろん、我々は司法機関
じゃないから、死刑とか無期懲役とか、そういう量刑を判断するわけにはいかない。
  しかし、道徳的責任や結果責任の軽重について、誰が一番悪かったのか、誰ぐら
いまでは許せるが、ここから先は本当によくない、というような判断基準を具体的に
示そうと思っているんですよ(注1)。
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  読売新聞の試みがぜひ成功することを期待したいと思います。そうでないと周辺
諸国との和解はおろか、欧米でも「60年たっても反省できない日本」というイメー
ジがいつまでもつきまといかねません。
  atroposさんは、日本の外交戦略に太鼓判をおしているようですが、朝日新聞は
元旦の社説の中で戦略のとぼしさをこう記しました。
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 いま「60年たっても反省できない日本」が欧米でも語られがちだ。誤解や誇張も
大いにあるが、我々が深刻に考えるべきはモラルだけでなく、そんなイメージを作ら
せてしまう戦略性の乏しさだ。なぜ、わざわざ中韓を刺激して「反日同盟」に追いや
るのか。成熟国の日本にアジアのリーダー役を期待すればこそ、嘆く人が外国にも少
なくない。
 中国の急成長によって、ひょっとすると次は日本が負け組になるのかも知れない。
そんな心理の逆転が日本人に余裕を失わせているのだろうか。だが、それでは日本の
姿を小さくするだけだ(注2)。
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  今年は、がんこな小泉首相の「個人的な」心情から、三大貿易相手国のうちの二
カ国である中国や韓国を「反日同盟」に追いやることがないよう、日本がアジア外交
を立て直すよう期待したいと思います。この思いは渡辺氏も同感とみえて、こう述べ
ました。
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  僕はジャーナリストだから、まず日本の過去の戦争責任というものを究明したい
と思っています。しかし政治家は、現実の外交を優先して考えなきゃいけない。
  小泉さんは政治をやっているんであって、イデオロギーで商売しているんじゃあ
ない。国際関係を取り仕切っているんだから、靖国問題で中国や韓国を敵にするの
は、もういいかげんにしてくれといいたい(注1)。
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  一国の宰相ともなれば、個人的な心情にかられて隣国を敵に回すような愚をさ
け、首相として隣国との共存共栄、友好の道を模索すべきはいうまでもありません。

(注1)「対談,渡辺恒雄 x 若宮啓文、靖国を語る 外交を語る」『論座』2006.2
(注2)朝日新聞社説「武士道をどう生かす」2005.1.1




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