福島原発事故=調査委「中間報告」の責任問題回避を許さない/Gさんの政経問答ブログ ほか

2011-12-28 17:55:29 | 社会
12月26日、政府の事故調査・検証委員会の「中間報告」が公表された。関係者456人からの聞き取りを行ったとのことで、資料を含め700ページを越える膨大なレポートだ。だがそれは、以下の3点で根本的な欠陥を持つ。

①事故原因を津波にしぼり、政府・東電の「想定外の事故」という言い分に半ば妥協している

②政府の対応の混乱など事故拡大要因も列挙はしているが、全体的に要因分析が狭い

③「聞き取り重視」という手法を隠れ蓑に、事故の責任問題に踏み込むことを回避している

実は私は、委員長が畑村洋太郎であることに関心をもち、「中間報告」の内容にそれなりの期待を持っていた。なぜなら仕事の関係で彼の著書『失敗学のすすめ』(注1)を読んだことがあり、参考になる点が多かったからだ。だが今回の報告は、彼の著書の内容も裏切っていると言わざるをえない。

●地震による配管破断の事実を隠ぺいした「中間報告」

 事故原因に関しては、東電は「中間報告」発表を前にして、事故の直接的原因は13メートルに及ぶ津波だったと発表していた。これに対し委員会の大勢は地震説だったという(12/8、ルモンド紙)。吉岡斉委員は、「仮に津波への防御があったとしても、何も問題が起こらなかったと証明する事実は何もない」と述べている。また田中三彦委員は、事故現場の技術者の水位と圧力に関する生データをベースに、配管系の損傷と冷却水の喪失の可能性を主張していた(注2)。この「可能性」は、後に配管損傷レベルと冷却水喪失スピードのシミュレーションで確かめられた。保安院も「配管の損傷の可能性」を認めていた。ところがこの地震説は、「中間報告」公表の1週間前に「踏み込んだ判断を見送る」こととなり(12/19、中国新聞)、そして結局、なんらの判断も「中間報告」には見当たらないことになったのである。

いま電力各社からストレステストの報告が上がっており、年明けにはIAEAが来日してストレステストの判断を「オーソライズ」する目論見が進んでいる。また原発立地自治体の3月議会では、原発再稼働への判断が問われることになろう。そのタイミングで地震説が消え去ったことは、まさに「政治的判断」というしかない。「中間報告」では、スリーマイルやチェルノブイリの事故後のことに触れている。安全委員会は92年、「過酷事故対策」の導入を決めたが、発生の可能性は小さいと電力会社の自主対策に委ねた。地震などの「外的事象」は対策手法が未確立と、対象にさえしなかったのである。「中間報告」はそれを批判しつつ、再びこの轍を踏もうとしている。そして過酷事故を津波被害にしぼり、さらに「非常用冷却だけは守れるようにするのが工学的に適した設計」と問題を矮小化するのである。「中間報告」は、当事者の「(設計基準を越える自然災害を)想定しはじめるときりがない」という証言を採録しているが、それはエンジニアの「認識の甘さ」の問題ではない。その背後には、政府の原発推進の戦略、資本の原発の経済性確保の意図がある。地震説の放棄と矮小な工学論議は、「中間報告」の政治的・経済的そして技術的な屈服を象徴していると言わざるをえない。

●事故の要因を狭く切りちぢめた「中間報告」

委員会は原子炉自体の技術者を含まなかったことから、当初「事故原因にテクニカルに踏み込めるのか」という危惧が表明されていた。畑村氏の仕事も、技術そのものというよりは技術管理の分野に属する。それにもかかわらず私はさきほど、畑村委員長にそれなりの期待感を持っていたと述べた。なぜなら彼は、『失敗学のすすめ』のなかで「失敗原因の階層性」を力説し、下図のような概念を与えていたからである(P63)。それは事故の究明にあたり、個々人に責任や組織運営上の問題に止まることなく、企業組織・政府・社会システムにまで原因を深く掘る必要性を論じている。また「未知への遭遇」(地震・津波などによる過酷事故)に際しては、すべてを止めて一から技術開発をやり直すこと、またはすべてを放棄することを求めている。

このような概念は企業でいまかなり一般化されており、それにもとづき例えば技術開発の場面では通常、FTA(Failure Tree Analysis)という手法で事故要因の洗い出しと真因の究明が行われる(注3)。その全項目に対し是正措置が定められ、実行が確認されなければ対策は終了しない(注4)。ところが「中間報告」は、6つの層のうち「個々人に責任のある失敗」と「組織運営不良」のレベルを論ずるだけで、「企業経営不良」以上の層にはほとんど手をつけていない。そして地震については一方で「未知への遭遇」の層に棚上げしつつ、すべてを止めて一からやり直す、すべてを放棄するという義務をネグレクトしているのである。

