中国には、裁判を経ずに、警察などの判断だけで最長4年間、市民を勾留できる労働教養制度がある。
今も政府に批判的な多くの市民が収容され、強制労働を科せられている。
中国内には問題点を指摘する声もあるが、当局の重要な治安措置とされ、制度廃止の見通しはない。
元収容者らからその実態を聞いた。(北京・古谷浩一)
北京の外資系企業のキヤリアウーマンだった野靖環さん(57)は2007年3月、北京市中心部の中国中央テレビの
前にいた。
投資をした会社の倒産処理をめぐり、仲間15人と政府への抗議デモを行うためだった。1
5分ほど過ぎた時、警官に連行された。
何度もそこで抗議デモをしていた。毎回、デモの時間を警察に伝え、この日も自宅から警官が同行したので、連行
は意外だった。
リーダー格とみられた野さんだけが刑事拘束され、拘置所に送られた。
裁判もなく、容疑事実さえ分からない。
4月になって、「社会秩序を乱した」として1年9カ月の労働教養所行きを宣告された。
「警察は取り調べで罪を認めれば釈放すると言った。でも、私は(何の罪かも分からず)認めなかった。
起訴できないから、労働教養になったのだろう」
移送されたのは同市郊外の施設だった。
その日、入所した女性は計7人。
看守に当たる「隊長」と呼ばれる職員は「しゃがめ」と命じた。
全員、髪を短く切られた。
窓に鉄格子のある部屋に収容された。二段ベッドが六つあり、定員は12人。
最も若いのが「売春」の16歳、年長者には、当局が非合法化した「法輪功」の70歳のお年寄りもいた。
監視カメラがあり、窓際とドアに1メートル以上近づくことは許されなかった。
翌朝、顔を洗う際、髪の毛が首筋についていたので、水でふこうとすると「いつ首を洗うことを許可したのか」と
怒鳴られた。改めて許可を求めたが、認められなかった。
「罪人でもないのになぜこんな目にあうのか。ひたすら服従を強いることで、人間としての尊厳を徹底的に打ち砕く
やり方だった」
トイレを使うのは午前が6時、10時、午後が2時、6時の1日4回。うち午前6時は大便は許されない。
これ以外の時間の使用は許されず、大便を漏らしたこともあった。
起床は朝6時。夜10時の消灯まで、1回15分の食事時間を除くと、残り時間のほとんどは労働作業だった。
割りばしを袋に入れる単純作業で1日のノルマは1人1万個。
納期が迫ると、深夜0時まで続いた。ノルマをこなせないと睡眠を削り、報酬はなかった。
隊長の怒りに触れると、白壁の前に座り続ける罰を受けた。起床から就寝まで発言や身動きは許されず、食事も
そのままの格好。別の収容者2人が両脇を囲み、見張った。
08年12月、釈放された。59キロだった体重は43キロに。
精神に異常をきたさなかったのは「歴史の証人」になろうと心に決めたからだったと思う。
勾留された1年9カ月を約300ページの文章にまとめた。
出版したいが、中国内で出版先が見つかるあてはない。
中国東北地方に住む女性(47)は04年から1年間、収容された。
理由は「政府機関の正常な業務を邪魔した」というものだった。
女性は自ら勤務する政府機関に腐敗行為があると匿名で訴えていた。
同室者は約30人。連帯責任を負わされた。
収容者は身の回りの品を所持できず、業者から買う。同室者同士のけんかがあると、業者の立ち入りが禁じられた。
月経が来てもナプキンを買えず、血だらけになったという。
女性は「刑務所よりひどい。人権などどこにもない地獄だ。もう二度とあんな経験はしたくない」
と振り返った。
労働教養制度
行政機関である各地方政府の労働教養管理委員会が、裁判や弁護士の弁護なしに収容を決定できる制度。
同委員会は事実上、警察当局が運営している。
「深刻な違法行為だが犯罪とは言えない行為や、軽微な犯罪行為」が対象。
勾留期間は3年以下だが、1年間の延長が認められる。
決定が不服なら、行政訴訟を起こすしかない。
ただ、家族や弁護士との面会が認められないケースもあるほか、警察と裁判所を指導する共産党の担当部門は
同じなので、身内の決定を覆すような判断は出にくいのが実情だ。
