竹島=独島問題、櫻井よしこ氏を批判する(2)/半月城

2005-04-10 19:54:36 | 世界
半月城です。前回に引きつづいて、櫻井よしこ氏の竹島=独島記事に対する批判を継続します。今回は近代以降を取りあげます。島根県の「竹島の日」条例は、1905年、竹島=独島を同県の管轄下におくという県告示100周年を機に制定されましたが、まずはその県告示にいたった当時の状況を簡単にみておきたいと思います。

  1904年に始まった日露戦争の帰趨は、日本海=東海における制海権をどちらが握
るのかにかかっていました。同海域において日本の輸送船はロシアのウラジオ艦隊に
しばしば沈められたので、劣勢の日本はウラジオ艦隊をいかに抑えるかが急務でし
た。
  そこで注目されたのが、鬱陵島と竹島=独島でした。同島に望楼を築き、ウラジ
オ艦隊の動きをさぐれば、日本は軍事的に有利になります。そんな時局のなかで漁夫
の中井養三郎からリャンコ島の「領土編入ならびに貸下願」が日本政府に出されまし
た。
  リャンコ島とは竹島=独島のことですが、当時は島名混乱のおかげで、竹島=独
島はその日本名が完全に消えてしまい、フランス捕鯨船にちなんだ西洋名のリアン
クール岩とか、リャンコ島とかよばれていました。

  中井の領土編入願いに対して、内務省は、戦争という時局に際し、韓国領の疑い
がある莫荒たる不毛の岩礁を収めたら、諸外国に日本は韓国併呑の野心があるのでは
と疑われるとして反対しました。
  それも自然な成りゆきです。同省は、鬱陵島と竹島=独島を「本邦に関係なし」
として、太政官の裁可を得ていたので、容易に賛成するはずはありません。

  ところが外務省の判断はちがっていました。戦争という「時局なればこそ その
領土(竹島=独島)編入を急要とするなり、望楼を建築し 無線もしくは海底電信を
設置せば 敵艦監視上 極めて届竟ならずや」として内務省を説得しました。
  明治政府内においてはこうした帝国主義者の意見がまさり、結局、竹島=独島は
「無主地」であり、中井養三郎の「移住」が国際法上の「先占」にあたると強弁して
領土編入を決定し「竹島」と命名する閣議決定をおこないました(注1)。
  ただし実のところ、竹島=独島は無主地ではないし、また中井の移住とは名ばか
りで、実はアシカ猟の季節ごとに風で破損するような菰(こも)ぶき小屋に寝泊まり
したというのが実態でした。

  この閣議決定は、政府の官報などには一切掲載されず、島根県へこっそり伝えら
れました。そして秘密裡にことを運ぶためか、韓国には一切伝えられませんでした。
小笠原諸島の場合には関係国と十分な協議をおこなったのと対照的です。閣議決定を
受けた島根県は「竹島」を同県の所管とする告示をおこないました。
  この経過に対して、櫻井よしこ氏は韓国側の意見、および日本人学者の反論をつ
ぎのように紹介しました。
       --------------------
週刊新潮<「竹島」領有権を検証する> 05.04.07
  韓国側は、日本が竹島を島根県に組み入れたのは、1905年で、その際、韓国を含
む他国が抗議しなかったから日本領だと主張するのは理不尽だ、なぜなら、韓国は前
年の二月に日韓議定書を、8月には第1次日韓協約を結ばされて外交権を剥奪されてお
り、発言できなかった状況だったからと主張する。

  米田教授はこの主張も誤りだと述べる。
「日韓議定書は韓国の外交権とは無関係です。第一次日韓協約によって日本が韓国の
外交権を管轄した事実はありません・・・
  ちなみに日本が韓国の外交権を管轄するのは1905年11月の第二次日韓協約以降、
竹島編入の9カ月後である。
       --------------------

