自由貿易どころではない環太平洋自由貿易協定(TPP)/ザ・ガ-ディアン紙

2012-09-10 22:29:46 | 世界
自由貿易どころではない環太平洋自由貿易協定(TPP)
(by Dean Baker, 2012年8月27日投稿ザ・ガ-ディアン紙)

環太平洋経済連携協定(TPP)の草案は新たに特許の特権を与え、ネットの自由を制限す
る可能性があるが、これは秘密―多国籍企業のCEO以外には

「自由貿易」と言えばワシントンでは神聖な呪文だ。「自由貿易」のレッテルが貼られ
ていれば何であれ、ワシントン支配者集団の誰もがこれにひれ伏し、支持することを求
められる。さもなければ、お偉方リストから除名され、保護貿易主義ネアンデルタール
人の地に追放されてしまうからだ。

このことこそ、環太平洋経済連携協定(TPP)、つまり米国がオーストラリア、カナダ、
日本およびその他太平洋地域の8ヶ国と交渉中の協定で、今何が進行しているのかを理
解する上での根本的背景だ。本協定は「自由貿易」協定としてひと括りにされているた
め、ワシントンのご立派な方々は1人残らず、TPPを支持せざるを得ないのである。

実は、本協定は貿易とほとんど関係がない。本協定参加国間における実際の貿易障壁は
既に極めて低いからだ。TPPとは、諸条件を押し付けたり国内法に優先させたりするた
めに、この自由貿易という聖杯を利用しようという試みの1つ。しかもその方法は、通
常の立法化の過程で同様の対策案を通過させようとしたら、ほぼ不可能と思えるような
やり方だ。強大な企業の利益を並べ立てることにより、「のるかそるか(交渉の余地な
く受け入れるか、いやなら止めるか)」で、参加国政府がこの新たな「自由貿易」協定
を強引に議会通過させてくれることを期待しているのである。

本協定の目的は、この種の多国間協定ではご多聞に漏れず、徐々に領域を拡大していく
ことである。つまり、TPP先発参加国が受け入れる条件はすべて、太平洋地域のその他
の国々にも後に課せられる可能性があるし、さらには世界中の他の国々にも課せられる
可能性が大いにあるのだ。

現時点では、TPPの利点について議論することは不可能に近い。政府が草案を一般に公
開せず秘密にしているためだ。実際の文書にアクセスできるのは、交渉担当者と選りす
ぐりの企業家たちだけ。GE、ゴールドマン・サックス、ファイザー社の最高幹部たちは
、恐らく全員がTPPの関連セクションの草案を手にしているだろう。しかし、関連の米
連邦議会委員会の委員たちには、何が交渉されているのかいまだ教えられていない。

それでもこれまでに漏えいされたいくつかの事項が、TPPの進む方向について多少の洞
察を与えてくれる。本協定の一大焦点は、やはり知的財産権保護の更なる強化だろう。
レコード音楽や映画については、SOPA(オンライン海賊行為防止法案)の場合と同様の
規定を目にするかもしれない。それにより、グーグルやフェイスブックなどインターネ
ット媒介企業の他、実にウェブサイト開設者の誰もが、著作権侵害の監視員(コピーラ
イト・コップ)になってしまう可能性がある。

これらの法的措置は極めて不人気だったため、SOPAが独立した法案として通過すること
は、恐らくないだろう。しかし、包括的な協定と結びつき、「自由貿易」という聖水で
祝福されれば、娯楽産業は欲しいものを手に入れることができるかもしれない。

また、製薬産業も本協定から一大利益を上げられる可能性がある。製薬業界は、1995年
WTO協定に当業界が盛り込んだ特許規則の強化が充分ではない、と判断した。特許保護
のさらなる強化、特許保護期間の長期化、さらに「新薬データの独占権」の利用拡充を
狙っているのだ。競合企業である後発薬品メーカーは、大抵の場合14年間も、別の会社
による新薬の安全性と効能についての治験を基に市場に参入することが禁じられること
になってしまうだろう。これは政府に許可された独占権である。

著作権及び特許の保護の強化、そして新薬データ独占は共に、自由貿易と真逆であるこ
とに留意すべきである。これらは政府による市場介入の増大や競争の制限と関係し、消
費者には更なる価格高騰を招くことになる。

実際、著作権保護や特許保護に関わる費用は、つねに自由貿易主義者たちが懸念を示し
ている関税や割当制に関する費用をはるかに凌ぐ。後者の場合、製品価格を20~30%以
上引き上げることは滅多にない。しかし、ジェネリック医薬品として自由市場で5~10
ドルで売れる医薬品を、特許で保護された処方薬であれば、処方箋につき何百ドル、何
千ドルでさえ売れるようにできるのだ。特許保護は、米国の患者たちが薬に支払う代金
を年間2700億ドル近く(GDPの1.8%)も増大させる。薬を必要としている人たちに到底
手の届かぬものになってしまうことに加えて、こうした市場の歪みが暗示する経済的代
償は計り知れない

TPP協定には、同じく論争を呼びそうな条項が多数ある。TPPが創り出すルールは、環境
、労働現場の安全性、投資に関する国内法に優先することになるだろう。しかし言うま
でもなく、公的に入手可能な草案が手にはいらないため、詳細を語ることはなかなか難
しい。

本来なら、TPPはまさしく今秋の選挙で取り上げられるべき類の政策課題だ。投票者は
、米国および世界中の人々の医薬品の価格引き上げを支持する候補者に投票したいのか
、私たち皆をただ働きの著作権監視員に仕立てることを支持する候補者に投票したいの
か、決断する機会を持つべきである。しかしながら、選挙運動のなか、条文も議論もな
い―これこそ、儲ける側に立つ企業が望んでいることなのだ。

企業側の楽しみを台無しにする方法がひとつある。米国の団体ジャスト・フォーリン・
ポリシーはウィキリークスに対して、TPP草案のコピーを公表した場合、現時点で最
大2万1100ドル(※訳注:本記事の原文が書かれた時点の数字。2012年9月2日現在で2万
4455ドル)の報奨金を申し出ている。一般の人々も資金を提供して報奨金を増額するこ
とや、立場によっては、協定案のコピーを世界中の人々が入手できるようにすることが
可能だ。

政治指導者らはTPPの条文がテロリストたちの手に渡ることを恐れていると言うだろう
。しかし、私たちには本当のことがわかっている。政治指導者らが怖いのは、国民的議
論だ。そんなわけで、自由な市場が機能するのであれば、人々はきっと草案を見ること
ができるようになるはずである。
(翻訳:小幡詩子  監修:廣内かおり)

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http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2012/aug/27/pacific-free-trade-deal

The Pacific free trade deal that's anything but free(The Guardian)
The draft TPP deal may grant new patent privileges and restrict net freedom, but it's secret – unless you're a multinational CEO

Dean Baker
guardian.co.uk, Monday 27 August 2012 16.11 BST


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