350カ所16万人収容 08年
中国政府の資料によると、08年末の時点で労働教養所は全国に約350カ所あり、収容者は16万人に上るという。
労働教養の問題点を訴える元弁護士の江天勇氏は、政府に対する抗議デモや「上訪」と呼ばれる直訴行為をする
人々が、労働教養所送りにされるケースが増えていると指摘する。
地方の役人や警官にとっては北京に上訪され、自らの問題を提起されると都合が悪いからとみられる。
「警察にとって、こんなに使い勝手のいいものはない。『社会秩序を乱した』といった極めてあいまいな理由で、
裁判もなく、政府に文句をいう人は誰でも勾留される。早急に撤廃すべきだ」と話す。
一方、政府系シンクタンクの中国社会科学院の劉仁文教授は、「改革の必要性ではみなが一致している。
ただ中国の刑法には(犯罪を犯す恐れのある者を収容するような)『保安処分』の規定がない。
法治の要求にあった何らかの方法が必要だ」と話す。
保安処分の対象は、罪を犯す恐れのある麻薬常用者らを指すという。
国会に当たる全国人民代表大会では、この制度を改革する「違法行為教育矯正法」の立法化が検討されている。
しかし、運用面の改革にとどまり、制度廃止を求める動きにまではなっていない。
背景について、ある法律関係者は、1999年に法輪功のメンバーが政府・党の中枢機関がある北京の中南海を囲む
大規模な座り込みをした事件をあげる。
「これを機に政府による制度廃止への動きはピタリととまった」という。
国際人権団体などは制度自体を厳しく批判するが、ある当局者は言い切る。
「労働教養制度は、まだ、その存在意義が十分にある」
*2010.9.24朝日新聞
労働教養制度 廃止を求める声―民間から湧き上がった反対の声
労働矯正制度廃止要求 300人超が連署=中国/大紀元
http://www.epochtimes.jp/jp/2010/08/html/d63797.html
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今も政府に批判的な多くの市民が収容され、強制労働を科せられている。
中国内には問題点を指摘する声もあるが、当局の重要な治安措置とされ、制度廃止の見通しはない。
元収容者らからその実態を聞いた。(北京・古谷浩一)
北京の外資系企業のキヤリアウーマンだった野靖環さん(57)は2007年3月、北京市中心部の中国中央テレビの
前にいた。
投資をした会社の倒産処理をめぐり、仲間15人と政府への抗議デモを行うためだった。1
5分ほど過ぎた時、警官に連行された。
何度もそこで抗議デモをしていた。毎回、デモの時間を警察に伝え、この日も自宅から警官が同行したので、連行
は意外だった。
リーダー格とみられた野さんだけが刑事拘束され、拘置所に送られた。
裁判もなく、容疑事実さえ分からない。
4月になって、「社会秩序を乱した」として1年9カ月の労働教養所行きを宣告された。
「警察は取り調べで罪を認めれば釈放すると言った。でも、私は(何の罪かも分からず)認めなかった。
起訴できないから、労働教養になったのだろう」
移送されたのは同市郊外の施設だった。
その日、入所した女性は計7人。
看守に当たる「隊長」と呼ばれる職員は「しゃがめ」と命じた。
全員、髪を短く切られた。
窓に鉄格子のある部屋に収容された。二段ベッドが六つあり、定員は12人。
最も若いのが「売春」の16歳、年長者には、当局が非合法化した「法輪功」の70歳のお年寄りもいた。
監視カメラがあり、窓際とドアに1メートル以上近づくことは許されなかった。
翌朝、顔を洗う際、髪の毛が首筋についていたので、水でふこうとすると「いつ首を洗うことを許可したのか」と
怒鳴られた。改めて許可を求めたが、認められなかった。
「罪人でもないのになぜこんな目にあうのか。ひたすら服従を強いることで、人間としての尊厳を徹底的に打ち砕く
やり方だった」
トイレを使うのは午前が6時、10時、午後が2時、6時の1日4回。うち午前6時は大便は許されない。