  米田氏や櫻井氏の趣旨は、韓国は日本の竹島=独島編入に抗議できる状況だった
にもかかわらず抗議しなかったという点にあるようですが、狡猾にも竹島=独島編入
がこっそり行われた事実にはまったくふれませんでした。
  編入が政府レベルで公知されなければ、韓国はその事実を知るのは困難である
し、抗議のしようもありません。韓国が編入の事実を知らされたのは 1906年のこと
であり、その時は外交権を剥奪された第二次日韓協約以降でした(注2)。その時点
で日本に対する抗議は不可能です。
  なお、ささいな補足ですが、第一次日韓協約で日本は外交顧問としてスチーブン
を韓国へ送り込み、外交上の実権を掌握させていました。したがって、このとき韓国
は外交権を剥奪されないまでも、手足を縛られたも同然でした。米田氏の指摘はかな
らずしも妥当ではありません。

  米田氏はさらに「明治維新で近代国家に成長しようとしていた日本はあらゆる点
で国際法を重視しました。領土も国際法に沿って規定すべきだと考えて、日本領であ
る竹島を島根県に編入した」と書きましたが、これは疑問です。

  まず、竹島=独島は前回書いたように、日本の最高国家機関たる太政官が暗に韓
国領と認識したうえで放棄した島であり、しかも無主地ではないので、そうした地を
領土編入するのは「狼どもの国際法」にてらしても違法であることはいうまでもあり
ません。
  そもそも日本が編入しようとした島の名は「竹島」でなく「リャンコ島」でし
た。古来の日本名が失われ、外国名がつけられた島は、いわば領有意識がほとんどな
かった証拠ともいえますが、それでも強いて日本領というのはあまりにも我田引水が
すぎるのではないでしょうか。

  さらに、もし島根県のような一地方の告示が「狼どもの国際法」に沿うというの
なら、戦後、韓国の慶尚北道が竹島=独島に行政権をおよぼしたことも国際法に沿う
ので、日本はこれを認めるべきだというのでしょうか?
  しかも、そのとき日本は韓国の行政措置に何の異議も抗議もしませんでした(注
3)。当時、竹島=独島は連合国により日本領から切り離されていたのですが、その
連合国の措置、SCAPIN 677号に関しても日本は何の異議申し立てをおこないませんで
した。

  そうした事情をくわしくみることにします。1948年、韓国はアメリカ軍政庁の権
限を引きついで独立したのですが、それまで竹島=独島はアメリカ軍政庁の管轄下に
ありました。
  1946年、連合国総司令部(GHQ)は指令 SCAPIN 677号を発し、その第3項(a)
で竹島=独島や鬱陵島、済州島を日本の政治、行政区域から切り離しました。これは
最終決定ではないものの、連合国はこれらの島を韓国領と認識していたようです。

  そればかりか、GHQは漁業資源保護のためマッカーサーラインを引き、竹島=
独島へ日本の船が接近することを禁止しました。
  こうした一連の措置に日本はまったく異議を申し立てませんでした(注4)。こ
れはとりもなおさず、戦後の日本が竹島=独島を放棄したことを意味します。

  こうした史実を櫻井よしこ氏は一言半句も語りませんでした。そのかわり、唐突
に李承晩ラインについてこう書きました。
 「1952年1月28日、サンフランシスコ講和条約が発効される4月28日を前に、国際法
を無視した「隣接海洋の主権」を主張して、公海上に李承晩ラインを引き、その中に
竹島を入れてしまった」

  櫻井よしこ氏はマッカーサーラインを知ってか知らずか、それについての国際法
には云々せずに李承晩ラインだけを問題にしましたが、実は両者はほとんど同じでし
た。
  当時、日本漁船がマッカーサーラインを侵して拿捕(だほ)された漁船が 1951
年4月だけでも27隻にものぼるほど、日本は魚の確保に血まなこになっていました
(注5)。