●「聞き取り重視」を言い訳にした「責任追及」の欠落

この中途半端さはどこから来るのだろうか? 畑村氏は「失敗の当事者から話を聞きだし、その失敗を知識化するときのコツ」について、「一番大切なのは、聞き手がいっさい批判をしないことです」と述べている(P134~135)。原因の究明に当たり、この聞き取りの「コツ」は必要かつ有効である。だが是正措置の決定や実行(何故、誰が、何を、どこで、何時までに、いくらかけて)に当たっては、責任の所在が明確になる必要がある。この「下向」と「上向」のプロセスがなければ、実際に原発(とその事故)を無くすことができない。しかし委員会は、個々に問題を指摘するだけで責任の所在を明確にすることがない。そしてこれは、事故の要因を狭く切り縮めることと関連している。なぜなら失敗原因の上級階層において責任を追及することは、政治的・経済的・社会的な、歴史的に形成・蓄積された「力」を追及することになるからだ。また畑村氏の学問的な目的が「失敗を知識化する」ことであることにも関連している。それはせいぜい、個人や組織が二度と失敗を繰り返さないために参照するデータベースの構築にすぎず、そもそも責任概念や原発を無くす/無くさないという判断からは遠くにあろうとしているのである。

畑村創造工学研究所は「失敗知識データベース」を公開している(注5)。そのなかで「原子力」の分野では31事例があるが、その約3分の1にあたる10件が様々な要因による配管の損傷と冷却材の漏えいだ(そこからの2次災害の火災を加えると11件)。これだけの「知識化」が行われながら、「中間報告」から地震説が消え、配管損傷による冷却水喪失の推定を無視したことは、畑村氏の破産を意味している。

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「中間報告」は、ストレステストや再稼働の動きに対する闘いと並行しながら、徹底的に批判されていく必要があるだろう。私たちは、原発事故の原因と運動の課題を広く見極め、あらゆる責任者を継続的に追及することで、すべての原発の停止と廃炉を目指していきたい。次の闘いのヤマは来年の3/11、原発事故勃発の1周年の日である。
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(注1)講談社刊。最初はハードカバーで出版されたが、05年に文庫版が出た。引用は文庫版による

(注2)雑誌『科学』9月号、「福島第一原発1号機事故・東電シミュレーション解析批判と、地震動による冷却材喪失事故の可能性の検討」。なお『科学』9月号は品切れとなっている

(注3)関連して、http://yo3only.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-eeaf.html 参照

(注4)福島原発事故緊急会議では、いま反/脱原発運動の全課題を整理する(マトリクス作成)を行っているが、その前提となるのはFTAである

(注5)http://www.sozogaku.com/fkd/index.html 参照

Gさんの政経問答ブログ

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関連記事
中間報告の全文は、以下のサイトから見ることができます。
http://icanps.go.jp/post-1.html
時間の余裕がない方は、以下の毎日新聞の要約が便宜です。
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111227k0000m040007000c.html

この中間報告については、各新聞の論調は、好意的であるものの、厳しい注文がついているのが特徴です。
 以下の毎日新聞、朝日新聞、読売新聞、福井新聞、新潟日報の社説・論説を御検討くださいhttp://blog.livedoor.jp/ryoma307/archives/5610182.html
http://blog.livedoor.jp/ryoma307/archives/5610170.html
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20111226-OYT1T01384.htm
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/editorial/32232.html
http://www.niigata-nippo.co.jp/editorial/20111227.html

京都大学の小出裕章さん
http://blog.livedoor.jp/amenohimoharenohimo/archives/65782475.html

地震の影響の分析については、事故調は及び腰であるというスクープが中国新聞によって既になされていました。
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201112190110.html
 事故調は、地震の影響の分析に踏み込まない理由として「現場の調査ができていない」ことを挙げていますが、2006年の耐震設計審査指針の基準及び審査の問題点は、必ずしも現場に行かなくても判断可能ですから、やっぱり「及び腰」であると言わざるをえません。この地震の影響の分析にどれだけ踏み込めるかが、事故調の成功と失敗を決めることになるでしょう。(インターネットなどでは、原発事故の原因を津波だけに求める津波説は、あまり見かけませんが、「実務の世界」では圧倒的影響力をもっており、それがストレステストの最大の「理論的根拠」となっています。津波説が事故調に大きな影響を及ぼしているのではないか、だから事故調が及び腰なのではないかと推認することも可能ではないかと思います。田中三彦氏の最近の論稿「ストレステスト以前の重大問題を問う」『世界』2012年1月号、も参照してください。)

 現在、上記の「事故調査・検証委員会」以外にも、国会直属の「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(委員長=黒川清・元日本学術会議会長)が活動を開始しています。この委員には、上記の田中三彦氏や地震学者の石橋克彦氏も参加しています。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20111220-OYT1T00106.htm
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20111201k0000m010079000c.html

また、純粋の民間機関として、福島原発事故独立検証委員会(俗称:民間事故調)も活動を開始しています。
http://rebuildjpn.org/fukushima/infobox
http://mainichi.jp/select/opinion/hito/news/20111214k0000m070119000c.html

「理解得られれば再稼働」枝野経産相 ストレステスト視察で発言
http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/111227/wec11122720080010-n1.htm



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