これ以外の時間の使用は許されず、大便を漏らしたこともあった。
起床は朝6時。夜10時の消灯まで、1回15分の食事時間を除くと、残り時間のほとんどは労働作業だった。
割りばしを袋に入れる単純作業で1日のノルマは1人1万個。
納期が迫ると、深夜0時まで続いた。ノルマをこなせないと睡眠を削り、報酬はなかった。
隊長の怒りに触れると、白壁の前に座り続ける罰を受けた。起床から就寝まで発言や身動きは許されず、食事も
そのままの格好。別の収容者2人が両脇を囲み、見張った。
08年12月、釈放された。59キロだった体重は43キロに。
精神に異常をきたさなかったのは「歴史の証人」になろうと心に決めたからだったと思う。
勾留された1年9カ月を約300ページの文章にまとめた。
出版したいが、中国内で出版先が見つかるあてはない。
中国東北地方に住む女性(47)は04年から1年間、収容された。
理由は「政府機関の正常な業務を邪魔した」というものだった。
女性は自ら勤務する政府機関に腐敗行為があると匿名で訴えていた。
同室者は約30人。連帯責任を負わされた。
収容者は身の回りの品を所持できず、業者から買う。同室者同士のけんかがあると、業者の立ち入りが禁じられた。
月経が来てもナプキンを買えず、血だらけになったという。
女性は「刑務所よりひどい。人権などどこにもない地獄だ。もう二度とあんな経験はしたくない」
と振り返った。
労働教養制度
行政機関である各地方政府の労働教養管理委員会が、裁判や弁護士の弁護なしに収容を決定できる制度。
同委員会は事実上、警察当局が運営している。
「深刻な違法行為だが犯罪とは言えない行為や、軽微な犯罪行為」が対象。
勾留期間は3年以下だが、1年間の延長が認められる。
決定が不服なら、行政訴訟を起こすしかない。
ただ、家族や弁護士との面会が認められないケースもあるほか、警察と裁判所を指導する共産党の担当部門は
同じなので、身内の決定を覆すような判断は出にくいのが実情だ。
350カ所16万人収容 08年
中国政府の資料によると、08年末の時点で労働教養所は全国に約350カ所あり、収容者は16万人に上るという。
労働教養の問題点を訴える元弁護士の江天勇氏は、政府に対する抗議デモや「上訪」と呼ばれる直訴行為をする
人々が、労働教養所送りにされるケースが増えていると指摘する。
地方の役人や警官にとっては北京に上訪され、自らの問題を提起されると都合が悪いからとみられる。
「警察にとって、こんなに使い勝手のいいものはない。『社会秩序を乱した』といった極めてあいまいな理由で、
裁判もなく、政府に文句をいう人は誰でも勾留される。早急に撤廃すべきだ」と話す。
一方、政府系シンクタンクの中国社会科学院の劉仁文教授は、「改革の必要性ではみなが一致している。
ただ中国の刑法には(犯罪を犯す恐れのある者を収容するような)『保安処分』の規定がない。
法治の要求にあった何らかの方法が必要だ」と話す。
保安処分の対象は、罪を犯す恐れのある麻薬常用者らを指すという。
国会に当たる全国人民代表大会では、この制度を改革する「違法行為教育矯正法」の立法化が検討されている。
しかし、運用面の改革にとどまり、制度廃止を求める動きにまではなっていない。
背景について、ある法律関係者は、1999年に法輪功のメンバーが政府・党の中枢機関がある北京の中南海を囲む
大規模な座り込みをした事件をあげる。
「これを機に政府による制度廃止への動きはピタリととまった」という。
国際人権団体などは制度自体を厳しく批判するが、ある当局者は言い切る。
「労働教養制度は、まだ、その存在意義が十分にある」
*2010.9.24朝日新聞
労働教養制度 廃止を求める声―民間から湧き上がった反対の声
労働矯正制度廃止要求 300人超が連署=中国/大紀元
http://www.epochtimes.jp/jp/2010/08/html/d63797.html
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