  マッカーサーラインは講和条約の3日前に撤廃されましたが、その対策を韓国政
府がもし立てなかったら、日本漁船による漁業資源の乱獲は火を見るより明らかでし
た。韓国がマッカーサーラインを引きついで李承晩ラインを設定したのは、善し悪し
はともかく、漁業資源の 200カイリ時代を先取りしたものといえます。
  そのような歴史的背景を無視して櫻井氏のように一方的で偏った記述をおこなう
のは、いたずらに偏見をあおるだけです。

  こうした一方的な記述は、サンフランシスコ講和条約についても同様です。櫻井
氏は、記事で竹島=独島を韓国領として再確認することを要求した韓国の主張をアメ
リカが拒否した事実については詳細に書きましたが、同条約において日本の要求も最
終的には受けいれられなかった事実については記しませんでした。
  竹島=独島は、アメリカの第1-5次草案で韓国領とされましたが、第6次草案で
は日本のロビー活動の影響と、韓国「外務部の消極的政策と無為無能のために」日本
領とされました(注6)。
  しかし、条約はアメリカ一国の考えで決まるわけではなく、連合国の承認をうる
必要があります。その過程でイギリス案とのすりあわせがなされ、最終的には竹島を
日本領、韓国領のどちらにするわけでもなく、条約に竹島=独島は片言隻句も記され
ませんでした。ハボマイ・シコタン諸島と同様に、あいまいなままで締結されました
(注7)。

  この条約の解釈ですが、櫻井氏は韓国の見方をこう記しました。
 「韓国側は、サンフランシスコ講和条約には、竹島を日本領とするという記載がな
いために、日本は竹島を放棄し韓国の領土となった、と主張する」

  この記述は意図的なのか、すこし舌足らずです。これでは読者に韓国は飛躍した
論理をごり押ししているという印象を与えかねません。
  韓国の主張ですが、条約には独島を日本に編入するという積極的な規定がないの
で、SCAPIN 677号で同島を日本から分離した規定には何ら変更がない、さらに韓国は
独立を達成して以来、独島の管理統治を回復しており、そのような状態の下で対日平
和条約の該当事国から正式承認を受けていたとするものです。
  同時に韓国の基本的な言い分は、連合国のカイロ宣言やポツダム宣言を引きあい
に出した下記の文に集約されます。
       --------------------
  連合国の日本領土処理に関する基本方針は、日本領土を清日戦争以前の状態に戻
そうとしたことが明らかであり、1905年に日本が韓国政府に外交顧問を派遣しておい
て、島根県告示という一地方自治団体の告示で編入した独島の取得は、まさしく「暴
力と強力(ごうりき)によって奪取」したものであることが明白であるから、日本
は、当然にかかる地域から駆逐されなければならない(注8)。
       --------------------

  これにつけ加えるならば、韓国やソ連はサンフランシスコ講和条約の非調印国で
あり、そうした立場の国が同条約により著しい不利益を強制されることはありえませ
ん。
  したがって、韓国やソ連が SCAPIN 677号にもとづいて、竹島=独島やハボマイ
・シコタン諸島を継続統治している現状は、サンフランシスコ講和条約によって影響
されるものではありません。
  ただし、両者のちがいですが、ソ連の場合はそれらの島に歴史的な領有意識を
もっていないのに対し、韓国の場合は官撰書などで歴史的に韓国領と考えてきたとい
う点です。

  これまで二回にわたり、櫻井よしこ氏を批判してきましたが、その中で感じるの
は、同氏は数人の根拠薄弱な意見のみを聞き、それ以外の研究者や韓国政府がどのよ
うな主張や反論をしているのかについてほとんど検証しようとしないことです。
  要するに、必要最小限の資料すら調べず、一部論者の意見のみをつなぎ合わせて
「検証」と称するのは、少しおこがましいのではないでしょうか。一部論者の我田引
水的な主張のみをコピーしたのでは問題の方向を大きく見失うのが常です。
  櫻井よしこ氏には、もう少しきちんと勉強されるよう望みたいと思います。

