西修・駒沢大名誉教授の持論「集団的自衛権行使は合憲」 砂川判決、根拠は「暴論」/毎日新聞

2014-04-17 19:31:53 | 社会
特集ワイド:「集団的自衛権行使は合憲」 砂川判決、根拠は「暴論」
毎日新聞 2014年04月17日 東京夕刊
http://mainichi.jp/shimen/news/20140417dde012010002000c.html

厚い扉を開く鍵か、それとも「我田引水」の典型か。これまで違憲とされてきた集団的自衛権行使を巡る議論で、安倍晋三首相らが砂川事件最高裁判決(1959年)を根拠として「行使は合憲」と主張し始めた。だが法曹界を訪ね歩くと、一国の宰相が唱えるにはどうにもお寒い「新解釈」のような--。【吉井理記】

 ◇「徹頭徹尾『個別的』の話」 判例「好き勝手に読み替えできない」

 「砂川判決が集団的自衛権を否定していないことははっきりしています」。8日、民放BSの番組に出演した安倍首相、集団的自衛権への考えをキャスターに問われ「砂川事件最高裁判決から見ても違憲ではない」との持論を早口で展開した。

 砂川事件。少なからずの人が「ハテ何だっけ?」と首をかしげたのではないか。おさらいしておこう。57年に東京都砂川町(現・立川市)の駐留米軍基地拡張に反対するデモ隊が基地内に立ち入り、メンバーが日米安保条約に基づく刑事特別法違反罪で起訴された事件のことだ。



 裁判では駐留米軍の存在と戦力不保持を定めた憲法9条2項との整合性、つまり事実上「日米安保の合憲性」が問われた。59年3月の1審判決は「米軍の駐留は違憲」と無罪を言い渡したが、同年12月の最高裁判決は「わが国が存立を全うするために必要な自衛のための措置をとることは国家固有の権能として当然」と、米軍駐留や日米安保は必要な自衛措置であり合憲と判断。1審判決を破棄した。

 安倍首相が判決を引用して強調するのは、「必要な自衛措置」に自国への武力攻撃に対処する個別的自衛権だけでなく、他国への攻撃を日本が阻止できる集団的自衛権も含まれる--という点だ。

 「全く理解できません。砂川判決からは集団的自衛権が合憲だという結論はとても導き出せない」。苦笑いするのは憲法学が専門の長谷部恭男早稲田大教授だ。昨年11月の衆院国家安全保障特別委で特定秘密保護法について「特別な保護に値する秘密を政府が保有している場合は、漏えいが起こらないよう対処することは必要」と賛成意見を表明し、一部から「御用学者」などと批判された。

 その長谷部さん、「判決文を見れば実に単純な話です」と続ける。憲法の平和主義は日本を守るための自衛権を否定していない。ただし9条2項があり、2項が指すような戦力は持つことができない。すると日本の平和と安全を維持するために必要な防衛力が不足する。これを補うために外国に安全保障を求めることまでは9条は禁じていない。だから日米安保に基づく米軍駐留は戦力に当たらず違憲ではない--判決には、そうとしか書いていないというのだ。「徹頭徹尾、日本を守るための個別的自衛権がテーマであり、米国など他国への武力攻撃に対処する集団的自衛権とは何ら関係ない話なんです。集団的自衛権を否定する文言はありませんが、だから『否定していないことははっきりしている』と言われても……」。ちなみにこのような砂川判決の“解釈”は「私は聞いたことがありません。まともに反論したり、議論したりすることが恥ずかしくなるほどの暴論です」と首を振った。

 もともと「砂川判決=集団的自衛権行使容認論」を自民党内で最初に言い出したのは高村正彦副総裁だ。3月31日の党安全保障法制整備推進本部の初会合で「判決は個別的、集団的という区別はせず、固有の権利として自衛権を持っていると言っている。必要最小限(の武力行使)には集団的自衛権に入るものはある」と講演。安倍首相の主張はこの見解に沿ったものだ。

 高村氏は弁護士でもある。日本弁護士連合会の憲法委員会副委員長を務める伊藤真弁護士は「政治家以前に、弁護士としてあり得ない発言です」と切り捨てる。安倍氏も高村氏も判決や判例の読み方自体が間違っている、と続けるのだ。

 「判決や判例はある事件に対してこのような判断が下された、とセットで考えることが前提です。あるフレーズや言葉だけを取り出して一般化し、好き勝手に読み替えることはできない。砂川判決で語られている自衛権が『個別的とか集団的とか区別されていない』などと拡大解釈するのは無理です」。最高裁判決が集団的自衛権行使容認を意図したものでないことは、2カ月後に岸信介首相が国会で「集団的自衛権は憲法上許されない」と答弁したことからも明らかだという。

 高村氏らの見解は「高村さんらが唐突に思いついたものではなく西修・駒沢大名誉教授の影響だ」(自民党ベテラン議員)との見方が永田町で広がっている。西氏は第1次政権時から安倍氏の私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)のメンバーで、唯一の憲法専門家だ。

 日本は砂川判決の3年前に国連加盟したが、国連憲章51条では「個別的、集団的自衛権は固有の権利」とされている。このことから西氏は「砂川判決が言う自衛権も当然、双方が含まれると解すべきだ」と主張し、高村氏も「砂川判決に国連憲章が視野に入っていなかったということは考えられない」と自身のブログで述べている。

 伊藤さんは「砂川判決を書いた最高裁判事も51条を把握していたことは間違いない。しかし、判事が意識したことと、判決が集団的自衛権を認めているかという議論は全く別です」と言う。長谷部さんも「条約に類する国連憲章より憲法が上位だと考えるのが通説。そもそも国連憲章を前面に出すなら砂川判決を言い出す必要はない」。連立を組む公明党も、弁護士出身の山口那津男代表や北側一雄副代表から「論理に飛躍がある」と疑問視する声が相次ぐ。

 ではなぜ今、異端とも言える考えが浮上したのか。前出のベテラン議員は「年末の日米防衛協力指針(ガイドライン)改定に集団的自衛権行使を反映させたい、という焦りもあるが、行使容認に踏み切って米国への一方的な依存を是正し、『戦後レジーム脱却』の一歩にしたいというのが本音だろう。支持率の高い今やるしかないと、なりふり構っていられないのだろう」と皮肉る。

 伊藤さんは「改憲して行使を容認したいが、改憲要件を定めた96条を緩めようとしても世論の反発が強くうまくいかない。憲法解釈を変えればまた立憲主義の否定だと批判される。ならば最高裁判決だ、と。こんな猫の目のようなことをやっていては国民の視線はますます冷めてしまうでしょう」と手厳しい。

 歴代政権や法曹界が積み上げてきた見識とかけ離れた論理を展開する安倍政権。集団的自衛権行使が是か非か、という以前の問題ではないか。

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