(注1)半月城通信<竹島=独島の軍事的価値>
http://www.han.org/a/half-moon/hm095.html#No.6984
(注2)半月城通信<竹島=独島編入にたいする反発>
http://www.han.org/a/half-moon/hm095.html#No.697
(注3)半月城通信<韓国独立と竹島=独島対応>
http://www.han.org/a/half-moon/hm104.html#No.759
(注4)半月城通信<竹島=独島と連合国指令>
http://www.han.org/a/half-moon/hm096.html#No.702
(注5)半月城通信<李ラインの経緯>
http://www.han.org/a/half-moon/hm087.html#No.604
(注6)「愼廈教授の獨島問題100問100答」(韓国語)『新東亜』2000.5月号
   半月城通信<愼廈教授の独島百問百答>Q93
http://www.han.org/a/half-moon/hm104.html#No.760
(注7)半月城通信<対日講和条約草案>
http://www.han.org/a/half-moon/hm096.html#No.703
(注8)塚本孝「竹島領有権をめぐる日韓両国政府の見解」『レファレンス』2002.6,
P65

半月城通信

最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (通りすがり)
2005-04-11 01:03:31
国際司法裁判所の判例では中世の文献は領有権の証拠として認められていません(間接的推定は無効とされています)。

当時の国際法では領土の編入に他国への公示は必要ありませんし、日本の竹島の自国領編入に基づく諸々の実行支配措置に朝鮮が気がつかなかったとすれば、そもそも朝鮮が竹島を実効支配してなかったという証拠になります。

さらにcapin677 は、6項により自ら領土規定ではないことを明確にしています。そして連合国は、政策決定機関である極東委員会も含め、連合国最高司令官に領土調整権限を与えておりません。
Unknown (通りすがり)
2005-04-11 01:22:41
于山島の地図表記と架空の島「流山国島」

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jphoto/read.php?id=enjoyjapan_13&nid=43416&work=search&st=writer&sw=oppekepe7&cp=2



竹島の編入通知義務

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jphoto/read.php?id=enjoyjapan_13&nid=32597&work=search&st=writer&sw=oppekepe7&cp=3



SCAPINとサンフランシスコ条約と竹島

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jphoto/read.php?id=enjoyjapan_13&nid=27606&work=search&st=writer&sw=oppekepe7&cp=4



竹島の領域権原

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jphoto/read.php?id=enjoyjapan_13&nid=27472&work=search&st=writer&sw=oppekepe7&cp=4



韓国人は権利と権原の区別さえできない。

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jphoto/read.php?id=enjoyjapan_13&nid=44374&work=search&st=writer&sw=oppekepe7&cp=1
ご参照ください。 (通りすがり)
2005-04-11 01:24:17
于山島の地図表記と架空の島「流山国島」

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jphoto/read.php?id=enjoyjapan_13&nid=43416&work=search&st=writer&sw=oppekepe7&cp=2



竹島の編入通知義務

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jphoto/read.php?id=enjoyjapan_13&nid=32597&work=search&st=writer&sw=oppekepe7&cp=3



SCAPINとサンフランシスコ条約と竹島

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jphoto/read.php?id=enjoyjapan_13&nid=27606&work=search&st=writer&sw=oppekepe7&cp=4



竹島の領域権原

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jphoto/read.php?id=enjoyjapan_13&nid=27472&work=search&st=writer&sw=oppekepe7&cp=4



韓国人は権利と権原の区別さえできない。

http://bbs.enjoykorea.naver.co.jp/jphoto/read.php?id=enjoyjapan_13&nid=44374&work=search&st=writer&sw=oppekepe7&cp=1
Unknown (通りすがり)
2005-05-10 20:18:23
>韓国「外務部の消極的政策と無為無能のために」日本領とされました



とありますが、実際は講和条約の草案に日本が放棄する領土に竹島を挿入すべく韓国政府はアメリカに働きかけてます。ラスク書簡により最終的に韓国の領有権原の主張は否定されました。講和条約で規定している日本が放棄する領土に竹島が含まれていないのは竹島が日本の領土だからに他なりません。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。